沖神

□バレンタインのお返しは
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3月14日__________。
全国のモテる男が、バレンタインのお返しに悩まされる日。


しかし真選組一番隊隊長・沖田総悟は迷いなく駄菓子屋に行き、赤い小さな箱を手にとり、とある少女の元へ向かった。

もちろん今は真昼間の勤務中。
だが、今の彼にはパトロールなんかよりももっと重要なことがあった。


沖田が向かったのはいつもの公園。
(そういや、チャイナからチョコ貰ったのも公園でしたねィ)

チャイナ__________つまり万事屋の神楽のことである。

沖田と神楽は今まで真選組・万事屋とつねに敵対関係にあった。

が。
つい一ヶ月前の事だ。
その神楽がなんと自分にチョコレートを渡してきたのだ。・・・・・・それも、手作りのものである。

頭の中で一ヶ月前の記憶がよみがえった。


「オイ、クソサド!」
パトロール中の沖田に神楽が声をかけてきた。
「なんでぃ、クソチャイナ」
走ってきたのか、神楽は額にうっすら汗をかいている。
「これ!」
無理やり手のひらサイズの箱を押し付けてくる、神楽。
「オマエにくれてやるヨ。この神楽様直々にチョコを作ってやったんだから感謝するヨロシ」
ポカンとする沖田に、彼女は「じゃあナ」とだけ告げると足早に立ち去っていった。

沖田は初め、毒でも入っているのだろう、または新手の嫌がらせか、などと考えていた。

が、毒味として山崎に食べさせても、なんの問題もなく沖田は驚いた。

だが、それ以上に驚いたのは____________。



神楽にチョコレートを貰って、少し嬉しがっている自分がいることだった。


今まで喧嘩相手や、ただの敵くらいにしか思っていなかった神楽。


なのに___________。


(本当に、どうなっちまったんでぃ)


そんなことを思っていながらも、やはり足どりは軽いのだ。


沖田は公園に着くとベンチに座り、神楽を待った。
彼女は散歩時に必ずこの公園を通るからだ。
いつもなら煩いと感じる子供の声も、何故か気にならなかった。

数十分待つと、15mほど離れた入口に神楽は現れた。
いつものように、定春という名の犬は連れてきていない。
こちらには気づいてないようだった。


紫色の番傘を斜めにかかげ、「ふぅ」と太陽を見上げてため息をつく。

「3月なのに、太陽が眩しいアルな」

ボソッと聞こえたその小さな声すらも、とても愛おしく思えた。

突然、神楽がしゃがみ込んだ。
どうやら地面に咲いている花を見ているらしい。
その様子があまりにも可愛らしくて、一瞬声をかけるのを躊躇ってしまった。

そうこうしている間に、神楽の方がこちらに気がついてしまった。

「あ、クソサド。こんなとこで何してるアルカ?」
立ち上がって沖田の側に来る神楽はいつもと変わらない。

沖田はそのことに少しショックを受けながら、神楽の質問に返答する。

「テメーを待ってたんでさァ」

しばらくの沈黙。

「・・・・・・は?私を、アルカ?」

神楽は意味を分かっていない。

(まさか・・・・・・覚えてないんですかィ!?)

いやいやそんなことはないだろうと思いながら、沖田は先ほど買ってきたものを神楽に渡した。

「この前のバレンタインのお返しでさァ。今日はホワイトデーですぜィ?」

「ああ!!・・・・・・忘れてたアル」

神楽は「ありがとナ」と小さく言うと、バレンタインを思い出したのか頬を赤く染めた。

「べ、別にあれは・・・・・・そんな対した意味はなくて・・・「神楽」!?」

必死に言い訳をする神楽の言葉を、沖田は遮った。

突然のことに、神楽はうまく口がまわっていなかった。

「おまッ!い、いつもはチャイナって・・・・・・」

「そんなことどうでもいいでさァ。そんなことより俺のこと、名前で呼んでくれないんですかィ?」

「は・・・・・!?」

いつもの人を小馬鹿にしたような笑みではない、真剣な沖田の眼差し。
それを神楽は________。


「な、何期待してるアルカァァァァア!!??」

と、ぶん殴った。

ところがその反面、神楽の顔はりんごのように真っ赤になっていた。

3mほど吹っ飛んだ沖田は、「いきなり何するんでィ!」と頭を抑える。

「だからっ!あれはそういう意味じゃないネ!!それに銀ちゃんとか新八にも・・・・・・マヨにもあげたアル!」

「なっ!!土方さんも・・・!?」

(土方死ねコノヤローォォォォォオ!!クソっ・・・・・・期待するんじゃなかった。Sは打たれ弱いんでィ)


「あー・・・・・・そうだったんですねィ・・・・・。まあ、しょうがないですねィ・・・・・・・・・・・今日のことは忘れてくだせェ」

(あーあ。チッ。土方コノヤローでもシメてこよう・・・・・・)

完全に気力を失った沖田はその場を離れようと、神楽に背を向けた。
しかし___________。

「ちょっと待つネ!!」

振り返ると、まだ頬が真っ赤な神楽が少し笑っていた。

「沖田!__________。ほら、苗字くらいなら呼んでやってもいいアルヨ!」

今の今まであんなに暗い気分だったのに、何故かつられて笑ってしまう。

「じゃあ、やっぱりテメーは苗字で呼べねーから、“神楽”ですねィ」

そして再び歩き出した。

「またな________神楽」

とだけ言い残して・・・・・・。


ふんわりとした、風が吹く。


一人公園に取り残された神楽は、またちょっとだけ赤くなって。

「またナ。そ、総悟」

と、つぶやいた。

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