鋼文。

□慈雨
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雨が、降っていた…


オレは広くも狭くもない部屋の、隅に置かれた寝台に蹲る。

すぐ傍で雨音が聞こえて…
散漫ながらも思考は過去を暴こうと動いて行く。

浅い記憶を手繰ると、悲しい事があった日はいつも雨が降っていたように思う。


まるで
誰かの涙みたいに。


明かりとりの濁った硝子からは、ひやりとした空気が伝わって首すじをなぞり

不意に悲鳴をあげたくなった。

内臓が震動するような感覚に

何かを吐き出したくて
それでも
嗚咽しか漏れず、

冷たい四肢で己が身を掻き抱いた。

突然ドアに響く来訪の音に身体はびくりと反応する。


来訪者は闇を纏う男。


けれど、
それはオレにとって安らぎに値する。

彼は蹲るオレを見て
その美しい眉間に皺を寄せると、
幼児にでも接するみたいに注意深く言葉を紡ぐ。


それは甘く…


「どうした、鋼の。こんなに震えて…寒いか?」


…甘く。


「…寒く…なぃ」

「では恐い夢でもみたのかね。可哀相に」

宥めるように髪を撫でる男の手の感触が、
酷く心地よかった。

「…ぃさ……たいさ、たいさ…たいさ…」

彼がオレに“その種”の好意を抱いている事を知っていたので、


行為の意味も知らぬまま


オレは




その胸に縋った。






END
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