よみものの部屋
□ひみつ
1ﾍﾟｰｼﾞ/1ﾍﾟｰｼﾞ
１０年前
私は『この世界(ここ)』に来たの
なぜ私はここにいるのだろう
ここにいる理由は何だろう
私が、私を、思い出すまで
どれくらいの時間をムダにしたのか
考えると我ながら頭にくるよ
残された時間はあまりにも少なくて
その残された時間の中で
やらなければならない事が
私には、あるんです
誰かが言っていたよね
時間を巻き戻せるなら、いつに戻る？
『今の世界(ここ)』では夢のまた夢の話
でも、誰もが一度は思った事なんじゃないのかな
今の私には、理解なんてできないけれど、ね
確かに、ほんの少し前の私なら思ったのかもしれない
自分の事がよくわからなかった
正確には自分がどこの誰で
どんなふうに生きてきて
そんなことさえも、知らなかったのだから
それでも不思議だと思った事はなかったような気がするんだ
記憶がなかったわけではないし
それが造られた記憶で
『私』という人格をインプットされて過ごした時間で
それでも何だか自分が異質なものであることの自覚みたいな
時間を巻き戻して私自身を観てみたい
そう思ったって不思議じゃないよね
『私』は『私』ではなく
『この世界(現代)』の異物
本来『この世界(ここ)』には存在しないものなんだから
西暦2114年
世界戦争勃発
後に語りつがれる『火と氷の10日』
たった10日で世界は終演を迎え、地球はただの宇宙のゴミとよばれるまでになった
それでも生き残ったわずかな生物のひとつ
それが私の祖先
『碧い地球(ほし)』を私は知らないし
今『この世界(ここ)』に来ても、私の目には『碧い地球』は見えない
貴方には、見えますか？
人は勝手な生き物で
自分が特別でありたいと望んでいる
けれど、そう願っていられるのは本当に特別になってしまうまで
貴方も、そうでしょう？
私は誰って
今、話してるでしょう？
本来私のいるべき場所は2314年の天王星
300年の時間(とき)を跳んで『この世界(ここ)』に来た
ウソなんかじゃない
私、300年後にも『碧い地球(ほし)』を残したいの
そのために来たのよ
なぜ世界戦争が始まったのか
理由は簡単
自分が特別でありたいという欲
自分の国が特別であるという傲慢
そんな事はいつの時代も同じね
戦争を止める？
そんな力、私にはないよ
ただ
私は考古学者で
そして
私には『時間(とき)』を跳ぶ力がある
何年もかかったのよ
ここまでたどり着くのに
どうしてなのかわからないけれど
10年前、私は記憶を無くした
事故だったのか
それとも
あまりにも長い時間を跳んだせいなのか
思い出さなければ
きっと今も笑って食事なんかしてるのかもしれないね
でも、思い出してしまった
私にはやらなければならない事があるって言ったよね？
貴方が10年前からしている研究
世に出そうとしている論文
あの存在を消さなくちゃ
2020年のオリンピックまでに発表されると困るのよ
貴方がオリンピックに居てはダメなの
世界中の目が東京に注がれる時
貴方は存在してはいけない
戦争は避けられないとしても
地球を残す事はできるかもしれない
お願い
研究をやめて
それができないなら
死んでくれる？