◆ユリスマ本棚 1

□ユーリ様のご寵愛(★1)
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(ユーリが好きなもの…ぼくもどんどん好きになっていく…)
 せつなさが、胸をギュッと締めつけて、スマイルは息がつまりそうになって、しゃがみこむ。
 甘い…薔薇の香り…。
「薔薇はな、愛してやればやるほど、美しく咲くのだ」
 ユーリのほっそりとした白い手が、スマイルの横をすりぬけて、薔薇を1本摘み採る。
 スマイルは、ユーリを見た。
「私は、その最も美しい刻をもらっているのだ…。」
 甘い、甘い…風…。
(薔薇が…それを望んでいるんだ…。美しく咲いて、甘い香りを放って、ユーリに食べられて、散らされることを、望んでる…)
「私の…美しき薔薇…」
 ユーリは、薔薇を愛おしそうに撫で、口づける。
 その瞬間、薔薇は生気を失い、ぱあっと散った。
 ユーリの…怖いくらい美しい、冷たい微笑…。
 生体エネルギーを全て奪われた薔薇は、さあっと灰になって、風に乗って消えた。
──── まぁ、うらやましいこと!ユーリ様のご寵愛を受けられるなんて!
 スマイルは、薔薇たちのささやきを聞いた気がした。
「ユーリにとって…この薔薇たちは…寵姫なんだね…。みんな…ユーリに愛されて、散りたがってる…。」
 突如としてスマイルの心に沸き上がる、言いようのないイヤな気持ち。
(ユーリが大切にしている…愛しているもの…!)

ザ……ッ…
「スマイル!?」
 薔薇をなぎ払う、手…。
(こんなもの…)
ザッ…ザッ…!!
「スマイル…やめろ」
(壊してやる!!)
ザ──── …


「だからやめろと言うのに」
「…いた……」
 紅いしずくが、ポタリとこぼれ落ちる。
 薔薇の反撃を受けてズタズタになった手袋から、見えない傷が悲鳴を上げる。
「いい色だ」
「あ…」
 ユーリは、傷ついたスマイルの手を取り、やさしく舐めた。
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