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突然のマネージャー宣言の次の日。

俺はまた徹と泉と一緒に放課後の体育館に来ていて。

「今日からバレー部のマネージャーになりました!遊佐愛積です!気軽に下の名前で呼んでね!よろしく!」

一息にそう言って俺の周りに集まっているバレー部のみなさんに勢いよく頭を下げて、バッと顔を上げてにこり、と効果音が聞こえてきそうなほどの笑顔を見せる。

みんなはポカンとした顔で。

隣にいる徹は少し不機嫌そうな、泉はどこか嬉しそうな顔をしていた。

にこにことバレー部のみんなを順に眺めて顔を覚えてるとらっきょうみたいな頭の長身くんがおずおずと申し訳なさそうに。

「あの……遊佐さんは、もしかしてアイドルです…よね?」

その言葉にケロリと笑って。

「あ、うん。アイドルやってます。よく分かったね」

「いや、愛積自分がそうじゃないって思ってるだけで国民的アイドルだからね」

徹につっこまれた。

らっきょうはそんな俺らを無視して続ける。

「そんなすごい人が何でわざわざこんな所に…」

それにムッとして腕を組む。

「こんな所なんていうなよ。だって俺、バレー好きだし前の学校でもバレー部のマネージャーだったし何よりここには泉と徹がいるし!」

「「は?」」

泉と徹の疑問の声が重なる。

「でもまぁ前の学校ではアイドルの仕事が忙しくてほとんど出れなかったけど大丈夫!ここではちゃんとマネジメントするから、仲良くしてよ。ね?」

首を傾けてパチッと綺麗なウインクをすると俺を囲むみんなが顔を赤くする。

女子か。

徹に至っては固まっちゃってるし泉は口元を手で押さえて何もない壁を見つめてる。

あー………、とりあえず。

「はいはーい!みんな練習!」

パンッと手を叩いてにこりと笑う。

するとみんなはハッとしてバラバラと散っていく。

「ホーラー!泉も徹も行ってこいよー」

俺の両隣で固まっている二人の背中をおぐいぐい押して言うと泉は言いづらそうに頬を掻いて。

「あー…何つーかお前…程々にしろよ?」

次に徹も、

「愛積、もしかしてからかって遊んでる?」

さて、何のことかな?

俺は不思議そうな顔でこちらを見つめる二人に意味深な笑顔をつくって見せて。

「早く行きなー。俺だってドリンク作ったりスコアつけたり選手それぞれの力を把握したり、忙しいんだよ」

追い払うように手をヒラヒラさせる二人とも納得いかなそうな顔で、でも渋々みんなの所に走って行った。

じゃーまずは…、

「ドリンクでも作るかー」

邪魔にならないように体育館の隅っこに置いてあったボトルの入ったカゴを持って体育館を出てすぐの所にある水道に向かう。

ボトルをジャバジャバ水で軽く濯いで、ドリンクの粉一袋とクエン酸の粉を少し入れて、少量の水で溶かした後ボトルいっぱいに水を入れ、蓋をしてガシャガシャと混ぜる。

そんな懐かしい作業を続けながら楽しくて一人でクスッと笑ってしまう。

徹に近付きたくて、高校ではバレー部のマネージャーになった。

一生懸命マネジメントを覚えた。

それが今、役に立ってる。

こんなに嬉しいことなんてそう無いよなぁ。

俺、幸せで死んじゃうかも。

何本目か分からなくなったけど、ボトルに水を入れ、ガシャガシャ振ってるとき、ふと空を見上げてみた。

宮城の空は、こんなにも広いのか。





ゲーム形式の練習が一区切りついたところで俺は汗だくのみんなにドリンクとタオルを配る。

「はーいみんなお疲れー」

さっと渡しては飲み終わったボトルをさっさと回収する。

泉と徹も丁度こちらに来たのでタオルとボトルを手渡す。

すると泉は顔をしかめて。

「なんつーか…今までマネなんていなかったから何か変な感じだな」

そしてタオルで頭をガシガシ拭く。

徹も不思議そうな顔で、

「それよりもこんな大人気アイドルにドリンクをもらうって、すっごく奇妙なカンジ」

と言って俺は苦笑い。

泉はごきゅごきゅと可愛い音を立ててドリンクを飲んでふと、口を離した。

「ドリンク、いつもと味が違う気がする」

「あぁ、ソレ多分クエン酸だな。疲れに良いから入れたんだけど、まずい?」

眉を下げてこてんと首を傾げると泉はスッと目を逸らして。

「いや。俺はこっちの方が好きだ」

と言った。

わぁあ!

「泉がデレた!」

可愛くて泉の頭をわしゃわしゃ撫でる。

泉も口では嫌がりながらも抵抗はしないから多分コレ喜んでるな。

そんなこんなでじゃれてると徹がボトルのカゴの横に置いてあったノートに気付いてそれをひょいっと拾ってパラパラめくる。

「何コレ」

俺は泉の肩に腕を回しながら答える。

「さっきのゲームで見てた結果だよ。一人一人のクセとか特徴とか、得意なコト、苦手なコト。分かるとこを書いたやつ。後で能力パラメーター作ったりすんの」

それに徹は感心した声を上げた。

「へぇ。すごいね、思ったよりちゃんとマネージャー出来てる」

「ありがと」

続けて徹はノートをパラパラ眺めながら、

「そう言えばここに来る前はどこでマネージャーしてたの?」

えっ。

俺はうーん、と首を傾げて。

「言って分かるかなぁ?梟谷学園ってとこだけど…」

「はっ!?強豪じゃん!」

「あ、分かるんだ」

「そりゃあ知ってるよ!あそこは全国で5本の指に入る大エースがいるところデショ!?」

その台詞に俺はぐったりと溜め息を吐く。

「あぁ…光太郎ね…あいつめんどくせーもんだからバレー部のみんなには何も言わないで転校してきたし」

「いいのかソレ」

泉は片眉を上げてつっこむ。

「いいんだよー。だって転校するなんて言ったら監禁されかねないし。それに梟谷は俺の他にマネ二人もいるから俺がいなくなっても問題ない」

「か、過激派なんだね…」

徹も引いてるよ。ドン引きだよ。

それほど梟谷のみんなには過保護にされてたけど。

そんな雑談をしているとパッツン気味の前髪の人が徹に寄ってきて。

「まだ練習始めないの?」

それに徹はハッとして声を上げる。

「みんなー。練習再開するよ!」

「じゃ」

泉と徹からタオルとドリンクを受け取ってにっこりと笑顔を向ける。

「がんばれよー!」

タオルとドリンクを抱えていない方の手をぶんぶん振って応援すると二人はニカッと笑ってコートに駆けて行った。





「二人ともお疲れー」

自主練を終えた泉と徹に読んでいた本を置いて駆け寄る。

すると徹は驚いた顔をして。

「愛積まだいたの?」

「うん!物陰に隠れてました!」

次に泉が、

「待ってなくてもよかったのに」

と言う。それに俺はにっこり笑って少し照れた顔をつくる。

「まぁそうなんだけど…二人と帰りたくて。……ダメ?」

すると泉の不器用な返事が返ってくる。

「別に…」

その言葉を聞いてぱぁっと嬉しい笑顔をみせて。

「じゃあ帰ろっか!」

置いた本を取りに行って鞄に詰め込むと二人も部室から荷物を取ってきて、戸締まりを確認したあと三人ならんで正門に向かって歩き出す。

俺は両隣を歩く泉と徹の手を握って。

「何で手ぇ繋ぐんだよ」

口だけで抵抗しない泉に言われて俺は申し訳なさそうに笑う。

「ホラ、俺って一応アイドルじゃん?だから二人はボディーガード的な。囲まれたら俺を連れて走ってね?」

すると泉は思いっきり顔を歪める。

「クソ及川だけでもめんどくせーのにお前もか…」

「ちょっと岩ちゃん!?」

「あぁ〜。徹もイケメンだもんね。教室出る前囲まれてたね」

「愛積は囲まれるプラス出待ちだったけどね!」

その徹の言葉に泉は空を仰いで。

「マジか…」

「えっ、えぇ〜…でも俺は悪くないよ…俺に惚れたファンが悪い」

キリッと泉を見て言うと彼ははぁっと溜め息を吐いて。

「及川が言うとハラ立つ台詞も愛積が言うとしょうがないって思えるな…」

「岩ちゃんさっきから俺にひどいね!?」

「わぁ〜徹、泉に特別扱いされてるんだねー!羨ましいなぁ」

「愛積棒読み!!」

そんな雑談をしているといつの間にか俺の家の前。

「あっ、二人とも俺の家ここだわ」

ピッと指を指すと泉が首を傾げて。

「前と家違うんだな」

「あぁ。この家は転校するために買ったんだ。土地ごと」

その言葉に二人絶句。

「か、買ったんだ…さすが国民的アイドル…」

そんな二人に笑いかけて首をすくめる。

「俺一人暮らしだからいつでも遊びにおいでよ」

そして二人に手を振って誰もいない家に帰宅した。

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