夢想曲1

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あの洋館から帰った3日後、私はあの公園に行った。

すると愛依ちゃんと愛依ちゃんのお母さんとお父さんが既に居て手を繋いでいて安心した。



「愛依ちゃん!」

「あっ双葉お姉ちゃん!あの、あのね、愛依ね、ちゃんと話したよ」

「みたいだね。お母さんとお父さんに今までの分もいっぱい可愛がってもらおうね」

「雨倉さん、本当にありがとう」

「本当は私たち自身が誤解を解かなきゃいけなかったのに…」

「いいえ。私も関わっていたことに変わりはありませんし、皆が居たからこそですよ」



私がそう言うと愛依ちゃんが服の裾を引っ張って「また遊んでくれる…?」と聞いてきた。

もちろん!と言って頭を撫でるとまた嬉しそうに抱きついてきた。


愛依ちゃんの頭を撫でながらお父さんとお母さんに話を聞いた。

お母さんは水仕事を辞めて現在働いているデパートの正社員にしてもらいたいと申請している。

お父さんも身体の健康の為に短期入院することになったらしいが祖父母も協力的で家計は安心らしい。


よかった、と思ったところで日記に出ていた子たちが気になり愛依ちゃんに尋ねる。



「そういえば…日記に書いてた子達って…」

「雨倉さん」

「…?」

「○○ちゃんも×▲くんも、本当に不審者に殺されてしまったんだ」

「え」


「昨日、一応精神科に行ったんだけど…ぐちゃぐちゃになった思考の中でそんな出来事があって、

余計に混乱してたんじゃないかって言われたのよ」


「そうだったんですか……」



両親の事で思い悩んでる時に友達が二人も殺されて、何かに縋りたくて仕方が無かったのかな…。

そう思いながら愛依ちゃんの頭を撫でると、ポケットから鈴を取り出した。


生まれた時にお父さんとお母さんがあげたと言っていた鈴を私に差し出す。

目を瞬かせていると手を取って握らされたので慌てて愛依ちゃんに返そうとした。



「え…っだ、ダメだよ!だってこれ愛依ちゃんの大事な…」


「いいの!愛依が双葉お姉ちゃんにあげたいだけだから…

迷惑かけちゃってごめんなさいっていうのと、助けてくれてありがとうっていうお礼!」


「私たちからもお願いだ。家庭を取り戻せたのは君のお陰だから」

「…分かりました。大事にするね」

「うんっ」



愛依ちゃんから貰った鈴を手に握り、宝物にしようと思った。

別れ際、手を振る愛依ちゃんを挟み込む形で立って笑顔で会釈をした愛依ちゃんの両親を見て、

もう大丈夫だろう、とホッとしながら手を振り返した。





そして、土曜日。

洋館から帰ってきたその日に桃井ちゃんに聞いた目的の為に大きなストバスに向かっていた。

その目的というのが『皆でストバスに集まってバスケやらない?』というものだ。


本来、選手をサポートする役割の私たちマネージャーも監督も混じってゲームをする。

花宮さん達霧崎第一は来るか分からないけど、ワクワクしてスキップをしながら向かう。


あともう少しで着くという所でストバスから多くの話し声が聞こえた。



「絶対負かす!!」

「上等だコラ、俺とテツの協力プレー見せてやるよ」

「火花散らせてるところ悪いですが僕たち同じチームですよ」

「3on3か…誰であれ負けるつもりはないのだよ」

「何の縁か君の相棒と同じチームとはね」

「どどどどどどうしようきーくんテツくんと対戦なんて、そんなの、そんなの…っ釘付けになっちゃうよーっ!」

「落ち着いて桃っち!とりあずデジカメ置こう!?」

「あ、お菓子なくなっちゃったや」


「カントクと今吉…さんと氷室って…不安しかねぇ」

「リコたーん!!!パパの活躍見てくれるよなぁぁっ」

「だからそれやめてって言ってるでしょ!!?」

「リコってバスケできるのか?」

「そりゃー景虎さんの娘だしできるっしょー」

「策士3人って負ける気しかしねぇ…!」

「大丈夫だフリ、こっちなんて火神たちとだぜ…?」

「まぁまぁ、元日本代表もいるんだし大丈夫だって」


「え…?」

「監督、バスケや(れ)(る)んですか…?」

「その体で…?」

「心配しかねぇ…」

「仕方ないさ、全員混ざってなんだから」

「あの現役の頃と変わってなかったら強気にしかなれなかったんだけどなぁ…」

「お前ら失礼しかねぇな。あ?」


「いや、無理っしょ」

「バカ高尾。無理とか言ってやんなよ」

「ほ、本当に大丈夫なんですか?いけますか?」

「もし腰言わしたりしたらすぐ言ってくださいよ?」

「気遣ってくれるのは有難いんだけどねぇ…」


「絶対やらしい戦法とか仕掛けてきそう」

「うわ怖ぇ…」

「でも、元日本代表と一緒にプレーできるなんて光栄です!ハッ出しゃばってスミマセン!!!」

「構いませんよ。やるからには本気でいきます」


「おい、アゴリラ。監督になんでそんな嫌そうなのか聞いてこい」

「大丈夫アル。アゴリラは不死身アル」

「ないよ!?そんな根拠どこにもないじゃろ!!?」

「荒木監督、どうしたんですか?」

「いや、別に……あの人と対戦すると考えるとどうも気が進まん」


「…?えっマジで?」

「まぁ1ゲームくらいなら…?永吉もいるし大丈…大丈夫なのかしら」

「なんかあったらすぐ言ってくれるだろ」

「今度こそ木吉に勝ってやらぁ!」

「私自身不安しかないが、まぁ何とかしてみせるさ」



わあーやっぱり監督も混じるってなるとこうなるよね。心配だよね分かる分かる。

ウチの監督も心配しかないけどあの人、空手七段持ってるんだよね。

時々武術の授業にも来るし、強いっちゃ強い。監督の心配するだけ無駄っていうか…。


まぁバスケの腕はどんなものか知らないけど古武術で翻弄はできるよね!

そんなこんなでコートに入って主将たちの所に行く。



「主将ーっ!今日もかっこいいですねっぶああ!!?」

「お前は今日も元気だな」

「あっははははは!!!引っかかった!引っかかったー!あははは!!!」

「すっげぇ声出たな」

「そんな岩村好き雨倉に悲報が。お前岩村と別チーム」

「悲報とか酷くね?俺と一緒よ〜嬉しいだろ?」

「凄い顔してんな。雨倉にとっちゃ悲報以外何でもないか」

「早く来なかったのが悪いな」



主将にしがみつきながらそんな話を聞いて固まる。そして空を仰いで叫ぶ。



「何で大事な所で主将と一緒じゃないのぉぉぉおお!!?」



何も変わることのない日常で、皆が私の嘆きを聞いて笑った。



桃井ちゃんに頭を撫でられ慰められている私のブレスレットに付いている鈴がチリン、と鳴った。

 

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