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青城バレー部のマネージャーになってから三日ほどがたった頃。
「徹ー、部活行こー」
帰りのショートが終わってすぐ隣の席の徹に声を掛けると彼はふふっと笑って。
「そうだね」
と言って荷物を持った。
そしていつでも駆け出せるように、見失わないように手を繋ぐ。
二人並んで廊下に出て、体育館に向かってたわいのない話をしながら歩いていく。
そんな俺たちを囲む人も、後を追いかけてくる人ももういない。
平和な日常だ。
☆
今日もまたドリンクを作ってスコアをつけて、タオルを出してとマネージャーの仕事に勤しんでいた。
楽しくて鼻歌を歌いながら選手の記録を付けていたとき。
「愛積危ない!!!」
聞きなれた普段は優しい声を荒げた警告が聞こえてそちらを振り向いた時にはもう遅くて。
バッコーン!!
派手な音を立てて流れ球が俺の頭に直撃した。
「愛積大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってきた徹に笑いかけて起き上がる。
「大丈夫だよー」
ちょっと照れ臭くて困った顔で徹を見つめる。
あれ?
視界が歪む――――?
「愛積!?」
「ありゃ?」
どうなったかよく分からないけど、立ち上がったはずなのに俺の歪む視界に広がるのは体育館の天井と心配そうな徹の顔。
そのあと、意識が段々遠ざかって…。
☆
目が覚めたら、周りは真っ白だった。
状況に頭が追い付かなくて考え込む。
とりあえず視界をぐるりと見渡して見るとバチッと目が合った。
「……とおる?」
今、気付いたけどあり得ないくらい強く手を握られていた。
名前を呼ぶと徹は泣きそうな顔をして俺の額と自分の額をコツンと合わせる。
突然綺麗な顔が近付いて完全に目が覚めた。
「どうしたの徹、」
「だって愛積が倒れるから!」
俺の言葉を遮って言う徹。
その言葉から必死さが伝わって。
徹はそのまま言葉を続ける。
「しかも愛積倒れたまま起きないし!俺、もう二度と会えないのかと思って…!!」
そう言う徹の瞳からポロポロと涙が溢れ落ちた。
徹の涙は掛け布団に白いシミを作っていって。
チラ、と視線を上げて徹の顔を見るとつらそうに歪められた泣き顔が視界いっぱいに広がった。
元の顔がいいから泣き顔もとても綺麗で、ドラマで共演した女優の泣き顔より可愛くて、かっこよくて。
守りたいと思わせるような、そんな顔。
俺は無意識に徹の頭の後ろを手で押さえて逃げないように引き寄せて、流れる頬の涙を舐め取った。
チラリと見ると徹は驚いて目を見開いていて。
そんな徹を無視して溢れる涙を次々と舐め取っていく。
やっと泣き止んだところで徹の額と瞼にキスをして。
「……愛積?」
小さな声で名前を呼ばれて至近距離で視線を合わせる。
「ごめん。徹があまりにもきれいで。つい」
「な、なに言って…」
「でもごめん。俺のせいで泣いてたんだよね?だから、ごめん」
すると徹は俺の首筋に額を当てて弱々しい声で、
「もう…心配掛けないでよ…」
と言う。
吐息が首筋に当たってくすぐったい。
俺はクスッと笑って。
「うん」
と返事をして徹の髪をもふもふと撫でた。
よく考えたら徹の頭を撫でたのは初めてで泉と違ってふわふわしててとても気持ちがよくって。
「ね、徹」
「なに…」
ふふっと笑って名前を呼べば少し不機嫌そうに、挑戦的な目で俺を見る徹。
そんな徹にコソッと内緒話みたいに耳打ちをした。
すると徹は顔を真っ赤にして。
「なっ…!?どこが!?もう俺、練習に戻るから!帰りは送るからここで待っててね!?」
そう言い残して足早にカーテンの向こう側に消えていった。
俺はさっき言った言葉を思い出して。
『徹の泣き顔、すっごく可愛いね!』
本当にすっごく可愛くて、綺麗で。
まるで王子さまだ。
このあと、練習に戻って心配した徹に叱られたのは言うまでもない。