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それはある日の月曜日。
バレー部が休みの日。
「あー。今日部活無いのか〜。暇だなぁぁあ!」
いつものところで徹と泉と俺の三人で弁当を食べている昼休み。
暇な時間を嘆いているとふと徹が呟いた。
「じゃあさ、遊びに行こうよ」
え?
「いいの?」
徹から誘ってくるなんて無いと思ってたから驚いて言うと彼は慌てたように手を振って。
「あ、でも愛積アイドルだしそこら辺歩いてちゃ駄目だよね」
「えー?やだやだ!遊び行きたい!ね、泉?」
「あ?でもお前自分が大人気アイドルって自覚あるか?」
いや、それでも諦められない。
だって俺、高校に入ってから遊びに行ったのなんて片手の指で足りる程度だもの。
もっと青春を謳歌したい!
「大丈夫だよ。囲まれたら二人が何とかしてくれるし握手もサインも写真も二人が断ってくれるって信じてる」
「………………………」
「随分と他力本願だね…」
徹は引いてるし泉に至っては何もない空を眺めて溜め息を吐いて。
「だってアイドルはみんなに作り笑いと夢を与える仕事だし俺からきつくなんて言えないよ」
「「作り笑い……」」
今度は二人の絶句した声が重なる。
そんな二人に両手を合わせて上目遣いで。
「ね、お願いだよ。俺、今まで仕事で放課後に遊びに行ったのなんてほとんどなくて…憧れてるんだ、そういうの」
シュンと悲しそうな顔を作って見せると二人はうっ、と声を詰まらせる。
それからうるうると上目遣いで二人を見つめると。
「だぁー!もうしょうがねーな!」
泉が折れた。
チョロい。
こうして放課後三人で遊びに行くことが決まった。
「わーい!すっごく楽しみ!」
教室へ帰る途中の廊下で嬉しくってその場で踊ると泉に腕を捕まれる。
「バカッ!人が集まるだろーが!アイドルがほいほい踊るな!」
その言葉にてへっ、と申し訳なさそうに笑って。
「そうだよね。ごめん」
すると泉は溜め息を吐いて。徹は面白そうに俺を見つめていた。
徹も顔面偏差値高いんだからアイドルできると思うけどなぁ。
なんてことを考えながら教室に戻って午後授業はずっと放課後のことでいっぱいだった。
☆
掃除も帰りのショートも終わると泉がクラスまで迎えに来てくれて俺はいつも通り泉と徹に挟まれて、二人と手を繋いで歩き出す。
「ねっ、どこ行くの!?どこ行くの!?」
嬉しくて半ばスキップしながら玄関に向かって歩いていると泉がギリギリと思いっきり手を握ってきて。
「ぃ、いい、痛いよ泉ぃ!」
涙目をつくって隣の泉を見ると彼は怖い顔をして。
「おめー浮かれて囲まれるとかマジでヤメロよ」
その言葉に首を激しく縦に振って。
あー、焦ったぁ。
泉、怒るとこわいもん。
でもやっぱり嬉しくてふんふんとこの前出してオリコンチャート1位を獲ったばかりの新曲を鼻歌でうたう。
すると徹が反応した。
「あ、ソレ新曲でしょ。持ってるよ」
「ヘぇー!徹はこういう曲が好きなんだね」
「まぁテンポが速い曲はわりと好きだよ」
そして徹はいくつか俺の歌っている曲をあげる。
着いた先の玄関で靴に履き替えながら俺はその曲の一つを口ずさむ。
「~~~簡単な愛情ばっか~~~~数えていたら~~」
すると泉に軽く頭をたたかれて。
「お前は本当に学習しねーなぁ…?騒ぎになったらどうすんだよ…!!」
「え、えへ?」
「可愛こぶってもダメだ」
「ごめんなさぁい…」
泣きそうな顔をつくってそう言うと泉は諦めたように俺の手を握って。
「俺の傍から離れんなよ」
う、わぁぁぁあ…!!!
「泉、男前!超カッコいい!やばい惚れそう…」
「はぁ!?岩ちゃんズルい!愛積、俺の傍からも離れちゃダメだからね!?」
徹も対抗するようにぎゅぅう、と俺の手を握って。
俺、愛されてるなぁ。なんて思って思わず頬が緩んだ。
相変わらず二人と手を繋ぎながら上機嫌で歩いているとふと徹に聞かれる。
「愛積は甘いもの好き?」
それにぱぁあ!と顔を輝かせて徹の顔を見る。
「好きっ!大好きだよ!」
すると徹は一瞬ポカンとしてその直後顔を真っ赤にした。
え。
「どうしたの徹…顔、赤いよ?」
そう言うと徹は俺とは反対側の何もないところを見て。
「何かソレ、告白してるみたい…」
えっ、あぁ。そんなことか。
「言ってほしかったら『好き』ぐらいいつでも言うけど」
「そうじゃないよ!いきなり言われたから驚いただけ!」
「へぇー?」
ニコニコと徹の顔を覗き込むとキッと睨まれて。
わぁ〜強気な顔も可愛いなぁ!
なんて思っていると徹は気まずそうに一回、咳払いをして。
「じゃあさ、スイーツ巡りでもしようよ」
「女子か」
すかさず泉がつっこむ。
対して俺は、
「マジか!やったー!クレープとアイスは絶対食いたい!」
と声を上げて嬉しさを表現する。
そんな俺を見て泉は微笑ましいとでも言うような控え目な笑顔を浮かべてナニアレ天使?泉って天使なの?
「俺、結婚するなら泉みたいな人がいいなぁ」
ふざけて言うと泉は固まって徹は、はぁぁあ!?と声をあげた。
「何で俺より岩ちゃんがモテるの!?納得いかない!」
「だって泉は男前だししっかり者で頼り甲斐がある」
「俺は!?」
「徹は可愛いしカッコいい。あと綺麗だよ、とても」
「本当!?」
「グズ川おめー顔しか評価されてねぇのに嬉しいのか?」
「岩ちゃん男の僻みは醜いよ!」
「うぜえ…」
そんな話をしている内に徹おすすめのクレープ屋さんに到着して。
「わぁぁあ〜!甘いものだ!」
店内の壁にでかでかと貼ってあるメニューを眺めて感嘆の声が上がる。
注文するものが決まって三人でレジへ。
徹は苺とバニラアイスに練乳がかかってるやつで泉はツナとレタスとトマトのやつ。
クレープ屋さんに来たのに…泉かっこいいな…。
次に俺の注文で。
「えーっと、苺チョコレートソースポイップ増し増しでカラースプレーとチョコチップ追加!以上で」
「甘いな…」
ツナサラダの泉はドン引き。
俺はその言葉にへにょんと眉を下げて。
「甘いの大好きだし」
それから店員に向かって。
「あ、テイクアウトで。ここ、カード使えます?あぁ、じゃあ会計一緒で。えーっと、はい」
そして制服のポケットから何気なく取り出したカードを店員に渡す。
それからレシートみたいな紙にサインを書いて返ってきたカードを受け取ってクレープの完成を待つ。
「わり、金払う」
「あ、俺も」
泉と徹がそう言って財布を取り出そうとするのを止めてにこっと笑顔で。
「いいよ別に。俺、金あるし何より今日は俺のワガママに二人を付き合わせてるわけだし。かっこつけさせてよ」
すると二人は渋々言うことを聞いて、泉は呆れたような顔で言う。
「お前かっこつけなくてもカッコいいぞ」
「ん。ありがと」
次に徹がぽつりと呟く。
「てかブラックって…」
カードのことか。
普段は使わないんだけど今日は現金の持ち合わせが少ないからなぁー。
そんなこんなでクレープが出来て、それぞれ受け取って店を出る。
「いただきまーす!」
俺は目の前の甘い甘いキラキラのクレープにかじり付いた。
んーーーー!
「おいしい!甘い!あ〜大好き〜!」
ひたすらもぐもぐ食べていると不意に泉が俺の顔に手を伸ばして、人差し指でスイッと俺の口元を撫でる。
「ポイップ付いてんぞ。子供か」
そして拭い取ったソレをペロリと舐める。
今度は徹が俺の口元を手を伸ばして。
「愛積、チョコ付いてるよ」
と言ってチョコを取ってペロン、と舐める。
「わぁー二人ともごめん。ありがとー」
にこりと笑うと泉は仕方ないとでも言うような顔で、徹はキラキラの笑顔で。
青春ってこんな感じかな?
そんなことを考えながら食べた苺はとてもとても、甘かった。