夢想曲1

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目に映ったのは広間の天井と、なんとも形容しがたい表情をして床を見つめる宮地さんだった。

……何で宮地さんに抱えられてるのとか後悔だらけの表情してるのとか分からないけど、とりあえず…



「お通夜かッッ!!!」

「「「!!?」」」

「雨倉!?」

「双葉ちゃん!?良かった、目が覚めたんだな俺のエンジェ……いったァァァア!!?お前殴るの好きだな!?」

「ウゼェからだろ」

「笠松まで!?」

「そんな感じだ。騒いだらパイナップル投げんぞ」

「此処にパイナップルはないぞ宮地」

「知ってるよ!!!俺そんな馬鹿じゃねぇーから!笑うな高尾!!帰ったら纏めて轢く!!!」



そんなやりとりを見て、ぼんやりと戻ってきたんだなぁと思った。

そして愛依ちゃんの母親が言っていた鈴のことを忘れないうちに誰が持っているか尋ねると赤司くんが持っているようだった。


起き上がってソファに座りなおすと皆がこっちを見ていたのでまずは謝る。



「えーっと、お騒がせしてすみませんでした?」

「もう頭痛くない…?大丈夫?無理しないでね?」

「大丈夫だよ桃井ちゃんで癒された。心配かけてごめんなさい!もう平気です!あと記憶戻りました!」

「少し休憩を入れてから話すか?」

「ううん、鮮明に覚えてるうちに話しとくよ。自己解釈したところもあるけど…」

「そういや、さっき何で鈴のこと聞いたんだよ」

「鈴のことについても分かったからね。ちゃんと全部話すよ」



そう言って頭が痛くなってから見たこと、愛依ちゃんの様子、母親のこと、鈴のことを話した。

全て話し終えた時には皆なんとも言えない、言い表せないような表情をしていた。


人が勘違いをしてしまったとき、その時に弁明すれば誤解は解けるだろう。

だけど、忙しくてロクに話せなかったり後に回してしまうと悪い方向へしか思考しない。


つまり、一度のチャンスを逃してしまうと勘違いは更に拗れてしまい弁明しても信じてもらえなくなる。


愛依ちゃんの両親は生計を立てる為に仕事で一杯一杯でそのチャンスを逃してしまったんだ。

それに付け加えて愛依ちゃんは賢い。だから気のせいだと済ませたくても思考が巡り巡ってしまう。

結果、少しの誤解から大きな勘違いへ発展していってしまい弁明しないことからそうなのだと事実だと思ってしまう。



「色々と物事を深く考えてまう人間やからこその勘違いやな」

「人の行動一つで誤解を与えたり与えられたりしてしまいますからね」

「人の心理も完全に解明されているわけでもないから仕方がないと言えば仕方がないが…」

「だからね、あの扉の前で愛依ちゃんの名前を言って、本人に会えたら誤解を解くことが先決だと思うの」

「…でも、誤解を解くこと以外にも言葉をかけてあげなきゃいけないんじゃないかい?」

「?どういうことだよタツヤ。勘違いだったって言えばいいんだろ?」


「氷室さんの言う通りなのだよ。全ては四月一日愛依の勘違いだった、とだけ伝えてみろ。

今まで自分がしでかしてきたことや先走った行動を振り返ってどう思う?惨めでしかない。

それで自分を追い込んで、最悪俺たちは此処で死ぬかもしれない、帰れないのかもしれないのだよ」


「つまり…勘違いだったって伝えることと、メンタルケアをしなきゃなんないワケね」



今吉さんや黒子くん、赤司くんが言った通り人は化学や心理学で簡単に証明されるほど単純じゃない。

だからこそ相性が合う合わないがあって、自身とは違う人に新鮮味を覚えて仲良くなっていく。

人が皆同じ顔だと気持ち悪いのと同じで同じ性格や考え方だと余計気味悪さが際立ってくる。


緑間くんの言った言葉に再び考え込む。

メンタルケアするにしても、事実を知った愛依ちゃんがどうなるか分からないんだよなぁ…。



「…メンタルケアは、親交があり母親とも話し本人に一番話を聞いてもらえそうな雨倉さんじゃないか?」

「はい…でも、納得してもらえるか………助けれる、かな…」

「……、雨倉」

「?なんです……いったぁぁあい!!?」

「宮地サン!?ちょ、雨倉ちゃん頭痛酷そうだったのに!」


「うるせぇ構うか。お前、助けたいって思ったんだろ?言ったんだろ?

お前が不安になるんじゃねぇよ、やるって決めたんならやり通せ!無茶だってしてきた奴が弱音吐くんじゃねぇ!!

メンタルケアするのは雨倉だけだとしても一人だけじゃねぇだろ俺らもいるんだよ。

一番肝心な雨倉自身の支えを忘れてんじゃねぇよ。此処に居んのはお前だけか?あ?」


「…っ違う…皆、いる!私だけじゃない…っ」

「いいか、お前は自分だけを信じてあのクソガキに本心をぶつけろ。じゃなきゃ轢くぞ」

「…はいっ!」



宮地さんにチョップをかまされて文句を言おうとしたらそんなことを言われた。

そんな事言われたら頼もしくて、支えがあると改めて認識させられて、大きな声で返事するしかないじゃん。


私が大きな声で返事すると花宮さんはため息をついていたけど、他の皆は柔らかい表情をしていた。

主将も春日先輩も、坂本先輩、大室先輩、津川も少し呆れたように当たり前だ。という顔をしていた。



「さて、雨倉の決心も着いたようだし……そろそろ行こうか」

「あ゛ー…やっと終わんのかぁ?長かったな」

「青峰っちそんなこと言っちゃダメっスよ!これからが本番なんスから!」

「もーいいから早く終わらそうよ。お菓子なくて最悪なんだけど」

「全く…お前はいつまでその調子でいるつもりなのだよ」

「まぁまぁ、それがむっくんなんだし落ち着こ?ミドリン」

「黄瀬くんの言う通りですよ。気を引き締めていきましょう」


「…え、それで?俺らは特になんもしなくていいのか?ですか?」

「時と場合によるよな」

「まぁ火神が何か言うにしろ逆効果になったら怖いしなー」

「まぁまぁ、俺たちは何もしないとしても雨倉の支えになるんだしな」

「そうよ。バスケでもベンチで支えてくれてる仲間がいるのといないのとじゃ大違いでしょ?それと同じよ」


「終わるのはいいが…来る時と同じ所で目が覚めるのか時間が進んでるのか」

「確かに!!!気にな(り)ますよね!」

「でも空腹を感じることもないですし進んでない可能性の方が大きいですよね」

「あっ今の内に双葉ちゃんのメアド聞いて出たあとも会えるように…」

「する暇ねぇから。しばくぞ」


「あーあ、宮地サンかっこいいこと言っちゃってー」

「はあ?無茶する割に決心なよなよだから叩き上げただけだよ」

「無自覚でやるところが宮地のいいところだからな」

「だからってやっていいとも言い切れないけどな。厳しすぎず、だな」


「この窮屈なところからやっと出れんのか」

「いやー時間的にどんくらい経っとんのか気になるわぁ」

「でもっ雨倉さんは最初から全力でやって来たみたいですし、何か協力できることがあるなら…」


「青春じゃな…」

「その顔で言うと一層ジジクセぇぞ」

「アゴリラだからそんなことも考えてないアル」

「俺も助っ人になれるなら是非協力したいね」


「お熱い青春物語かよ」

「うわ花宮すげぇ顔してる」

「んでザキは袖まくってやる気満々っていうね。見てて高ぶらされたの?あぁそう」

「何も言ってねーのに完結させんな!」

「帰れるならそれでいいだろう」


「はーっ最終局面!?なんっかテンション上がってきた!」

「帰ったらたらふく牛丼食うか!」

「だからなんでアンタたちはそんななのよ!もう!」

「どうでもいいが早くしろ」


「雨倉が岩村に秒速で会いに行くに100ペリカ」

「電話するに100ペリカ」

「家に突撃しに行くに150ペリカ」

「…スタメン皆集めてはしゃぐに200ペリカ!」

「賭けをするな馬鹿ども。注意して行くぞ」


「…よっし!待っててね愛依ちゃん。ぜーったい助けてみせるかんね!」


そう言って広間を出て、地下に通じる部屋まで全員で向かった。

大きなドアの前に立ち、深呼吸をする。大丈夫、私は一人じゃない。皆がいる。信じろ。きっと助けてみせる。


「すー…はー………四月一日愛依!約束通り、皆で来たよ。…扉を開けて」


愛依ちゃんの名前を呼んでそう言うと、扉は重くズズズズ…と音を立てながら開いた。

 

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