ちっぽけな僕らのでっかいお話

□第2話
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これからクラスメイトになるであろう教室の皆はせわしなく動く者、席に座り様子を伺う者等それぞれにこの空気を楽しんでいる。そんな中、ここの空気はどうだろう。まるで氷だ。


「翔太、お前今の聞いてなかったのか」


大和が口を切る。


「何を」
「桜は今、何を言おうとしてた」
「知らない」
「知らないじゃない。お前が待ってやれば…いや、待たなくても言わんとすることは通じた。それでもわからなけりゃそれがお前の悪い癖だ」
「ちょちょ、待った待った!早々に喧嘩はやめようよ、ね?」


大和の口調が標準になったことから、彼が本気で怒っていることは容易に想像できた。大和の言う通り、翔太は物事の白黒を明白にしたがるタイプだ。それは翔太の長所でもあるし、同時に短所にも成りうる。今回はそれが裏目に出てしまい、桜のたどたどしくつまずいた話し方に苛立ちを覚えたのだろう。柚が仲裁に入り、椎名は桜のフォローに回っている。当の桜は目に涙を浮かべ、翔太を見つめていた。


「ごめんな、桜。翔太は決して桜のことが嫌いなわけじゃないんだ。ただ感情をストレートにぶつけてきてくれるから」
「…いいんです」
「え」
「桜…?」
「ありがとう、椎名ちゃん」


桜は椎名を見てふわりと笑った。その笑顔が余計に痛々しい。椎名は困惑した表情でまた桜を見つめる。そしてゆっくりと翔太に向かい合う桜。


「坂本君。その…ごめんなさい」
「………」
「私、初めて会う人とか…あの、男の子と話すと緊張しちゃって…それで」
「………で?」
「ほんとは、今も怖いしドキドキしてる。でも…坂本君が羨ましい」
「俺が?」
「坂本君に言われた時、怖かったけどかっこいいなって思った。私も坂本君みたいに自分に正直になりたい。これから仲良くしたい。だから、その…友達に………なってください」

「嫌だ」

「え…」
「葉山にも言ったけど、友達ってなろうと思ってなるものじゃないから」
「待ってよ!桜は勇気を出して言ったのにそんな!」


今まで大人しく二人のやり取りを聞いていた椎名が身を乗り出して訴えようとするが、大和が嬉しそうにそれを止める。その理由は椎名と柚にはわからないであろう。ただ、俺達は幼馴染みだ。椎名と柚に桜のことがわかるように、俺と大和にはわかる。
もう、大丈夫。


「俺は小野のことを嫌いだなんて一言も言ってない。むしろ、今はっきり言ってくれたことで好感が持てると思った。やればできるじゃんって」
「でも、友達にはなりたくないって…」
「友達や唯一無二の親友なんてものは作ろうと思ってできるものじゃない。気付いたらできてるものだと俺は思う。小野は俺と仲良くしたい。俺は小野のこと嫌いじゃない。だから」


右手を差し出す翔太。


「これからヨロシク、小野」
「……っはい!」


翔太の右手を両手で包み込み、先程とは違う涙を目に浮かべながら顔をほころばせる桜。大和もやれやれといった顔だ。椎名らも桜に抱き付き「良かったね!」「よく言った!」などと名一杯に撫でたり叩いたり。この時の桜は今日一番の笑顔だった。と、思う。

今日は出会ったばかりだけど
ちょっとした事件もあったけど
少しずつ
前に進もう
自分のペースでゆっくりと。


→あとがき
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