ちっぽけな僕らのでっかいお話

□第3話
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あの入学式から数日が経ち、クラス内にも活気が出てきた。男子生徒は気の知れた友人を見つけつつあり、女子生徒はグループができつつあり…といったそんな日々。今は次に新入生が頭を悩ませる学園生活のメイン、すなわち部活の決定に向け仮入部期間を大いに活用中だ。それは大和達にも当てはまることだった。
あれから自然と昼休憩や授業間の時間はあの六人で過ごすことが多くなった。大和は早速、昼食時に話を切り出した。


「皆はもう部活決めたん?」
「むぐっ、もひほん」
「康、汚いからまず飲み込め」


康は大和の問いに購買で勝ち取った焼きそばパンにかじりつきながら答える。ちなみに弁当は早弁したため底を尽きている。そこに翔太が呆れながら突っ込む。


「んっ…、もちろん!」
「何?どこどこ?」
「野球部!」
「へえ、康って野球好きなんだ。どうりで放課後に桜と柚と探してもいないわけだ」
「仮入部はずっと野球部に行ってるからな」
「でも学級日誌はちゃんと出してってよ。康が部活行っちゃうからもう一人の子が大変そうであたし達で手伝ったんだよー」
「えっ、そうだったのか。そういえば日誌って出した覚えないな、悪い悪い」


康の野球好きは困りもんだった、と大和は懐かしむ。小さい頃から遊ぶ時に何する?と聞けば当たり前のように野球!と返ってきたものだ。三人じゃできないと告げるとじゃあキャッチボール!の一点張り。お陰さまであまり運動が好きではない俺でも肩だけは強くなった。


「康お前女の子に迷惑かけんなって」
「でもその日は先輩がゴロのさばき方教えてくれるって言ってたから急いでて…もちろん悪いとは思ってる!」
「わかればよろしーい!」


「あの…私は美術部にしようかなって思ってるの」


あれ以来桜は少しずつだけど確実に俺達にも慣れてきているようだ。今だって以前ほどの緊張は見られない。これまでの彼女ならこんな風に会話の途中で話題を変えるなんてことはしなかった。いい傾向だ。


「ふうん。いいんじゃない?なんか雰囲気に合ってる」
「えへへ…ありがと」
「美術部かあ。桜は中学でも美術部だったん?」
「うん。高校でも絵だけは続けようって決めてたの」
「桜も俺と一緒だな」


翔太の発言に対してか康のに対してかはわからないが照れくさそうに頬を染め、微笑む桜。


「私、なにやってもなかなか上手くいかなくて。でもそんな私でも絵と魔法だけは誉めてもらえて…、だから…大事にしたいなって」
「桜はあんまり自分を過小評価し過ぎと違う?桜には桜にしかない良さがあるんだからもっと自信持っていいんだって!」


大和から頭をふわりと撫でられ、気持ち良さそうに目を瞑る桜。そしてまたありがとうと告げた。こういう素直なとこも長所だと思うんだけどな、と大和はこっそり胸のなかで呟いた。好きなものに夢中になれることも長所だし、男の前で話すのが苦手なはずなのにこうして自分から克服しようと挑むところも彼女の強みだということにも気づいてほしい。
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