短編集

□break up
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大好きなお前を。

食べたいと思い始めたのは、いつからだろう。















「おはようございます、兵長」

朝、廊下を歩いていると後ろから声を掛けられる。

パタパタと足音を響かせて駆け寄ってくるそいつは新兵で巨人化の能力を持つエレン。

「あぁ」

と、素っ気なく返せば嬉しそうに笑う。

よく笑う奴だな。

背伸びをして自分より背の高いエレンの、柔らかい茶髪を撫でれば照れたように細められる金色の目。

それから頬を赤くして、

「好きです、兵長」

とはにかんで。

殺して食べてしまいたい欲求に駆られる。それを必死に押さえて、

「俺も好きだ」

と返す。

すると優しく抱きしめられて。

エレンの匂いで肺がいっぱいになる。

本当に。

俺以外に触れてほしくない。

俺以外の声を聞いてほしくない。

俺以外にその声を聞かせたくない。

俺以外にその姿を見せたくない。

俺以外の人間を見てほしくない。

むしろ、俺以外を、物さえ視界に入れてほしくない。

何もない部屋で、俺だけを見て、俺とお前だけの世界。

なんて素晴らしいんだろう。

エレンを食べたいという欲求を誤魔化すようにエレンの首筋に噛み付いて。

「…っ」

小さく息を呑む音が聞こえた。

滲んだ血を舐めて、体を離して。

エレンは俺を見つめて困ったように笑う。

あぁ、お前の血は甘いな。
















今日も下っ端の兵士を呼び出して殺した。

首から上は燃やして頭蓋骨は砕いて粉々にして森に撒いた。

頭は不味いからな。

体は各関節ごとに切り分けて黒のビニール袋に詰めて部屋に持っていく。

それから石の敷き詰められている床から一枚、石を外すと丁度いい空間があって。

石に囲まれたその空間は陽も一切当たらないため、ひんやりと冷たく生肉を保存するのによく使っている。

今日もそこに肉を詰め込んで。

これでしばらくは食料に困らないな。床に石の蓋をして完全に元に戻す。

そこへ、コンコンとノックされる部屋のドア。

「あの、エレンです…」

遠慮がちな声がして俺は目をすがめて笑う。

「入れ」

すると静かにドアが開けられて。

「兵長…、あの、」

そう言って顔を赤くしてうつむくエレンの首に腕を巻き付けて。

「何だ。ヤられてぇか?」

上目遣いで見も蓋もない問を掛ければ恥ずかしそうに小さく頷くエレン。

俺はエレンの手を引いてベッドまで来るとそいつをシワ一つないベッドに投げて、柔らかいベッドにエレンの体が沈む。

潤んだハチミツのような目で見上げてくるエレンが愛しくて、愛しくて。

あぁ、こいつだったら頭も旨いんだろうな、なんて思いながら。

「今日は機嫌が良いからな。お前の好きなように抱いてやる」

無意識に肉の詰めてある床の石を見る。

エレンはふと、目を伏せた。























エレンの巨人の力が暴発した。それだけならまだ良かったが、そうはいかなくて。

エレンは一人の兵士を喰い殺してしまった。

数日も掛からずエレンの処刑が決まって。

エレンは地下牢から、もう陽を見ることはない。

















「兵長」

地下牢の見張りをしているとき。エレンに呼ばれて何だと顔を向けると、悲しそうな目で見上げられる。

「オレ、兵長と離れるの、寂しいです」

そんなこと言われても。

「……そうだな」

軽く頷いて返事をしてから牢の鍵を開けて、鉄格子の向こう。エレンのいるベッドの隣に座る。

黙っているとそっと手を握られて。

「兵長、最後に二つ…オレのお願いを聞いてくれませんか」

なんだ、と見つめ返すと困ったような笑顔で。

「最後なので、うんと甘やかして…抱いてください」

それに俺は二つ返事で頷いて。

次に二つ目のお願いは、とびきりの泣き笑いで。

「あと、オレ、兵長に殺されたいです」

俺の頭の中は真っ白になる。

「オレ…公開処刑なんて嫌ですし……このままではミカサや104期のみんなが反乱を起こしそうだ、とハンジさんから聞いています」

「……………………………」

「オレが大好きなあなたに殺されるなら、みんな納得してくれます。絶対」

俺はエレンの涙の溜まっている金目を見つめる。

次にエレンは困ったように眉を下げて。

「そして、オレを殺したら、オレのこと食べてください」

「………………………あ?」

金色の、ハチミツのような目を見たまま固まった。

そんな俺の反応を見て、エレンは小さく笑って。

「兵長、そういう人なんでしょう?」

「……知ってたのか」

「はい」

「怖くなかったのか…?」

そう聞けばエレンは大きな目を伏せて。

「最初は怖かったです。でもやっぱりそんなところも含めて、あなたのことが好きなんです。……こんなオレはおかしいですかね?」

クスッと笑って。

俺は呆然とする。

こんな俺が好きだなんて、お前はおかしい。

そんな台詞は呑み込んで。

今、言うのは何となく憚られた。


そりゃあ喰えるものなら喰いたい。

大好きなお前が喰えるんだ。こんな幸せはないだろう。

でも、エレンという存在がいなくなってしまうのが怖い。

でも、気付いてしまった。

明日には、エレンはいなくなるんだ。

どうせ処刑でいなくなるなら、愛するお前を……。

だから俺は頷いて。

「あぁ」

短い返事をした。















情事の後、エレンの体を綺麗にしてベッドの上で向き合うように座る。

俺の手には、いつも人肉を切断するのに使う刃渡りの長いナイフと、ベッドサイドには骨を切断するためのノコギリ。

「では、兵長……お願いします」

寂しそうににこりと笑ってエレンはそう言う。

俺はエレンの首筋にナイフを当てて。

真っ直ぐエレンを見ると彼は少し不安そうに、でも嬉しそうに笑う。

俺はエレンに少しの不安も残らないように滅多に見せない笑顔を顔に張り付けて。

ぐっとナイフを持つ手に力を込める。

そしていつも通り、ナイフを横に凪ぐ時。

「リヴァイさん…愛しています」

反射的にナイフを止めるも遅く、エレンの頭はゴトリと床に落ちた。



















朝、地下牢に来て視界に飛び込んできたものに思わず悲鳴を上げた。

「ハンジ分隊長!?どうしたんですか!!」

部下のモブリットが私の悲鳴を聞き付けて慌てたように走り寄ってきて、私の視線の先を見て息を呑んだ。

「………っ、兵、長…」

モブリットの絶望した、彼を呼ぶ声と、私の嗚咽が地下に響く。

次々と涙が零れて石の床にシミを作る。

なのにどうしても目が逸らせなくて。

鉄格子の向こうにあったものは。

口の周りを血の赤に染めて、辺り一面に脳漿を飛び散らせてこめかみ部分はぐちゃぐちゃで、エレンの首から上を大事そうに抱きしめるリヴァイと、それを囲むように散在する、何かの…多分、エレンのものであろう肉塊。

これが、病的に愛し合っていた二人の、狂気的な最後。

私はその場に崩れ落ちてしまう。

それでもその地獄のような光景から目を離せなくて。

それはきっと、二人が天国にいるかのような、幸せそうな顔をしていたからだろう。
















二人の葬儀はされなかった。

兵団の特に憲兵団のお偉いさん達はこの二人の死について必死に揉み消そうと躍起になるのを眺めるだけの日が数日続いて。

それから、私は自分以外の人間にバレないように森の中に小さな二人の墓を作ってやって、こっそりくすねてきた二人の骨をその墓に入れてやった。

真っ白な花を、墓の前に供える。

「……まったく…本当に君らは私を驚かせるね…」

「…もっと綺麗な死に方しなよ……」

「それに…リヴァイも…いくらエレンの処刑の三日後に自分の処刑だったからって…死ぬことは無かったでしょ…」

「もう少しでリヴァイの審議をひっくり返せるとこだったのに……」

「エレンは無理でも……リヴァイだけは救おうと、調査兵団のみんなは頑張ってたんだよ…」

「でも、まぁ……」

「二人が幸せなら…私はこれでもいいよ…」

「また、会いに来るね。……今度はエルヴィンでも連れて。お酒でも持って……ね、」

涙をボロボロ溢して私は立ち上がる。

墓に背を向けて歩き出して、ゴーグルを額に上げて涙を拭うと、後ろからブワッと大きな風に吹かれて反射的に振り返る。

小さな墓石のリヴァイとエレンの名前が、太陽の白い光に照らされて。

キラキラと光っていた。














―――大好きなエレンの肉を喰らっても俺に残るのは大きな喪失感だけだった。やっと一つになれたのに、なぜか幸せな気持ちは微塵も無かった。おかしい。エレンはこれから消化されて俺の血となり肉となり、エネルギーに変換されるはずなのに。やっと、一つになれたのに。エレンの肉を喰らいつつ、ふと、分かってしまった。もう、エレンは俺に笑いかけることはない。それどころか話すことも、動くところを見ることさえ叶わない。食人鬼が聞いて呆れる。俺は生きているエレンが、好きだったのか…。エレンの頭を抱いて、真っ正面から見つめて。
「エレン、俺も…愛してる」
冷たくなったエレンの唇に優しく自分の唇を重ねて、熱を移すように啄んでは食んで、ゆっくりキスを深くしていく。それでも、当たり前だけど、目を開くことのないエレンの青白い顔を見つめて、無意識の内に涙が零れていた。
なぁ。
「お前は今、幸せか…?」
それからベッドサイドの引き出しに隠してあった散弾銃を取り出して。
多分、今までの人生で最高の笑顔で。
「俺は今、とても幸せだ…」
そう言ってもう一度エレンの唇にキスを送る。そしてエレンの頭を胸に抱きしめて。
散弾銃の銃口をこめかみにあてた。それからゆっくり目を閉じて。

エレン、お前が好きだ。

愛してる。

いや、どんなに言葉を尽くしても俺のこの気持ちは到底伝わらないだろう。

それぐらい、愛してるんだ。

だから、今からお前に会いに行く。

どうせ俺も、もうすぐ殺される。

俺はトリガーにかかる指に力を込めて。

死ぬことが怖くないと言えば、嘘になる。

でも。

それでも。


お前がいれば、俺は……――――――





end

⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒⌒
はい。
突然ですが俺はネクロフィリアでカニバリストでして…。
死体も食人ネタも大好きなんです。
そもそも暗くて病んでるダークな話が大好きで何で長編があんなに病んでないのか不思議なぐらいですww
今回はネクロでカニバな俺の趣味が高じて書きました。
反省はしてません!
病んでるリヴァイさん好きだ。
そして俺の本命がハンジさんだからどの話にも大体出てくるっていうww
ハンジさん大好きです。
読んでいただき有り難うございました。

by、良樹

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