ちっぽけな僕らのでっかいお話

□第4話
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授業や部活といった学校生活にも慣れてきた頃、春ヶ丘学園に入学してから多くの生徒が心待ちにしていた授業が始まった。それは一般の学校では学ぶことのできない“魔法”だ。素質のある者以外は学ぶ機会すら与えられず、魔法学校へ入学した生徒達の特権とでも言える。
例に漏れず、翔太達も今日が初めての魔法の授業であった。


「この時間は確か…中庭だったかな」
「ん〜何で魔法の研究室もあるのにわざわざ外に出るんだろね」
「きっと先生にも考えるところがあるんだよ」


翔太は前の時間に使っていた数学の教科書を片付けると、机の中から魔法について書いてある分厚い教科書を取り出しながら呟いた。柚も鞄の中から教科書を取りだし、ふと疑問を口にする。康はあまり気にならないらしく、深く理由を考えようとせず準備を続けていた。


「康…その教科書…」


椎名が康の手元を見て愕然とした。康が机から取り出した真新しい教科書は、見るも残念な姿になっていたのだ。


「表紙とかも折れちゃってる…ね」
「鞄に体操着とか詰め込んだら入らなくなっちゃってさ、無理矢理入れたらこうなっちゃって」
「俺生まれ変わって教科書になったら康のものにはなりたくないわ…」

げんなりと大和が呟く。そろそろ出ないと間に合わないのではないのだろうか、と翔太は一言「行くぞ」と声をかけ一人歩きだした。


「あ!待ってよ翔太ー」


柚がドタバタと走りながら追いかけてきた。他の四人も小走りしながら追い付いてくる。中庭へ続く渡り廊下を歩いて暫く、目的地へと到着した。ちょうどチャイムも鳴り、あとは先生の到着を待つだけだ。


「どんな授業になるんだろう」
「ん〜…想像できないね」
「この学校に入学するまでまともに魔法なんて使ったことないからね、本当に楽しみ〜!」


椎名、桜は揃えて口に手を当て首をかしげる。柚の言う通り、翔太達はここに来るまで魔法を使ったことはほとんどない。使おうとしても使えないのだ。魔法を使えると知ってからと言うものの、自分の意思で使ったことがない。使うことを親や教師、更に国から厳しく禁止されていたためだ。そもそも使い方も曖昧なのだから当たり前。だからこそ、春ヶ丘学園に入学してからこの日をどれだけ楽しみにしてきたことか。


「よーし、皆いるかー?」
「「「来たぁぁぁあぁあ!!」」」
「毎年この授業の始まりは元気一杯だな。それじゃあ学級委員、挨拶だ」


待ちに待った授業の始まりだ。
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