大声で魔法の言葉を、
□magic×1
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出会いは唐突だった。
いつもより病院が終わるのが遅くてもう秋に入って少したった頃だから夕陽も落ちそうで辺りは暗かった。
気が向くままに鼻歌を歌いながら歩いていてふと、橋で足を止める。
もうすぐ真っ暗になりそうな、それでいてまだ夕陽のオレンジも残っている微妙な色合いの空にぽつぽつと浮かび始めた星を見つめて、綺麗だな。とぼんやり思う。
俺は無意識に橋に手を掛けてぼんやりと空を眺めていると急に左腕を掴まれてぐいっと引っ張られる。
突然の引力にかなうはずもなくやべぇ倒れる、と思って覚悟して目を閉じたが次に俺を襲った感触はアスファルトの固いものではなく布のぽすっというものだった。
恐る恐る目を開いて顔を上げると困ったような顔をしたイケメンという言葉が妙にしっくりくる、むしろイケメンという言葉の権化じゃないかってぐらい顔の整った男がいて。
えっとー…、
挨拶でもしようかと口を開きかけたとき、そのイケメンは俺の両肩をガッと掴んでぐっと顔を近付けて。
「あんな所で何してたの!?落ちたらどうするの!?死ぬつもり!?」
突然怒鳴られてぽかんと放心しながら俺は彼の顔を見返す。
なんだか怒ってるような、悲しそうな彼の顔を少し不思議に思いながらぽつりと自分がしていたことを口にする。
「あの…星が、綺麗だなー…って思って…その、ごめん」
すると今度は彼がぽかんとしてあぁ、イケメンはどんな顔しても画になるんだなぁなんて思ってるとはぁぁあー!と大きな溜め息を吐かれて。
「なんだ…キミ、自殺でもしそうな雰囲気だったから焦っちゃった」
そしてキラキラの困った笑顔でははっと笑う。
そんな彼を見て俺は特にそうしたいと思ったわけでもないのに言葉が口をつい出た。
「ねぇ。俺ってそんなに死にたそうな顔してる?」
すると彼は焦ったように首を横に振って。
「ごっ、ごめん!そういう訳じゃなくて!何て言うか…キミ、掴まないと消えちゃいそうだったから…」
それからまたキラキラの困った笑顔。
俺は思わずふっと笑ってしまう。
「謝らなくていいよ、別に怒ってるわけじゃないから。でもまぁ…生きたいとは思わないね、こんな世界」
そう言えば俺の両肩を掴む彼の手に力がこもる。
そんな彼の腕をするっとあやすように撫でてヘラリと笑って見せる。
「まぁ、死なないからそんな怖い顔しないでよ」
それから俺の両肩を掴む手をスッと外して彼の両手を握って。
「心配してくれて、有り難うね」
そしてくるりと踵を返して家に帰ろうと歩き出すとまた後ろから今度は優しく手を握られて。
振り返るとぶわっと風が吹き付けて彼の髪を乱した。
そんな光景も綺麗だと感じながらぼうっと見つめると彼は緊張したような固い表情でぎこちなく言う。
「あっ、俺は及川徹。…キミは?」
その言葉にナンパみたいだなとか思いながらふはっと笑って。
「俺は原沢空絵」
そして及川くんの手をやんわりと外して。
「じゃあね、及川くん」
小さく手を振って、優しい彼にさよならをした。