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やっと午後授業も終わって慣れない掃除を頑張って、帰りのSHRも終わった放課後。

俺のクラスの前には出待ちファンが詰めかけていてそれはもう迷惑で迷惑で。

噂が広がるのって早いね。

きっとクラスメイトの女の子が他のクラスの子に自慢でもしたんだろうなぁ。

その光景が脳内で浮かんで思わず苦い顔をする。

あぁ、駄目だ。アイドルは常に笑顔。みんなに夢を振りまかなくては。

俺は隣の席をチラッと見る。

すると徹は荷物をまとめてさっさと立ち上がった。

その周りには俺に負けず劣らず女の子。

「及川くん今日も部活だよね?」

「うん」

「今日も応援に行くね!」

「ありがとう」

「頑張って!」

「わかった」

なんて、徹の素っ気ない返事と完璧な王子さまみたいなキラキラの作り笑いが繰り広げられている。

アレ、楽しいのかな…。

徹は一通り女の子から声援を浴びた後、女の子を置いてスタスタと教室を出ていく。

俺もここに来た目的を果たすため徹の後を追いかける。

すると出待ちのファンに捕まってしまった。

「愛積くん!ファンです!サインしてください!」

「きゃぁぁぁあ本物の愛積くん!!!いつもコンサート観てます!」

「愛積くん!せめて握手だけでもお願い!!」

「え、えーっとぉ、」

困った。

これは困った。

熱狂的なファンにはどんなに困った顔を見せても通じないのは嫌と言うほど知ってる。

だから今まさに困った顔をつくってるのに全然伝わってない。

マナーのなってないファンがいるのは知っていたけどコレはちょっとショックかも。

プライベートくらい放っておいてくれよ。

そう思うけど愛想が良いのは多分仕事柄。

そうやってたくさんのファンに囲まれて揉みくちゃにされてあうあうしてると突然腕を掴まれてグイッと後ろに引っ張られた。

しんと静まり返る廊下。

引っ張られた方を見ると不機嫌な顔をした徹がいて。

「こら。愛積何で勝手に離れるの?一緒に部活行くって言ったのに」

そんな嘘も平然と言ってのける。

俺をここから救うため?かっこよすぎでしょ…。

そして俺のファンを一瞥して。

「ごめんね。愛積は握手もサインも事務所からNG出てるって。じゃあ」

そして俺の腕を引いて歩いていく。

俺は徹に引き摺られながらファンを振り返ってとびきりの作り笑いで。

「あ、あと俺は好きな人には恥ずかしくて話し掛けるのも無理で物陰からそっと見守るような、そんな子がタイプだな〜」

と言って手を振った。

彼女たちが本当に俺のファンなら今後出待ちされることも囲まれることもないな。

そう思って足早に廊下を進む徹の横に並んで捕まれていた腕を解いて手を繋ぎ直す。

「徹、助けてくれてありがと」

本当の笑顔を浮かべてお礼を言うと徹はやっぱり不機嫌そうで。

「だから気を付けろって言ったじゃん」

「うん。ごめんね」

「……もう助けないから」

「もうあんなことにはならないよ」

すると徹は少し機嫌が直ったようで歩く速度を緩める。

「あ、そう言えば部活行くって嘘言っちゃったね。どうする?来る?」

ふと気付いたように言われて俺はにこりと笑う。

「あぁ、元々バレー部に用があったし。行くよ」

そう返事をすると徹は首を傾げて。

「俺がバレー部だなんて一言も言ってないよね?」

なんて不審者を見るような目を向けてくる。

それを俺は笑顔で流して。

「多分、すぐに分かるよ」

徹は相変わらず警戒したまま体育館に到着して俺はひょこひょこ徹に付いていく。

部室の前まで付いていくと徹はくるりと振り返って人差し指をピッとこちらに向けて。

「着替えてくるからここで大人しく待っててよ」

と言って素早くドアの向こう側に消えて行った。

それから5分ぐらいで練習着姿の徹が出てきてやばい徹超かっこいい…。

俺は徹に連れられてもうだいぶ人が集まってる体育館に足を踏み入れる。

わぁぁあー…すごい。ライトが高いし体育館に広がるボールの独特な匂い。本当に“青春”って感じ。

そんな俺の前を歩いていた徹が突然バァンっと音を上げて床にぶっ倒れた。

正確に言うと、バレーボールが頭に思いっきりぶつかって倒れた。

ボールが飛んできた方を見ると真っ黒の短髪で目付きが悪い男子が一人。

「クソ及川来んの遅ぇんだよ!!」

そしてツカツカこちらに歩み寄ってきてふと、俺と目が合う。

あ。

「泉」

ふふっと懐かしく思って名前を呼べば泉こと岩泉が俺に駆け寄ってくる。

「愛積じゃねーか。どうしてここにいんだ?元気だったか?」

「今日から転校してきたんだ。元気だったよ、泉は?」

「あぁ、俺も元気だ」

くしゃ、と泉の頭を撫でる。

泉も困ったように笑うだけでそれを止めようとしない。

そんな俺達を見ていつの間にか起き上がってた徹がきゃんきゃん吠える。

「ちょっと岩ちゃん!ボールぶつけるのやめてって言ってるでしょ!?それに何、岩ちゃんアイドルと知り合いなの!?」

すると泉は不快そうに眉を歪めて。

「何言ってんだグズ川。愛積は中学一緒だったじゃねーか」

「は?」

ぐりんっと俺を見つめて固まる徹。

あ、やっぱり気付いて無かったんだ。

「うん、俺も北一だよー。泉とクラス一緒だったの」

「は!?えっ、でも中学のとき学校にこんな有名人いなかったよ!?」

「だって俺がアイドルになったの、中学卒業して東京に引っ越してすぐの春休みだもの」

それに同調して泉も頷く。

「まぁアイドルになる前からとんでもねぇイケメンだって有名だったけどな」

その言葉にえぇー?と首を傾けて。

「まぁーでも徹自身がイケメンだし昔からバレー一筋だから俺のこと知らなくて当然だよな」

「おいあまりグズ川褒めるな。調子に乗る」

「泉は相変わらず男前だね。そういうところ、好きだよ?」

「お前は相変わらずいい性格してるな。そういうとこ、好きだ」

あれ?昔は好きだよって言っただけで顔真っ赤にしたのに…。

「えぇー?泉、耐性ついた?つまんなーい!」

「いつまでもお前のオモチャになってたまるか」

そう言ってフンッと鼻で笑って見せる。

誰だ泉に耐性つけたの!怒るぞ!

と、内心穏やかじゃない俺をさっきからずっと凝視している徹。

それに気付いて泉は徹の頭を押し退ける。

「おい、近いしウザいしそろそろお前アップしろよ」

泉に怖い顔でそう言われて徹は渋々アップをとるためにどこかへ行った。

泉と二人きりになって、改めて泉を真っ直ぐみつめる。

「泉、何も変わってないね。あぁ、やっぱり変わったかな。前より男前になったね」

にっこり笑ってそう告げると彼はふいっと目を逸らして、顔は少し赤くなっていた。

あ〜やっぱ泉はこうだよね!

照れてる泉、可愛いなぁ〜!いつもは男前で頼り甲斐があるのに照れてる可愛いなぁ〜!

内心ニヤニヤして、でも表情はにっこり笑顔で。

泉は目を逸らしたまま小さな声で。

「愛積、背ぇ伸びたか?あと前よりかっこよくなってる…」

泉が着てるTシャツになりたい。

そんなことは表面に一切出さずやっぱり笑顔で泉の頭を撫でる。

「ありがとう。身長は187センチだよ。泉に言われると嬉しい」

「そーいや俺、お前が出てるドラマ見てるぞ。あの野球のやつと恋愛ドラマのやつ」

「本当?すごく嬉しい。あ、そういえばね、俺がわざわざ青城に来たのは理由があって」

意味深な笑みと一緒に首を傾けて言うと泉は不思議そうに首を傾げる。

「なんだ?」

それに俺はえへへ、と笑って。

「バレー部のマネージャーになりたいんだ!」

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