ちっぽけな僕らのでっかいお話

□第8話
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テスト返却日。この一日で夏休みが天国と地獄に分けられることもあり、教室は緊張に包まれていた。朝、教室に入った桜と柚が目にしたのは、机に項垂れる康と考え込んでいるような姿勢の大和、そして涼しげに本を読む翔太の姿だった。二人に気付いた椎名はいつも通りおはようと挨拶をした。


「おはよー。なんか康と大和は大丈夫なの?」
「私が知る限り朝からずっとこれだよ」
「神原君、望月君…大丈夫?」
「あれだけ勉強に付き合ってやったんだ、これで赤点なんて取ってきたら怒る。それよりも自分は大丈夫なの?」
「うん!皆のお陰で手応えはあったよ」


どうなることかと思われていた桜は勉強会を開いた甲斐もあり、赤点は免れることができそうだ。椎名と柚、翔太は元々大きな心配はしていなかったため今回も大丈夫であろう。問題は苦手科目はからっきしな大和と全てにおいて努力が必要であった康だ。
気になる結果は…


○●○●○●○


「まあこんなもんかな」
「凄い!翔太97点だ!」
「そう言うけど、柚の手にあるテストは何点なの」
「100点」
「そんな人に誉められても嬉しくない」
「得意なところが沢山出たからね」


翔太と柚は全ての科目において90点越えという好成績を修めた。翔太においては、これで普段の授業態度がよければ…という先生方の声が絶えなかったとか。


「初めて60点越えた…!嬉しい!」
「よかったね桜!」
「うん。苦手な数学なんて70点だよ」
「頑張ってたもんね」
「ううん。坂本君の教え方が上手だったから…。椎名はどうだった?」
「…うん」
「えっと、赤点ならなくてよかったね」


初めての得点に喜びを隠せない桜。翔太や柚のサポートもあり、一週間の努力が実を結び今までにない結果に繋がった。一方椎名は今まで通りの結果に終わった。このクラスの平均が60〜70点であるため、そのくらいの点数であることがわかる。あの康の面倒を見ながらこの点数だ。喜んでもいいと思うべき点数であろう。


「いいか大和、いっせーので見るんだぞ」
「…おう」
「「せーのっ」」
「…おおお!」
「……っ」
「「っしゃぁあああ!」」
「すげー!俺こんな点数初めてだ!」
「今まで見たことない数字が…俺の答案に書かれとる…!」


朝と一変し有頂天となる康と大和。大和はともかく康は赤点スレスレという正直胸を張れる程の点数ではないが、彼にとっては過去に例を見ない快挙であるため、お互いに答案を見せ合い喜びを分かち合っている。


「康…!おめでとう!」
「ありがとう!椎名のお陰だ!お前がいなかったら俺はどうなっていたか…」
「そんなことないよ。康が頑張った証だよ」
「これで夏休みも思い切り部活できるな!」
「頑張ろうね!」


この一週間、康に勉強を教えながら自分の勉強も進めるという大仕事をこなした椎名。自身の結果は芳しくなかったものの、彼の喜ぶ姿を見て落ち込んでいた心も澄んでいくようだった。


「ってことは、皆が赤点回避ってことだよね!おめでとーう!」
「部活以外に学校に来ることのない夏休みなんて私初めて」
「俺も!ってことは遂にアレができるんやな…!」
「アレって?」
「バイト!俺、バイトやろうと思うてるんだ」
「へえ、大和バイトする……ってバイト!?」


大和が言うには、今まで成績が思わしくなくバイトの申請をしようにも却下されていたという。なんでも欲しい図鑑や天体望遠鏡があるらしく、自分のお小遣いだけでは到底届かない金額になるため高校生になったらバイトをするのが夢だったようだ。柚達は勿論、これには康と翔太も驚きを隠せない。


「大和がバイトだなんて初耳だな。当てはあるのか?」
「親戚に喫茶店のオーナーしてる人がいて声かけてくれてるからそこでええかなって思ってる。部活も文化部やし、毎日ってわけでもないしな」
「大和が喫茶店でウェイター…っく」
「おい翔太、何で笑うとる」
「ウェイターだなんて格好いいね。望月君のシフトの時間に私、行っていいかな?」
「も、勿論!桜なら大歓迎だから!」
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