何故、どうして。
そう問うのも忘れてしまうくらいに、十年の歳月は思った以上に人の心を落ち着かせる。
それはこの状況を見れば一目瞭然。雲雀恭弥は今、六道骸の腕の中に居た。
彼は油断していたのだ。骸はそう思う。
けれど、現実は違うのだろう。
言わば罠だ。十年分の殺意を解き放つ為の序章に過ぎない。
雲雀は今も尚、骸の息の根を止めようとしている。
時々と言えるくらいにそれを狙う頻度は落ちたが、それでも油断出来ない殺意を向けられる事はままある話だ。
それほどの思いを植え付けたのは他の誰でもない骸自身だった。
だからこそ骸はパーソナルスペースを譲る。
いや、思いはいつだって正反対で、こうしていたかったという事実を隠す為の行為だ。
こうして抱き締めているのもそう、額に口付けをするのもそう。全ては思いを確かめる為。十年分の彼の殺意を、自分だけに向けさせる為の罠。
一体どちらが先に仕掛けたのかも分からない。そんな事はどうだって良い。
大事なのは「その日」をいつ迎えるかが問題で、いつならば手加減というものを覚えるのか。
骸はその判断に踏ん切りが付けずにいた。
思考が思考を呼び、次第に考えるのが面倒になるといつもする。一つの復讐。
「……恭弥、起きないとキスしますよ」
言って口付けた後の酷い顔を見られるなら少しは復讐も達成出来るだろうか。


蓋然性のある復讐






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