沖神

□敵以上恋人未満
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日常。
これはいつしか私にとっても、アイツにとっても日常になっていた。


「このクソサドっ!!私のタコ様ウィンナー返すアルっ!!」
「もう食っちまったんで無理でさぁ、クソチャイナ」
「んだと!?返せヨ!!タコ様ウィンナーはオマエのような庶民が口にしていいものじゃないアル!!」
「それは自分のことを言ってるんですかィ?」

ピキ、と私達の血管が同時に浮きあがる。

「「死ねェェェェエ!!」」

お互いの蹴りが炸裂し、教室の端からはしまでを転げ回る。


数分後、教室は戦場のようになっていた。
勿論これは3zの皆にとっても日常なので、誰も気にしない。
むしろ、いつもなら姉御がゴリラに制裁を加えているのでまだマシな方だ。


「もう降参ですかィ?」

カチン。
────────いつ聞いてもむかつくアルな、コイツの声は。
でも・・・・・・・・・・・・。




────────綺麗ネ。

よくわからないけれど。
私は、沖田の声が好き。
いつものSっ気のある笑顔も、ちょっとした時に見せる、本心の笑顔も、大好き。

・・・・・・多分そうアル。

むかつく・・・・・・でも嫌いじゃない。

これが、私の沖田に対する評価。



















────────────違うネ。



私は、沖田が好き。

分かってるヨ?
もう自覚してるヨ?
沖田を男として、異性として、恋愛対象としてしか見れてないことくらい。

そして──────────。


沖田が私を恋愛対象としてなんか見てくれていないことくらい。


分かってる、分かってるネ。

だから、こんなに辛いアル。



私が沖田に告白したとしても沖田はきっと、あの憎たらしい声を出してこう言う。

「なーに言ってんでぃ。やっぱり俺に惚れたんですかィ?」


そんなのは嫌。

でも、少なくとも、悪い意味でも私は女子の中で一番沖田と関わりがあるから。
たくさん話ができるから。

例えそれが罵り合いだとしても、褒め言葉じゃなくても、いい。


・・・・・・今は、それでいいアル。


いつか大人になって、沖田が私を『女』として見てくれるまで。




「ほらチャイナ!」

沖田が私に向かって赤い箱を見せてくる。
───────酢こんぶアルな。

「くれるのカ?─────どうせ後から『誰がやるなんて言ったんでぃ?』とか言うんダロ!?」

沖田が黙る。
─────────やっぱり。

と、次の瞬間。
沖田が私に向かって酢こんぶを投げてきた。

「俺ァこんなもの要らねェんで、チャイナにくれてやりまさァ。感謝しろィ」

・・・・・・は?

酢こんぶをキャッチした私は、呆然として立ち尽くした。

沖田はそのまま教室を出て行く。


・・・・・・意味分からないネ、あいつ。


私は沖田に貰った酢こんぶを握りしめた。

・・・・・・でもこれは、なかなか食べられないアルな。



────────そういえば。お礼、言いそびれたアル。



その後、私は沖田を探して校内を回ったが、結局沖田は授業もサボり、放課後まで私に姿を見せなかった。


放課後まで、というのは、放課後私が沖田を目撃し、遭遇したからである。


そう、私は沖田を見たし、会った。
それも、最悪なタイミングで。




私は、することも無いので校内をブラブラと歩いていた。

そして自分のクラスに入ろうとした時、高い女の声が聞こえたのだ。


「あのッ!・・・・・・ずっと前から好きでした!!」


こんな声が。


何故だか無性に腹が立った。
単なる逆恨みだ。
自分は気持ちを伝えられないのに、素直に伝えられる彼女への、逆恨み。

────────青春してるアルな・・・・・・。

はぁ、とため息をついてその場を去ろうとする。

しかし、さっきの女の声が私の全身を貫いた。


「お願いします!付き合って下さい、総悟くん!!」


総・・・悟?
────────沖田アルカ?



沖田に彼女ができるという事は、心配していなかった。
私は知っていたから。
彼が、姉以外の私を含む女子全員に興味がないことを。

だから、むしろ心配していたのは沖田の断り方のことだ。
戸の隙間から、沖田の声が漏れる。


「すいやせん・・・・・・。俺ァ今、そういう事している暇ないんで・・・・・・」


これだ

そういう事している暇ないんで

この言葉が1番怖かった。
沖田は女子に告白されると、決まってこう言う。
沖田は見かけによらず、女子の告白を断る時は、かなり優しい。勿論、内心はかなり鬱陶しいと思ってはいるけど・・・・・・。


────────自分もそうやって沖田に断られるアルカ?


────────私も、沖田にとってはそこらにいる女と変わらないアルカ?



「すいやせん」

その一言で片付けるのか。

それとも、

「てめーを女として見たことなんざ一度もねえんでィ」

と嘲るのか。


どっちにしたって、苦しいことに変わりはない。

でも、それでも・・・・・・。





急に教室の戸がガラッと開き、涙目の女子が飛び出してきた。

女子は私に少しぶつかると、「ごめんなさいッ」と言って、足早に去って行く。


数十秒後、沖田がめんどくさそうな顔をして出てきた。

そして、私に気がつく。

「チャイナ・・・・・・今の聞いてたんですかィ?」

いつものポーカーフェースでニヤリと笑う。

「盗み聞きなんて、良い趣味じゃないですぜィ」


もう、沖田の声も耳に入ってこない。


────────好き。
私は、沖田が好きアル。
抑えることのできない気持ち。
それは、沖田の声を聞くたび、顔を見るたび、大きくなっていった。

告白して断られるのは、辛いネ。
今の関係が崩れるのも、辛いネ。

でも、この気持ちを抑えて過ごすのは、もっと辛いアル。


だから、言うヨ。


「沖田!!」

いきなり大声で名前を呼ばれて、沖田は驚いた様子だった。

「おまっ、今サドじゃなくて・・・・・・」「沖田!!」

沖田の声を遮って、もう一度名前を呼ぶ。

そして言ってしまった。







「私、オマエのこと、好きヨ」




「は・・・・・・?」




言って、しまった─────────。
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