短編集

□3:鐘の音と、あなたの声と。
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男二人でダンスホールに出て曲に合わせてどちらともなく踊りだす。

結局ジャンが女の子パートを踊っててちょっと笑ってしまった。

「お前、ダンス上手いな」

「ジャンも上手いよ。女の子パートだけど」

クスッと笑って言えばジャンは顔を赤くして。

ホールの真ん中で踊るものだからたくさんの人の視線が刺さる。

ちょっと居づらいなぁ。

なんて思って眉毛を下げると、

「お前もっと楽しそうな顔しろよ。そんな顔してると変に思われるだろ」

これはジャンなりの励ましだと受け取っていいのか。

「うん」

オレはにこりと笑って曲に乗ってステップを踏む。

あぁ、たのしい。

ジャンもオレを見て小さく笑って。

楽しいはずなのに、頭の中を占めるのはリヴァイさんの事ばかり。

リヴァイさんは何をしているんだろう。

今日はもう会えないのかなぁ。

だったら明日、お礼を言わなくちゃ。

あ、でもオレ、リヴァイさんの家知らないや。

そんなことを考えて、少しだけ、寂しくなった。

そもそもリヴァイさんは何者?

何で魔法が使えるの?

何でオレのためにここまでしてくれるの?

一つ、疑問が降ってくると次々と雨のように頭の中をさまよう。

いくつも、ふわふわと。

それでも踊り続けて、いつの間にか0時の鐘がなるちょっと前。

「帰らなきゃ…」

そっとジャンの手を離して呟くと引き止めるように手首を掴まれて。

「なぁ、お前……また会えるか?」

オレは目を伏せて俯く。

するとジャンはオレの耳元でハッキリと、

「……必ずお前を探す」

と言ってオレの手首をそっと離す。

それからポンポン、と頭を撫でられて。

オレは急いで城を出て馬車に乗って家へ帰った。















「どうだった?舞踏会は」

馬車に乗ると隣にリヴァイさんがいた。

「リヴァイさん!どこに行ってたんですか。心配しました!」

少し怒って言うとリヴァイさんは驚いたような顔をして。

「何で心配したんだ?」

なんて言うもんだから。

「だって!リヴァイさん急に居なくなるから…!もう、二度と会えないような気がして…っ、」

安心すると視界がぼやけて。

あぁ、オレ泣きそう。

唇を噛んで少し俯くと不意に頬を撫でられて。

驚いてビクッと肩が揺れる。

目だけリヴァイさんに合わせると彼は嬉しそうな顔をしていた。

「もうっ!笑い事じゃありません!」

頬を膨らませて言うけどリヴァイさんはやっぱり笑ってて。

「エレン。お前はそんなに俺のことが好きか?」

からかわれるように告げられた言葉。

オレはリヴァイさんを困らせたくて、咄嗟に言い返した。

「好きですよ!」

その途端、リヴァイさんは笑うのをやめて。

じっとオレを見つめてくる。

顔に熱が集まる感覚。

オレ、今絶対顔赤い。

自分から仕掛けておいてこうも簡単に返り討ちにあうなんて。

リヴァイさんはずるい。

なんだか悔しくて上目遣いに見上げるとオレの頬にあったリヴァイさんの手がするりとオレのうなじを撫でる。

そして、

「エレン……」

と、オレを呼ぶ吐息混じりな色気を纏った声がして。

段々近付く整った顔。

オレはゆっくり目を閉じて。

それと同時に、唇に触れる柔らかい感触。

リヴァイさんの唇、温かい。

ぼんやりと考えていると、唇を優しく食まれて。

吐息を溢せばキスは更に深くなる。

あぁ、頭が痺れる。

そんな錯覚に襲われて。

苦しくなってリヴァイさんの背中を叩くとやっと唇が離された。

肩で息をしているオレを見て、リヴァイさんはふっ、と笑って。

オレの頭を優しく撫でて。

「オレはお前が好きだ。エレン」

なんて言う。

「でも、今日会ったばかりですよ…?」

とろんとした頭で考えて言うとリヴァイさんは真面目な顔で、

「俺は……5年前から、お前に片想いしている」

「え?」

そして家に着いて。

魔法が解けたのか、ボフンっとカボチャの馬車が消えて。

リヴァイさんはまた、オレの唇に軽いキスをして。

「じゃあな」

そう、呟いて煙と共に暗闇へ消えていった。

リヴァイさんへ伸ばした手は空を掻いてゆっくりと下がっていく。

もう会えないの?

口に出せない疑問を頭の中で何度も繰り返した。






『俺は……5年前から、お前に片想いしている』






リヴァイさんのその言葉が頭の中をリフレインして。

俺は心臓のある場所を押さえた。

あぁ、胸が痛いなぁ…。

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