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□2:ラブユー、ステルス。
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「どういうことか説明しろ」

ハンジを引きずってエルヴィンの執務室に乗り込んで、デカイ椅子に座って優雅にコーヒーを飲んでいるエルヴィンに詰め寄った。

すると彼は困ったような笑顔で。

「何から話せばいいかな」

「エレンはいつから入院してるんだ」

このままでは色々とはぐらかされてしまいそうでしょうがなく一つ一つ聞いていくことにする。

「ちょうど一年前ぐらいからかな」

「何でその時呼ばないで今、呼んだんだ」

つかみかかる勢いで聞けばエルヴィンは目を細めて笑って。

「エレンがそう望んだからだよ」

と、訳の分からないことを口走る。

……もうどうでもいいか。

せっかくエレンに再会できたんだ。今はその事実だけあれば十分だ。

一気に脱力して溜め息を吐くと後ろからハンジが抱き付いてきて。

「リヴァーイ!久し振りだし一緒にご飯食べようよ!ねぇ!食堂行こうよ!」

俺は呆れて舌打ちをして。

「触るな奇行種」

「だってリヴァイちっちゃくて抱き付くと腕の中にすっぽり収まる感じが何とも言えなくてついww」

「お前も相変わらずのまな板だな」

仕返しとばかりに鼻で笑いながら言い返すとハンジはふいに俺の手を掴んで。

ぺた。

と、自分の胸を触らせた。

「何しやがる削ぐぞ」

ギロリと睨みつけるとハンジは爽やかな笑顔で。

「コレ、胸筋」

と言った。

…………………は?

「お前……昔よりまな板になったな…まな板というよりベニヤ板か?」

女なのにな、と本気で同情しながら呟くとハンジは面白そうな顔でニヤリと笑って。

「違うよ!私は男だよ」

………………………………。

「何言ってんだお前。頭沸いてんのか?」

「別に沸いてないけど。転生したら男に生まれたんだよ。あ、ちんこついてるけど触る?」

そう言ってハンジは俺の手を下半身へ持っていこうとする。

俺は突然寒気がしてバッとハンジの手を振り払ってハンジの全身をじっと見つめる。

………違いが分からないがきっと本当なんだろうな…。

「リヴァイは今、男?」

「女に見えるか?」

突然の問いに呆れつつそう返せば食えない笑顔で、

「でも背ぇ低いし」

と返される。

削いでやろうか…。

自然と戦闘のかまえをすればヘラリと笑うハンジ。

そしてハンジはさっきまでの作り物とは違う、昔と同じ笑顔で。

「また、リヴァイに会えて嬉しいよ」

なんて言うものだから、毒気を抜かれて大きな溜め息を吐く。

変わんねぇなこいつ。

なんて思っていればエルヴィンが微笑ましいとでも言うような気持ちの悪い笑顔を張り付けて。

「そういうことで、エレンの治療は二人に任せたよ」

その言葉を聞いたあと、食堂に行こうとハンジに引きずられてエルヴィンの執務室を後にした。












「お前もエレンの担当なのか?」

さっきのエルヴィンの言葉が気になってそう聞くとハンジは食べていたカレーを飲み込んで。

「私はエレンが自傷したときに傷を縫ってるだけなんだけど、エレンはここに入院する前はここの外科に通っててだから付き合いは長いんだ。えーっと、6年ぐらい?だったかな」

「だからあんなになついてやがったのか…」

「怖がられたからって落ち込むなよリヴァイ」

「落ち込んでない」

ハンジはヘラヘラと笑ってカレーを口に運ぶ。俺もパンを食べ進めて。

ふと、ハンジは思い出したように言う。

「あっ、そーいえばリヴァイ。解離したエレンに会ったらいっぱい甘やかしてあげて。エレン、喜ぶよ」

ハンジはふふっと笑って。


解離性同一性障害。

別名、多重人格障害。

虐待などといった精神的に耐え難い状況になったとき、そのつらい記憶を切り離して思い出させないようにして心のダメージを回避するのが解離性健忘というが、同一性障害は解離性障害の中で最も重く、切り離したつらい記憶や感情が成長して別の人格として表に出てしまう精神病だ。

つまり、主人格と解離してる時の人格は全くの別人。人によっては一人称も違うし利き手さえ変わってしまうことがある。

それにしても、何で解離したエレンが喜ぶんだ?

不思議に思ってハンジに聞けば見てからのお楽しみと笑われた。

「あと、エレンの部屋は夜に四回、22時と0時と3時と5時に見回りがあって今まで私が行ってたんだけど今日からリヴァイに任せていいよね」

「そんなに多いのか?普通は二回程度だろ」

「普通は二回だよ。四回なんてエレンだけだ。あ、見回りの時に自傷してたらすぐ呼んでね。エレン、力加減無いから骨が見える程切るし場合によっては命に関わるんだ」

「分かった」

本当に深刻なんだな…。

昔の元気だった頃のエレンを思い出してひどくやるせない気分になった。

その後、ハンジとどうでもいい近況報告やら、今まで何をしていたやらそんなたわいない話をしていると、あの…と控え目に呼ばれて振り向けばそこには金髪のナース服を着た女がいて。

「あ、やっぱり!兵長ですよね、お久し振りです」

胸の前で書類の束を抱きしめて嬉しそうにいうそいつは。

「お前……ペトラか?」

するとにっこりととびきりの笑顔で。

「はいっ!」

と、返事をした。

まさかペトラも居るなんて。何で言わなかったんだとハンジを睨めば返ってくるのは意味深な笑顔。

「あの、私、ここの看護師として働いてるんです。兵長は…?」

「兵長はやめろ。名前呼びでいい」

「名前呼びだなんてそんな出来ませんよ!」

「………そうは言ってもな。俺は今、兵長じゃない」

「えっとでは……リヴァイさん…?」

「あぁ。俺はエレンの担当医としてエルヴィンに引き抜かれたんだ。精神科医をしてる」

「ねぇ、聞いたペトラ!このリヴァイが精神科医だよ!?笑えるでしょ!!」

ハンジお前本当に失礼な奴だな。

ギロリと睨むと片目をパチッと閉じてウインクを返されて危うくキレそうになったとき、ペトラが顔を赤くして。

「いえ、リヴァイさんは、その……昔から、優しいですし、人の心を汲むのが上手いですし、向いてると思います…」

「そうか」

と言うと、はい…と返事をされて。

向いてるなんて初めて言われたな。

まぁ、それとこれとは話が別だ。俺はハンジの足を机の下で蹴って。

「ところで、エルヴィンとお前とペトラ以外誰がいるんだ?」

腕を組んでそう言えばヘラヘラと笑うハンジに顔を青くするペトラ。

「会ってからのお楽しみ〜」

そう言って肩を竦めるハンジを蹴ろうとするとペトラに止められて。

何なんだ。

あの頃と全然変わらないじゃないか。

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