短編集

□永遠の中で
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「兵長、好きです」

そう言ったきり、あいつは戻って来なかった。

「ねぇ。兵長は、永遠を信じますか?」















『エレンが、死んだ』

その事が告げられたのは、エルヴィン達が壁外調査から戻ってきてすぐのことだった。

俺の体は女型との戦いで壁外には行けなくて、そんな時に起きた出来事だった。

エレンが死んだ理由はなんとも有りがちで。

『巨人に喰い殺された』

とのことだった。

15年という、俺の半分のなんとも短い人生。

そのくせ、人類の希望とまで謳われた、15の子供にはまだ重過ぎた人生。

(これで、俺の班は誰も居なくなった…)


空を見つめると、ふとエレンに告白されたあの日を思い出して。

立場が違う。

新兵と兵士長の距離。

今まで伝えたくても伝えられない。

どうしても届かない想いに、どうしていいか分からないという風な焦燥を浮かべる金色の目。

それでも。

いつ死ぬか分からない不安。

戦い続けなくてはならない絶望。

追い詰められて、でも逃げたくなくて。

涙をぼろぼろ溢しながら告白してくるあいつの姿が目の奥に焼き付いて。



白馬の王子様も、正義のヒーローも存在しないと。

諦めきって自分一人で生きていくと。

15の子供がやけに死に急いでいたあの日あの時の映像がフラッシュバックして。

こんなことばかり考えて。

もうこの世にあいつは居ないと。

理解するのに何年掛かる事やら。

ふいに、くるりと振り返ってみても。

当然だが、あいつは居なくて。

あぁ。




エレンよ。



お前は本当に、死んだのか?



今までずっと、生きることに必死だったのに。

死にたいなんて思ったのは、これが初めてで。

目を閉じれば―――頭に浮かぶのはお前の顔で。

あぁ、本当に。







笑顔も、

泣き顔も、

悲しんだ顔も、

怒った顔も、


死ねばまた、会えると思った。





俺は半ば無意識でブレードに手をかけて刃を引き抜いていて。

真新しい、付け替えたばかりの刃を首に押し当てる。

ひんやりとした冷たくて硬い、金属の感触。

エレン。

今から会いに行こう。

そして、告白の返事をさせてくれ。

ぐっ、とブレードを握る力が加わって首の皮に刃が沈む感覚。

閉じた目からは涙が溢れた。

その時。


「兵長」


エレンの声で呼ばれた気がして。

ゆっくりと目を開く。

すると目の前には―――エレンがいて。

自分は狂ってしまったか。

幻聴か幻覚か。

それでもまたお前の顔が見れて。

愛しくて、

切なくて、

悲しくて、

嬉しくて。

首に当てた刃が首を離れて、段々ブレードを持つ手が下りてきて、腕の力が抜けてガラン、と刃を床に落としてしまう。

エレンは手を伸ばして俺の頬に触れて。

幻覚は俺の死の邪魔をする。



あぁ、



エレン。

エレンの手を握れば、その手は俺の手をすり抜けて離れていく。

「俺を置いて逝くな。俺は」

ぼたぼたと、溢れた涙は雨のように床に落ちていく。

「この先ずっと、何年も、何十年も、 何百年も、永遠に




 お前と一緒に、居たいんだ」


するとエレンは尖った牙を見せて妖しく笑う。

「………本当に?後悔しませんか?」

その問いに俺は二つ返事で。

「あぁ…お前と居られるなら

 後悔なんて


 するはずがない」

そう。

それこそ、

「お前のためなら、俺は死ねる」

それぐらい。

お前を想っているんだ。

俺の返事にエレンはニヤリと笑うと顔をぐっと近付けてきて。

「では

 一緒に逝きましょう




 永遠に」


そして、チリッという首筋に走る痛みと共に、俺の視界は反転して。

意識は真っ暗な闇に呑み込まれた。

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