be hopeful

□阪神共和国1
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ここは何処だろう。
ああ、そういえば次元の魔女さんに渡されたあのウサギ?お饅頭?みたいな可愛い子の口に吸い込まれたんだ。そんなことを思いながらふわふわとした意識で真っ黒い闇の中をただ流されていく。
徐々に遠くに見えてきた眩しい光。目を開ければきっと見たことも聞いたこともない、価値観から社会情勢まで何もかも新しい世界が待っているのだろう。期待と不安を胸に、私は夢から覚めた。


『…ん』
「あ。気が付いたー?」
「柑菜起きたー!」


目覚めた柑菜の目に飛び込んできたのは白い人と例のウサギのような生き物。名をファイとモコナといったか。周囲を見回してみると、見慣れない床の材質に機械、それとこれから一緒に旅をすることとなる彼ら。小狼とさくらまだ眠ったままだ。


『お…おはようございます!』
「おはよー。さあて、こっちの子もそろそろ起こさないとね」


ファイが小狼に声をかけようとしたその時、さくら!!と目を開け急に起きた小狼。そこへすかさずモコナが覆い被さるように顔を覗き込む。


「ぷう!みたいな」
「さ…くら…」
「…ツっこんでくれない」


状況を把握できずぽかんとする小狼。しくしく泣くモコナをひょいと抱え、ファイは目覚めたみたいだねえとへらりと笑って見せた。ようやく現状を把握した小狼は、腕に抱くさくらの存在を思い出した。ハッとし、再び名前を叫ぶ。腕の中の少女は目を覚まさない。


「一応三人とも拭いたんだけど、寝ながらもその子のこと絶対離さなかったんだよ」
「モコナも拭いたー!」


言われてみればと柑菜は自分の衣服を確認してみる。雨で濡れた服と髪は十分とは言えないが水が滴ることはない程度に乾いていた。


「君――えっと…」
「小狼です」
「そっちの女の子は?」
『如月柑菜といいます』
「んー?如月ちゃんと柑菜ちゃん、どう呼んだらいいかな」
『如月はファミリーネームなので家族皆一緒なんです。名前は柑菜なのでそっちで呼んでもらえると嬉しいです』
「うん。小狼君と柑菜ちゃんねー」


記憶が無いから曖昧だけど、名前と苗字があって不思議に思われることはこれまで無かったと思う。そう思うと文化の違いというものは想像以上に大きいものなのかもしれない。


「こっちは名前長いんだー。ファイでいいよ」
『はい』
「で、そっちの黒いのはなんて呼ぼうかー」
「黒いのじゃねぇ!黒鋼だっ!」


改めて全員を見回すとなかなか個性的な人が集まったと感じる。ファイは黒鋼の名前を聞いてくろちゃん、とかくろりん等とニックネームを考え出すし、黒鋼は膝に飛び乗ったモコナに驚いている。楽しい旅になりそうだな、なんて思っていると小狼の顔が冴えない。
そうだ。さくらはまだ目覚めていない。何より事情はよくわからないけど、さくらはこのままでは死んでしまうのだ。心配に決まっている。どうしようか思案していると、急にファイが小狼の服…背中の辺りをまさぐり始めた。


「うわっ!!」
『ファ…ファイさん!?』
「何してんだてめぇ…」
「これ記憶のカケラだね。その子の」
「え!?」


ファイさんが小狼の服から取り出したのは、不思議な模様が描かれた一枚の羽根。


「君に引っ掛かってたんだよ。ひとつだけ」
「あの時に飛び散った羽根だ」


その羽根はファイの手を離れるとさくらの中に溶け込むように吸い込まれた。


「これが、さくらの記憶のカケラ…」
『さくら、体が暖かくなったね』
「今の羽根がなかったらちょっと危なかったねー」
「俺の服に偶然引っ掛かってたから…」

「この世に偶然なんてない

ってあの魔女さんが言ってたでしょ。だからね、この羽根も君がきっと無意識に捕まえたんだよ。その子を助けるために」


あの羽根が記憶のカケラ。さくらの大切なもの。あの羽根を集めることでさくらは記憶を取り戻せるんだ、小狼に関すること以外。あの時の決意が今の必然を手繰り寄せたのかな、なんて思う柑菜。小狼の顔にも安堵が見られた。


「なんてねー。良くわかんないんだけどねー」


ファイがくにゃんと猫背でそう言うから、今までの真剣な空気が和らぐ。緩急を付けるのが上手な人だ。
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