大声で魔法の言葉を、
□magic×2
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〜及川side〜
出会いは唐突だった。
いつもより練習が早く終わってもう秋に入って少したった頃だから夕陽も落ちそうで辺りは暗かった。
気が向くままに鼻歌を歌いながら歩いていてふと、橋に差し掛かった所で足を止める。
夕陽が沈む方向をぼんやりと焦点の合ってない目で眺めている同い年ぐらいの男を見付けた。
通りすぎようとして段々近づく。ふと、強めの風がソイツに吹き付けて顔にかかっていた少し長めの青っぽい黒…藍色っていうの?取り合えずそんな不思議な色の髪がふっと払われて俺はついその顔に見とれてしまう。
俺はイケメンと言われるし顔が整ってる部類だと自覚はある。そんな俺が認めるくらいソイツは綺麗な顔立ちをしていた。
しばらくぼんやりと見つめていたがソイツが橋に手を掛けて身を乗り出した所で突然血の気の引くような感覚に襲われて無意識にソイツの左腕を掴んでぐいっと引っ張ってしまう。
突然の引力に敵うはずもなくソイツは俺に倒れ込んできて、俺は綺麗なソイツを抱き止める。
それから恐る恐るといったように顔を上げきょとんとした大きな目で俺を見上げるソイツ。妙に綺麗って言葉がしっくりくる、むしろ綺麗って言葉の権化じゃないかってぐらい顔の整った奴だった。
本当、思わず人間かと疑っちゃうくらい綺麗な男。でも抱きしめた感じ俺よりちっちゃいから身長は170pってとこかな。それにしては随分と軽いけど。
俺を見上げたソイツは何か言おうとしてか口を開きかける。あ、そう言えば俺何でコイツを止めたんだっけ…あ。
「あんな所で何してたの!?落ちたらどうするの!?死ぬつもり!?」
思い出して焦ったように言うと突然怒鳴られてぽかんと放心しながら俺の顔を見返すソイツ。ちょっときつく言い過ぎたかな。でも本当に自殺とかだったら困るし。
それを聞いたソイツはぽかんとした後申し訳なさそうに少しはにかんで。
「あの…星が、綺麗だなー…って思って…その、ごめん」
今度は彼がぽかんとした。え、なにその可愛い理由は。無駄に心配しちゃったじゃない。脱力してはぁぁあー!と大きな溜め息を吐く。
「なんだ…キミ、自殺でもしそうな雰囲気だったから焦っちゃった」
そう言って誤魔化すようにとびきりの困った笑顔でははっと笑う。
するとソイツは俺を見て心底不思議そうに呟くような声で言った。
「ねぇ。俺ってそんなに死にたそうな顔してる?」
うわ、やばい。怒らせた?
「ごっ、ごめん!そういう訳じゃなくて!何て言うか…キミ、掴まないと消えちゃいそうだったから…」
慌てて謝ってまた誤魔化すためのとびきりの困った笑顔を向ける。
するとソイツはふっとキレイに笑って。
「謝らなくていいよ、別に怒ってるわけじゃないから。でもまぁ…生きたいとは思わないね、こんな世界」
そう言われて自然とソイツの両肩を掴む俺の手に力がこもる。
そんな俺の腕をするっとあやすように撫でてソイツはヘラリと笑って見せる。
「まぁ、死なないからそんな怖い顔しないでよ」
それから俺の両腕をスッと外してからそのまま俺のの両手を握って。
「心配してくれて、有り難うね」
と二回目のキレイな笑顔で言った。
そしてくるりと踵を返して歩き出すソイツの手を今度は優しく、そっと握って。
ソイツが振り返るとぶわっと風が吹き付けてソイツの髪を乱した。
そんな光景も綺麗だと感じながら必死にソイツを繋ぎ止める方法を考えるもいい案は出なくて結局自分の名前を口にする。
「あっ、俺は及川徹。…キミは?」
この言葉、ナンパみたいだなぁなんて自分ながら思っているとソイツはふはっと楽しそうに笑って。
「俺は原沢空絵」
それから原沢くんは俺の手をやんわりと外して。
「じゃあね、及川くん」
小さく手を振って、キレイな笑顔でさよならを告げた。