ちっぽけな僕らのでっかいお話

□第6話
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月曜日の昼休み。大和はその日一日、あからさまに元気が無かった。それもそのはず。告白を決意したその瞬間に失恋したのだから。周りはいつもと違う大和を不思議に思いつつも、敢えて詮索するようなことはしなかった。
翔太と柚は購買へお昼を買いに、桜と椎名は自販機へ飲み物を買いに教室を出ていたため、席には大和と康しかいない。


「はあ…」
「…なあ大和、どうしたんだ?さっきから…というより今日一日ずっと元気無いぞ」
「ああ、康か…。いや何でもないねん」
「その割にはげんなりしてるけど大丈夫か?」


自分を心配して優しい声をかけてくれる康に大和は本当のことを言おうか迷った。これは大和の問題であるため、康に相談するのも申し訳ないと思うし何より恥ずかしいものがある。


「いやー…その、まあいろいろな」
「言いたくいならいいけど…無理しなくていいんだぞ」
「康…」


康の優しさが染みる。ここで黙っていることの方が康に余計な心配をかけてしまうのではないか。そう思った大和は下げていた頭を持ち上げ、意を決して口を開いた。


「あのな…俺、金曜に桜に告白しようとして」
「……え、マジ!?」
「真面目に」
「そっか…。で、どうだった?」
「いい返事ならこんなに落ち込んでへんわ!」
「悪い悪い。そっか、お前が桜をね…」


最初は驚きを隠せなかった康だったが、すぐに真剣に話を聞き始める。先日の天体観望でも二人は康達とは離れて行動していたが、端から見ても雰囲気はよかったと思っていた。


「問題はここからなんやけど…、実は告白する前に失恋したと言いますか…」
「どういうことだ?」
「桜に相談された。翔太のことが好きかもしれないって」
「桜が翔太を!?」
「康おま…!声でかいねん!」
「わ、悪い…」


即座に謝ったものの、これが驚かずにいられるだろうか。まず大和が桜を好きだということにも驚愕した。しかしそれ以上に桜が翔太を…?
自分で言っていてまた落ち込んでしまったのか、大きな溜め息を吐く大和。これはなかなか厄介なことになってしまったようだ、と康はあまり得意ではないが頭を使って考える。


「で、大和はどうしたいんだ?」
「どうしたいも何も…相手が翔太なら敵うわけ…」
「翔太は関係ないだろ?大和が桜を諦めるか諦めないかじゃないのか」
「…俺、俺は諦めたくない」
「なら粘ればいいさ」
「んな簡単に言われても。…なあ、康ならどうする?」
「俺だったら、」

「ただいまー」


丁度その時、飲み物を買いに出かけていた桜と椎名が戻ってきた。二人の両手にはそれぞれ紙パックの飲み物が三つずつ抱えられている。


「おかえり」
「ただいま。はい、康に頼まれてたやつ」
「さんきゅ!」


椎名は抱えた三つの紙パックのうちの一つを康に手渡した。


「本当に牛乳でよかったの?」
「うん。俺牛乳好きだし、今日はパンだからいいの」


ストローを袋から取り出して挿し込み早速飲み始める康を見て、椎名も席に戻り自分用にと買ってきたストレートティーにストローを準備した。残り一つは柚の分らしく、オレンジジュースを柚の机に置いた。


「望月君には、はい。これどうぞ」
「え、俺頼んでないけど…」
「今日なんだか元気ないみたいだったから…プレゼントだよ。何が好きかわからなかったから私とお揃いにしちゃった」


そう言って渡された苺ミルクを見つめながら、嬉しいような苦しいような何とも言えない気持ちが込み上げてきた大和は桜の顔を見れずにありがとうとお礼を言った。どういたしまして、と言うと桜は手に持ったもう一つの紙パックを翔太の机に置いた。


「それ、」
「坂本君の分。やっぱり何が好きかわからなくて…椎名と相談してレモンティーにしちゃった。喜んでくれるといいな」
「…うん。翔太、レモンティー好きやと思うよ」


辛くない訳じゃない。でも桜の笑顔を見れたという事実だけで胸の靄が少し晴れた気もした。
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