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『遊佐愛積は今を輝くトップアイドル!出す曲は必ずオリコン1位をとっている!容姿端麗、頭脳明晰!最近の若者100人に聞いてみたアンケートで好きなアイドルランキング、抱かれたい男ランキング共に1位!先月の全国ツアーでは、』

ピッ。

俺は暑苦しい口調でアイドルを語るテレビがつまらなくなってリモコンの電源ボタンを押す。

すると当たり前だがテレビの画面は何も映さない真っ暗になって。

「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

今日は何もすることがなくひどく暇だ。

あぁ、早く明日が来ないかなぁ。

明日、キミに会いに行くよ!





誰にも見付からないように早い時間にこっそり裏門から入って玄関で待っていた担任に付いて職員室に向かう。

職員室には既にたくさんの教師がいてその多くの視線は俺を向く。

そんな、興味や好意ばかりの視線を受け流して職員室のみんなが見える位置に立ってにこりと営業スマイル。

「今日からお世話になります、遊佐愛積です。よろしくお願いします」

するとぱちぱちと鳴る拍手。

簡単な顔合わせが終わると担任に呼ばれて学校の注意やら色々聞かされる。そして最後に、

「いいか、遊佐。くれぐれも問題や騒ぎは起こすなよ?」

と言われる。

その言葉に困った笑顔を浮かべてこくんと首をかしげる。

「騒ぎは起きると思いますけど、問題は起こさないようにしますよ」

すると担任も困った顔をして。

そこでチャイムが鳴って俺は担任の後に付いて自分の教室に向かった。


教室の前に着いて、担任に入ってこいと言われたら入れと言われてそわそわと声を待つ。

ワガママ言って彼と同じクラスにしてもらったんだ。早く会いたい。

教室では担任が転校生がこのクラスに来た、とだけ言って次に俺の待ちに待った言葉を告げる。

「入ってこい」

その言葉に俺は待ってましたとばかりにドアを勢いよく開ける。

途端に集まるたくさんの視線。

静まり返る教室。

俺はぐるりとその中を見渡して。

彼を見付けて、思わずにっこりと笑ってしまった。

すると地響きが起きるかと思うほどの主に女の子の大きな悲鳴。

そんなことは慣れっこで、スタスタ教室に入って担任の隣に立つ。

鳴り止まない悲鳴の中、顔の横でピースをつくってパチッと完璧なウインクをして、するとピタッと止まる悲鳴。

それからにっこり営業スマイルを浮かべてお目当ての彼を見つめながら自己紹介をした。

「初めまして!遊佐愛積です!東京から来ました!普段はアイドル、やってます!よろしくね?」

そしてまた悲鳴。

興奮して立ち上がる生徒たちを困った顔で制しながら一応先生に席を聞くと当然、彼の隣。

俺は悲鳴に囲まれて歩いて、彼の隣の空いてる席に向かう。

そして机に鞄を置いてイスを引いてストンと座って。

隣のキミにとびきりの、作り物じゃない本当の笑顔を見せて言う。

「初めまして。俺、分からないことたくさんあるし迷惑掛けるかもだけど…よろしくお願いします」

すると彼は幽霊でも見るかのような心底驚いた顔で、ぱくぱくと口を動かしてから小さな声で呟くように。

「え、えっと……及川徹…で、す…」

うん、知ってる。

「よろしくね、徹」



__及川side__

朝、SHRに遅れてきた担任に転校生が来ると突然の発表があった。

転校生かー可愛い女の子だったらいいなー。そう思いながら担任が声を掛けたドアを見つめる。

すると勢いよく開くドア。

そこにいる人を見て、俺を含めたクラス全員が固まった。

心臓が口から出そうになるほどびっくりしたのは俺だけじゃないはず。

そして一瞬の静寂の後、教室に響く悲鳴。

彼はぐるりと教室を見渡して、バチッと俺と目が合った。

するとにこりと笑う。

それに俺は驚きすぎて思わず声を上げていた。

そんな大きな悲鳴には慣れっこであろう彼はスタスタと教室に入り教壇に立つ担任のすぐ隣に立って。

それから顔の横でピースをつくってパチッと綺麗にウインクをした。

これは彼の『静かにして』の合図だ。

それを知ってて俺を含めたみんなが黙る。

ていうか気のせいかなさっきからずっと目が合ってるような。

すると彼は自己紹介を始めた。

「初めまして!遊佐愛積です!東京から来ました!普段はアイドル、やってます!よろしくね?」

そしてまた悲鳴。

興奮して立ち上がる生徒たちを困った顔で制しながら彼は担任と何か話した後、スタスタとこちらに向かって歩いてくる。

そして当たり前のように俺の隣の空いてる席に鞄を置いてイスに座る。

それから俺に向き直ってにっこりと、今まで見たことの無いようなとびきりの心底嬉しそうな笑顔で言われた。

「初めまして。俺、分からないことたくさんあるし迷惑掛けるかもだけど…よろしくお願いします」

その言葉に驚いて、言葉を紡ごうとする唇が酸欠の金魚みたいにぱくぱくする。

そしてやっと出た言葉は小さな、呟くような声だった。

「え、えっと……及川徹…で、す…」

すると彼は嬉しそうに目を細めて、まるで恋人を見るかのような、愛しそうな顔で俺を見つめてくんっと首を傾けて。

「よろしくね、徹」

と、さも当然だというように俺の名前を呼んだ。

彼は遊佐愛積。

日本のトップアイドル。

テレビのアンケートで全国の女子高生の八割は彼に惚れてると言われたほどの大人気アイドルだ。

こんなところにいるはずがないし、ましてや俺に笑いかけてるはずもないのに。

目の前のイケメンは周りの悲鳴や握手やサインの声を無視して、俺を見つめてにこにこと上機嫌に笑っていた。

そんな彼の笑顔に、ファンでもないのに……いや、彼の歌う曲は好きだけどそんな熱狂的なファンってわけじゃないのに不覚にもドキッとしてしまった俺は、どうかしてる。

きっとこんな近くで日本のトップアイドルを見てしまったから混乱してるんだ。

俺も彼に笑い返してふいっと前を見た。

それでも刺さり続ける視線は、きっと気のせい。

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