小説
□手のひら
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「このコーヒー美味しいね。」
「うん」
「この前カフェ見つけて、」
「そうなんですか。」
ちゃんと話したことあったっけ。
目を見て楽しそうに笑ってたっけ。
君が笑顔を私に向けてくるから、
悲しくて「うん」と言う。
「私、そろそろ帰ろっかな。」
君がよっこらせと立ち上がる。
見ればいつの間にかコーヒーを飲み終わってた。
ああ、まただ。
私は小さく小さくため息をした
「もう一杯ぐらい飲んで行きなさいよ」
「…それ本気で言ってるの?」
悲しそうに笑うから、
頬をポリポリ掻いてうつむく。
本気じゃないなら言わないよ
うつむいた時に見えた手
なんだか少し震えていた。
握ってやれたらと情けないけど
思ってしまった。
「…なに黙ってんの、馬鹿和也。」
小さく呟いて、
君はカバンを持って出て行った。
パタン、とドアの閉まる音が
むなしく部屋に鳴り響いた。