大声で魔法の言葉を、

□magic×8
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「空絵。研磨。起きろ」

肩をゆさゆさと揺らされて薄く目を開くと目の前にクロがいた。

「あ……クロ、…はよ」

寝ぼける頭で挨拶をしてぼやける視界の中のクロを見る。

相変わらずすごい寝癖だなぁ。

ごしごしと目を擦ると手首を掴まれて止められる。

「おい。目ぇ傷付けるぞ」

「うぇ〜過保護だ〜」

「しょうがねぇだろホラ顔洗ってこい。研磨も起きろ」

のそのそとゆっくりベッドから起き上がって洗面所に向かう。

冷たい水で顔を洗うと少し目が覚めた。手ぐしで髪を整えて鏡に写る自分を見る。

藍色の髪……黒く染めようかなぁ…。

でもきっとそういうとクロと研磨に止められるんだろうな。

洗面台に置いてある自分の歯ブラシで軽く歯磨きをしてから部屋に戻る。

研磨はまだ起きてなくて。

クロは呆れたように溜め息を吐く。

「研磨ー。朝だよ起きて」

トントンと研磨の肩を叩くとダルそうに見上げられて、ふにゃりと笑えば突然研磨は体を起こした。

「おはよ」

そう言うと同じように「おはよ」と、返される。

「そー言えばクロ達は何時から学校?」

するとクロはニヤッと笑って。

「今日1日お前に付き合ってやるよ」

「ん?」

「お前帰るの夕方だろ?」

「うん」

「だから俺も学校サボる」

「えっ。学校行きなよ受験生」

「うるせぇ普段行ってるから1日ぐらい休んでもいいんだよ。つかお前に言われても説得力ねぇ」

そして楽しそうに笑うクロ。

すると研磨が拗ねたように口を開く。

「クロが休むなら俺も休む」

「お前は学校行け」

「クロに言われたくない」

あー……もぅ…。

「じゃー今日は二人に付き合ってもらいますかー」

ぐーっと伸びをしてから二人にそう言って笑いかける。

「その前に朝ごはんだなぁー。お腹すいた」

するとクロが、

「かーちゃんが飯作ってあるから食べろって言ってた」

とさして興味なさそうに言う。

「やったー!ご飯だご飯〜」

嬉しくってるんるんとリビングに向かう。その後ろでクロを研磨は顔を見合わせて苦笑した。













「で、何がしたい?」

ご飯を食べ終わって朝のニュースを観ているとき隣に座っているクロに聞かれる。

えー。

「んー…俺は別にクロと研磨がいればそれでいいよ」

それを聞いたクロはピシッと固まって。

「お前…本当に可愛いな」

「俺、男だけど」

「空絵超可愛い」

「だから俺は男だってば」

うりうりと頭を撫でられて男なのに可愛いと言われたことに少し腹を立てながらもされるがままでニュースを観る。

ニュースでは山が紅葉してる場面が流れていてリポーターの人がキレイな紅葉スポットを紹介していく。

あぁ、そう言えば。

「もう秋かぁ」

ぽつりと呟くとシィィイインと静かになる部屋。研磨でさえゲーム機のボタンを連打する指を止めた。

少し不気味に思いながらも一人言を続ける。

「今10月…カボチャの季節か……カボチャが欲しい」

パンプキンパイでも作りたいな。

そう思うとクロに名前を呼ばれて目だけそちらに向ければにこにこと胡散臭い笑顔で。

「カボチャ、買ってあげようか?」

えっ。

「いいの?」

「あぁ」

「じゃあついでに小麦粉とバターと卵と砂糖と生クリームとコーティング用チョコレートが欲しいな」

「いいよ」

そうして今日は自然とお菓子作りをすることになった。











焼き上がったパンプキンパイを常温になるまで放置してる時間、バレーを教えてくれと言ったらクロと研磨は目を見開いて。

二人ともキョトンとして目が真ん丸で面白い。

クスッと笑うとクロが不思議そうな顔で、

「本当にやるのか?バレー…」

「うん。もう、決めたから」

次に研磨が同じように不思議そうな声で、

「じゃあ宮城に帰ったらバレー部に入るの?」

「うん」

ふにゃりと笑って頷くとクロはニヤッと怪しい笑顔でバレーボールを持ってきて俺達は外に出た。




研磨がフワッとボールを投げてクロがポンッと打つ。それからこっちを向いて。

「いいか。さっきのがオーバーハンドパス。で、今のがアンダーハンドパス。やってみるか?」

「うんっ!ボール投げて投げて!」

「犬か」

クロは苦笑しながら場所を代わってくれて俺は楽しくてぴょんぴょんとその場でジャンプをする。

それを見て研磨は小さく笑って。

「空絵は本当に好きなんだね、球技」

その言葉に一瞬ぽかんとして。

あぁ…。

「そう、だね…うん………好きだ!」

ふにゃりと力の抜けた笑顔で答える。

ボールを追いかけてこそ、俺なんだ。

素直にそう思うと、バスケが出来なくなった未練より純粋にバレーがしたいという気持ちの方が勝って。

研磨が投げてくれるボールを次々とアンダーとオーバーで返していく。

思ったよりボールにかかる重力は重くて腕の内側が痛くなってくる。

それでも、ゲームもしてないのにそれだけだけど、とても楽しくて。

鼻歌を歌いながらヒョイヒョイとボールを返していく俺を見てクロがぽつりと呟く。

「お前、本当にバレー…初めてか?」

その問いに俺は首を傾げて飛んできたボールを返しながら。

「初めてだよ。小さい頃もいつもバレーしてるクロと研磨の横でバスケの新技練習してたじゃん」

「だよなぁ…」

「なに?」

「お前、初めてにしてはうますぎじゃねぇか?変なところにボール飛ばねぇしどんな球もちゃんと研磨が動かなくても取れる範囲に返ってる」

「えー?普通だよ」

冗談だと笑い飛ばすとクロは何か考えるように黙ってしまって俺は不思議に思って研磨を見る。

すると研磨は何を思ったのかいつもの無表情で聞いてくる。

「空絵はバスケでポジションはどこだったの?…まぁ聞いたところで分からないけど」

それに俺は眉を下げて。

「PFだよ」

「ぱわーふぉわーど…?」

「えーっと…攻撃の要っていうか…」

「バレーでいうWS的な?」

「ういんぐすぱいかー…?ごめん今度はこっちが分からないけど研磨がそう思うなら多分合ってる」

「へぇー。じゃあ空絵はエースだったんだね」

研磨が嬉しそうに笑う。

「へ…?」

不思議に思って聞き返すと研磨はこくんと首をかしげて。

「だってエースって大体WSだから」

あー……そっか。そうだ。

「うん。俺…エースだったよ。チームの、エースだった」

吹っ切れたようにニカッと笑いかければ研磨も笑い返してくれて。その光景を見てクロも小さく笑っていた。

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