短編集

□2:鐘の音と、あなたの声と。
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「おい、そこのお前」

振り返るとそこには人がいて。

真っ黒な髪、鋭い三白眼に小柄な体躯の男の人。

整った顔だなぁ、なんてのんきに思っていると、その男の人はオレにずんずん近付いてきて。

「舞踏会に行きたいのか」

え。

「まぁ…確かに舞踏会で出るご飯には興味がありますが…」

少し怪しく思いつつ、返事をすると彼はやっぱり真顔のままで。

「連れてってやろうか。舞踏会」

オレはぽかんとする。

「なんだその間抜け面は」

「いや…有り難いんですがオレまだカボチャの収穫が終わってないので」

困った顔でそう言うと男の人はパチンと指を鳴らす。

すると畑一面にあったカボチャが消えて、いつの間にか屋敷の壁に山積みになっていた。

「すごい!何したんですか!?」

興奮気味に聞くと鼻で笑われる。

「ただの魔法だ」

そしてもう一度、パチンと指を鳴らすと、目の前がキラキラと輝いて、その眩しさに思わず目を閉じる。

次に目を開けると驚いたことに。

オレは舞踏会にでも行くかのような正装をしていた。

「ええっ!すごいこれも魔法ですか!?」

魔法使いさんを見つめて聞くと、彼はこくりと頷く。

すごい、すごいと感動するオレに魔法使いさんは淡々と喋り出す。

「馬車だしてやるからそれで城まで行け。好きなだけ食ってこい。ただし、0時の鐘が鳴り終わるまでに帰ってこい。じゃないと魔法が解ける」

そんな魔法使いさんの両手を握って。

「あなたも一緒に行きましょう!」

にこりと笑って言うと彼は少しぽかんとして。

「駄目ですか…?」

と、首をかしげれば魔法使いさんはこくりと頷いて。

「そうだな。悪くない」

そしてカボチャに魔法をかけてカボチャの馬車が現れる。

二人でそれに乗り込んで城へ向かった。
















「わぁ!すごいご馳走ですね!」

にこにこしながら魔法使いさんの手を握って感嘆の声を上げる。

「魔法使いさんは何を食べますか?」

オレ、取ってきますよ。と言うと彼は真顔のまま真っ直ぐオレを見上げて。

「リヴァイ」

「はい?」

聞き返すと魔法使いさんは少しムスッとして。

「俺の名前は魔法使いさんじゃねぇ。リヴァイだ」

そう言われて少しぽかんとして。

段々嬉しくなった。

「オレはエレンです。エレン・イェーガー。よろしくね、リヴァイさん」

ふふっと笑いを溢せば魔法使いさんの眉間のシワは消えて。

控え目な笑い声が返ってくる。

それにしてもリヴァイさん、整った顔してるなぁ。

思わず凝視すると何だ?と聞かれて、

「リヴァイさん、かっこいいなぁって思って」

へらりと力なく笑うとリヴァイさんはそっぽを向いて。

「お前は可愛いぞ」

なんて呟く。

男に可愛いは誉め言葉なのかな?

でもリヴァイさんに言われてのが嬉しくてふふっと笑ったとき。

「なぁ、お前…」

後ろから話し掛けられた。

くるりと振り返ってみると高そうな服を着てる青年がいて。

「?何ですか」

こてんと首をかしげて言うと、彼は顔を赤くした。

「お前、名前は…?」

「エレン・イェーガーです」

「そ、そっか。エレン、オレはジャン・キルシュタイン。よろしくな」

「はぁ…」

何でオレなんかに声を掛けたのか不思議に思いつつ差し出された手を握る。

「なぁ、エレン今暇か?良かったら少し喋ろうぜ」

「あ、でもリヴァイさんが……」

そう言って振り返るとそこには誰も居なかった。

「リヴァイさん?」

「誰か探してんのか?」

「いえ…」

ぐるりとホールを見渡しても見つけられなくて諦めてジャンに付いていく。

ジャンがオレの手を引いて着いた先はホールのベランダで。

外の少し冷たい風がホールへ流れていって。

「風、きもちいい」

ぽつんと呟くとジャンがベランダから外を眺めて。

「お前、どこの家の人間だ?」

と、唐突に聞いてくる。

オレは答えようとして気付く。

そーいやこっそり来たんだった。

継母たちにバレるのはまずい。

オレは咄嗟に話題をすり替える。

「ジャンは踊らないのか?丁度始まったぞ」

ダンスホールを指差して言うと彼はオレを見つめて。

「じゃあ、一緒に踊ってくれるか?」

そしてぎゅっ、と手を握られて逃げられなくなる。

ダンスはどちらかと言うと得意だし別にオレは構わないのだが。

「オレら男二人で踊るのか?オレ、女パートは踊れないぞ」

「それでもいい」

変な奴。

そんな本音は飲み込んで渋々手を引かれてホールに行く。

ジャンの横顔は、とても嬉しそうだった。

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