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□bit
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俺は自分で認めちゃうくらいイケメンだしバレーもできる。

顔が良くてスポーツが出来るんだから当然モテる。練習中も女の子がわざわざ俺を観に来て、試合でもキャーキャー応援してくれる。

女の子に困ったことはない。

色んな子に告白される。

でも、今も昔も俺が好きな人は変わらずただ一人。

ねぇ、岩ちゃん。













「岩ちゃん!好きって10回言って!」

にっこりと、俺の事が好きな女の子が見たら卒倒してしまいそうな完璧な笑顔で、自分より少し目線の低い真っ黒な短髪の彼に言う。

すると岩ちゃんはさっきまでの無表情を思いっきり歪めて口を開いた。

「はぁ?嫌だ」

あぁ、もうそんなに眉間にシワ寄せたら跡ついちゃう。せっかくの可愛い顔が台無しだよ。

なんて思うけど言わない。

言えない。

昔から一緒だからといってその分距離が近いのかと言われればそんなことはなく俺が近付けば岩ちゃんは無言で離れる。

そんな距離感。

だからいい加減俺と岩ちゃんの超絶信頼関係以上の関係を築きたいんだけど最近、とあることに気付いてしまった。

俺、もしかして岩ちゃんに嫌われてる?

俺が笑えば蹴りを入れられ、女の子の声援に手を振れば後頭部にボールをぶち込まれる。

これはひどい。

及川さん拒絶反応としか思えない。

いや、でも敢えて気付かないふり。

だって本当にそうだったら悲しすぎるじゃない。











「ねぇ〜岩ちゃん!好きって10回言って!」

今日も岩ちゃんに好きと言われたくてもう部活前の恒例となっている「ねぇ、ピザって10回言って?」の好きバージョンを口にする。

ちなみに好きを10回言ったあとは「じゃあ俺の事は?」「好き」ってなる予定だ。

夢見がちだって?

知ってる。

そんな俺に岩ちゃんは溜め息を吐いて。

アレ、いつもだったら素早く罵倒が返ってくるのに。

そんなことを思いながらキョトンと首をかしげると岩ちゃんは真っ直ぐ俺を見つめて、ポツリと呟くように。

「何でお前は毎回俺に好きって言わせたがるんだよ」

鈍感の中の鈍感、超絶お鈍さんな岩ちゃんは可愛らしい顔で聞いてきた。

「俺が岩ちゃんのこと好きだから岩ちゃんにも俺のこと好きって言ってほしくてに決まってるじゃん」

わざと何とも無いように不思議そうな顔をつくって答えると岩ちゃんは例のごとく眉間にシワを寄せて。

「ふざけてる暇あるならサーブの一本でも練習しろ」

うわぁすごいスルースキル。

俺が本気で言ってるなんて微塵も思ってないこの態度。

長年想い続けて何度もあからさまな台詞を吐いてきたけどここまで言われて気付かないなんてちょっとどうなの?

「ねぇ、岩ちゃんさ」

俺は無意識に岩ちゃんに詰めよって丁度閉じられたロッカーの扉に岩ちゃんの背中がついたところで不安そうに歪められた顔の横に腕をつく。

世間一般でいう壁ドン。

あぁ、岩ちゃんの戸惑った顔…ゾクゾクする…。

思わずふっと笑って状況を掴みきれてない彼の額に自分の額をコツンとくっつけて。

「岩ちゃんはさ、そんなに俺に興味ない?こんなに分かりやすく好きって言ってるのに何で分かってくれないの?どうしたら本気で好きだって伝わるの?ねぇ、教えてよ岩ちゃん…」

すると彼はうつむいてしまう。

顔に射す陰が不機嫌さを表していて。

あぁ、怒ったかな。

諦めかけて小さく溜め息をつくと岩ちゃんがモソモソと何か言った。

「え?」

聞き取れなくて聞き返すと岩ちゃんは突然顔を上げてキッと俺に睨み付けて。

「お前、うざい」

そして俺の腕をすり抜けてすたすたと俺を置いて部室を出ていってしまう。

………………………………ん?

……………………………………えぇ?

えぇぇえ!?!?

今うざいって言った!?

こんな甘いシチュエーションで“うざい”って言った!?

うざい!?!?

俺は頭を抱えてその場に踞る。

脈ナシ。

これは脈ナシ。

脈ナシどころか嫌われてる。完全に嫌われてる。付き合うとかまず論外。

だって嫌われてるもん。

ひんやりと冷たい金属のロッカーに寄り掛かって体育座りをして部室の天井を眺める。

するとじわりと目の前がぼやけて。

自分が泣いてると気付いたのは、頬を伝う涙がポタリとシャツに落ちた時の音で。

恋に落ちる音があるなら、失恋の音もあるのだろう。

そしてこれがきっと、恋が終わった音だ。












それから俺は部活をサボった。

学校では岩ちゃんを避けた。

あの姿を見るとつらくなるから目も向けなかった。

片想いを片想いで終わらせる気なんて無かったけど、もう無理なんだと分かってしまったから。

俺から手を引こうと思った。

岩ちゃん。

俺、岩ちゃんのこと大好き。

岩ちゃんがいない生活なんて考えられない。

岩ちゃんがいないと生きていけない。

でも、そういうの良くないよね。俺、そろそろ岩ちゃん離れした方が良いよね。

だから、岩ちゃんのことはキレイにさっぱり諦めるから。

もう少し時間をちょうだい。

ね。

今まで有り難う、岩ちゃん。











岩ちゃんを忘れる努力をして、部活をサボってもう一週間。

今日も俺はいつも通り化学準備室でぼんやりと時間を潰していた。

化学準備室は日光に当てられない薬品もあるからか常に窓に暗幕が引いてあって今の俺にはとても都合が良かった。

暗幕を通して少しだけ入る夕陽の光に目を眇て。

あー、部活に行かなきゃなぁ。

みんなにどんな顔を向ければいいのかな。

大会前や試合前じゃなくて本当によかった。

岩ちゃんはどうしてるかな。

なんて、とめどなく考えて。

……部活に行ったら、上手に笑えるかな。

丸椅子に座って机に顔を突っ伏す。

こんなことなら告白なんてしなきゃよかった。

後悔の溜め息を一つ、はぁ。と吐く。

するとバタバタとドアの外から足音がして先生でも来たのかな、と思って構わず腕に額をグリグリと押し付ける。

先生でも生徒でもどうせ準備室じゃなくて化学室に用があるんだろうし。

なんて思った矢先ガラッとドアが開いた。

誰だよ。

と心の中で毒づきながら寝たふりをすると足音が近付いてきて突然バシッと後頭部に走る痛み。

「ちょ、いったぁぁぁあ!なに!!」

後頭部を片手で押さえてガバッと顔をあげるとそこにはめちゃくちゃ不機嫌な顔をした岩ちゃんがいた。

待って心の準備が出来てない。

何を言っていいか分からず言葉の出ない口をぱくぱくすると岩ちゃんは今まで聞いたことが無いぐらい低い声で言った。

「なに無断で部活にサボってんだ。殴るぞボゲ」

普段通りの態度に胸が苦しくなる。

俺は頭の中でぐるぐる考えて。

何て言えば岩ちゃんは怒らない?

何て言えばこれ以上嫌われない?

それでも考えた結果も出ない内に口から勝手に言葉がついでた。

「俺は岩ちゃんのなんなの?」

岩ちゃんが片眉をピクッと上げる。

次は体も勝手に動いて、俺は岩ちゃんの両肩を逃げられないように、逃さないように、力一杯掴んで。

「おい、おめー肩痛っ、」

「お願いだから嫌いにならないでよ!」

岩ちゃんの怒った顔が驚いた顔に変わって俺を見つめる。

「俺、もう岩ちゃんしか好きになれないもん!岩ちゃん以外無理だもん!だから、嫌いにならないでよ…」

一気に捲し立てるて大きく息を吐く。

振りきろうと思ったのに、忘れようと思ったのに。

やっぱり頭をチラつくのは君の顔。

あぁ、やってしまったと。全てを言った後に気付いたけどもう遅くて。

恐る恐る岩ちゃんの顔を見ると彼は心底不思議そうな顔で。

「俺はおめーのこと嫌いなんて一度も言ってねぇけど」

は?

「だっ、だってうざいって……」

言ってたじゃん。と消えそうな声で呟くとあぁ、と納得したような顔で。

「お前のそういう女々しいところ、うざい」

と言った。

「え?」

今度はこちらがキョトンと首をかしげると岩ちゃんは俺を睨み付けて。

「おめーが俺を好きだなんてとっくの昔に気付いてる」

え。

「ぇぇぇええええええ!?嘘デショ!?」

「嘘じゃねーよ」

「だって、でも、今まで一度もっ、」

言い募ろうとする俺の言葉を遮って岩ちゃんは俺の名前を呼んだ。

「あのな、及川」

俺は不安な気持ちで一杯になりながら叱られた犬のようにシュンとして岩ちゃんを見つめる。

「まどろっこしいわざわざ俺に言わせるような事はやめろ。俺だってお前から言われればそれなりに応える」

「うん」

「あとわざとふざけたような口調もやめろ。本気か分からなくなる」

「…うん」

「お前が俺を愛してくれれば俺だってお前を愛してるんだ、いくらでも愛し返してやるし、“好き”だって10回なんてケチらず何回でも言ってやる」

「……うん」

「だから、ちゃんと言ってくれ。俺は真っ直ぐで正直な奴が好きなんだ」

俺は眼球に膜を張ってる涙が溢れそうになるのを堪えて、鼻水をすすりながら。

カッコ悪いけど、全力で。

好きっていうのがちゃんと伝わるように。

「岩ちゃんっ、」

「なんだ。及川」

「好きだよ。ずっと前から、好き。世界で一番、大好き。愛してます。だから、……俺と付き合って…」

「あぁ」

短い返事だったけど、岩ちゃんの優しい控え目な笑顔を見て俺がどれだけ愛されてるか、全部伝わった。

俺は嬉しくて、嬉しくて。

思わず涙が零れ落ちた。

しゃくりあげる俺の頬に手を伸ばして岩ちゃんはグイッと乱暴に俺の涙を拭う。

「うっ……い、岩ちゃぁん……」

「お前は泣いてても綺麗だな」

「ぅえ?」

突然のデレにぽかんと口をあけて岩ちゃんを見つめる。

驚きすぎて涙も止まってしまった。

「え!?岩ちゃんなんて言った!?」

「うるせぇな帰るぞ」

「……っ!ちょ、待ってよ!」

俺はすたすたと歩いていってしまう岩ちゃんを追いかける。

俺に背中を向ける岩ちゃんの耳が真っ赤なのは、絶対見間違いじゃない。

「岩ちゃん」

「あ?」

「好きだよ」

「……俺も好きだ」

俺は急いで岩ちゃんの隣に並んで手を繋ぐ。

ゆっくり絡めるように繋ぐ、恋人繋ぎ。

お互いの指が一本一本が触れ合って、互いの体温が一気に上がった気がした。











「岩ちゃん!部活行こー!」

帰りのHRが終わった後、荷物を持って急いで岩ちゃんの元へ向かう。

にこりと照れ笑いをしながら言うと「ん」と短い返事と一緒に頭を撫でられて思わず頬が弛む。

岩ちゃんはそんな俺の顔を見つめて控え目な、でも目一杯優しい笑顔で。

「及川、好きだ」

と言って荷物を持って歩き出す。

俺は一瞬ぽかんとした後、ハッと我に返って岩ちゃんのあとを追う。

そして隣に並んで呟くように。

「ねぇ、岩ちゃん」

「あ?」

「俺も岩ちゃん大好き!」












___あとがき___

ネットの友人の「あうんかいて」の言葉で初めて書いた阿吽……阿吽のはず…。
阿吽って聞いたら青春の匂いしかしなくてドエロ書こうと思ったのにエロくなってくれなくて多分続けばその内エロくなるタイプだコレ。

きっと金田一や国見ちゃんはこんな二人を見て戸惑うんだろうな。
「常識人の岩泉さんが及川さんに感化された…」
みたいな。マッキーは二人を見る度に笑いそう。まっつんはガン無視だろjk。

続くか分からなかったから一応中編に入れときました。
短編より一ページが長かったので。

最後まで読んでいただき有り難うございました。


良樹

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