ちっぽけな僕らのでっかいお話

□第5話
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「星、見に行こ!」


それは昼休み、教室の一角から聞こえた。今日の授業は眠かった、あの先生の口癖が面白い、と学生がよく話題とする会話を流しながら各々弁当を食べていたはずだった康たち六人。そんな中、大和が何の前触れもなく思い立ったように声をあげた。


「星って…急にどうした大和?」


大和以外は彼の突然の提案にポカンとしていた。そんな雰囲気を知ってか知らずか、大和は相も変わらず張り切っている。これでは埒が明かないと康が疑問を切り出す。


「どうしたって…康お前、俺が何部か忘れとらん?」
「そっか。望月君は天文部だったよね。星、か…楽しそう」
「そうそう!だからさ、行こ!」


飽きれ気味の大和の問いに桜がそういえばと答え、それに満足した大和は更に誘い続ける。柚は賛成!と弁当を食べながら口を動かし隣の翔太に汚いと注意されている。


「そういや大和は昔っから星好きで俺らを引っ張り回してたよな。翔太も行くだろ?」
「まあ夜は勉強終わらせればやることないし」
「椎名は?」
「私も行くのは構わないけど…いつ行くの?」


椎名は机の横にかけてある鞄から手帳を取り出し予定を書き込む準備をして、大和に問いかけた。


「今日がいい!」
「そっか今日か……って今日?」
「善は急げって言うし、金曜で明日休みだし。なあ駄目?」
「急ぎすぎだ馬鹿。こっちにも予定があるんだけど」
「じゃあ翔太は何か今日用事でもあるん?」
「……ないけど」


やりい!とガッツポーズを決める大和。


「じゃあ今日の夜に皆で天体観測だね」
「楽しみだね桜!」
「俺も今日何もないし、部活終わってから準備して行くよ」
「うーん…ちょっと待って康」


盛り上がりを見せ、今日の夜に決定しかけていた流れに椎名がストップをかける。


「明日も部活あるけど大丈夫?翔太も陸上部は平気?」
「たしか野球部も陸上部も午後練じゃなかったかな」
「朝からだとキツいけど午後なら午前中寝れば大丈夫でしょ」
「選手がそう言うなら…いいかな。でも練習に響かないように気を付けてね」


椎名が康と翔太の心配をしていると、柚が口元に手を当てニヤニヤと笑った。


「いやあ、椎名さんはマネージャー業が板についてきたみたいだね」
「ちょ…やめてよ恥ずかしい!」


椎名は人のために働ける人だ。しかもマネージャーというサポートに徹する役職であるため選手の体調管理はするものだと思っているし、当たり前だと考えていた。が、あらためて言葉にされるとなんとも気恥ずかしい気持ちになってくる。


「椎名はよくやってくれてると思うよ。お前を誘って本当に良かったって思ってるからな」
「康もそんなにっこりして言わなくていいよ…!私から逸らしてなんだけど話を戻そう、ほら」


ひとしきり椎名を誉めた(からかった)後、話は具体的な内容を決める方向に進んだ。


「夜は暗くて危ないから俺らが桜達を迎えに行くって形でええかな?」
「いいの?」
「もちろん。それに誘ったのは俺なんやから桜は家で準備しといてくれればええから」
「ありがとう。じゃあ家までの地図書いておくよ」


着々と話が進み昼休みも残りそう長くないくらい、ようやく話がまとまった。それじゃあ、と康が仕切るように確認をとる。


「今日の夜8時、俺と大和、翔太は学校集合。その後桜、椎名、柚の家まで迎えに行く。場所は学校近くの高台にある神社の境内。それでいいな」


確認に返事を返すと、次の授業の準備のためにそれぞれ動き出した。しかし気持ちは高ぶり、皆今日の夜が楽しみで仕方ない。





この時は誰も予想していなかった。この中の誰かが、誰かに心引かれているということなど考えもしていなかった。

これから起こることなど、微塵にも想像していなかった。


そして
夜を迎えた。
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