大声で魔法の言葉を、

□magic×11
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今日はバレー部の練習も何もない日曜日。

俺は約束の時間に約束の場所へ向かっていた。

待ち合わせ場所に着いてみると一ヵ所、女の子の群れが出来ていて。

あぁ、あそこにいるのか。

俺はため息を吐いてその女の子の群れの中へ突っ込んで行く。

そしてその中心で困った顔をした彼の前に立って、俺はこの人のツレですよと分かるように大きめの声で言う。

「待たせてごめん。行こう、徹」

それから俺は徹の手を握って女の子の群れを抜け出した。

それにしても、

「凄いね徹。モテモテだ」

思ったことを言うと彼は困ったような笑顔を浮かべて。

「そんなことないよ。みんな俺の顔しか見てないから。俺より空絵の方がモテるでしょ?」

「えー?俺、あんな風に逆ナンされたことないよ」

すると徹は面白そうに笑って。

「あー、分かる。空絵って話し掛けるのに勇気いるもん」

えっ。

「なにそれどういうこと」

首をかしげて聞くと徹はふいに俺の手を握り返して。

「そこら辺の美少女よりずっと空絵の方が綺麗だから話しかけづらいんだよ」

その言葉にまた首をかしげて。

「徹、"綺麗"って言葉は男に使う形容詞じゃないよ?」

「空絵細かい!とにかくそういうこと!」

「へぇー。俺より徹の方がずっとカッコいいけどな」

ぽつりと言うと突然徹が足を止めて、手を握って前を歩いていた俺はくんっと引っ張られる。

どうしたんだと振り返ると徹は顔を赤くして。

「どうしたんだよ徹。顔赤いぞ」

「だって!空絵がカッコいいなんて言うから!!」

「ごめん。でも本当にそう思ったんだ」

「あぁもう!何!?天然なの!?」

「思ったことを言ってるだけだけど」

「駄目だ!!!天然だっ!」

そう言って徹は赤い顔を空いてる片手の手のひらで覆ってうつ向く。

「もう…空絵といると心臓もたない…」

えぇ…。

「ごめん。嫌か?」

ご機嫌とりのつもりで徹のうなじを撫でながら言うと彼はふるふると力なく首を横に振って否定する。

「そっか。ごめんな、でも徹は本当にカッコいいし好きだよ」

「好き!?」

「?あぁ、好き」

すると徹はさらに赤くなってついにはその場にしゃがみ込む。

「徹?」

名前を呼ぶとチラリと目だけこちらを見上げて相変わらず赤い顔で。

「恥ずかしいよ空絵…」

俺はたまらず笑ってしまう。

「ごめん。ほら、もう言わないから立って。昼飯、食べに行こう?」

お腹すいたよ。

そう言えば徹は渋々立ち上がって俺らはそこら辺のファミレスを目指して歩き出した。











「空絵は何食べるの?」

「とりあえずチョコレートプリンパフェを食べたい」

ファミレスに到着して窓際のボックス席に案内された俺らはおしぼりと一緒に渡されたメニューを開いてそれを眺める。

「パフェは食後のデザートでしょ。てゆーか甘いものが好きなんだね」

「甘いものは俺の心を平和にしてくれるから」

「壮絶な信頼関係だねww」

結局徹は目玉焼きが乗ったエッグハンバーグとパンのセットとオレンジジュース、俺はチーズハンバーグとコーヒーとチョコレートプリンパフェを注文して。

しばらく雑談をしているとそれぞれの料理が運ばれる。

いただきますと挨拶をして二人して食べ始めた。

「徹、オレンジジュースって子供みたいで可愛い」

「空絵はよくブラックコーヒー飲めるね…苦くないの?」

「苦くないよ。飲む?」

「…遠慮しとく」

そんなどうでもいい事から段々お互いの質問になっていく。

「空絵は中学どこだったの?」

「俺は勢多丘南中学校。って言っても分かるかな…東京の…」

「えっ、バスケの超強豪じゃん」

「あ、知ってるんだ」

「色んな人が騒いでたもん。何だっけ…全中三連覇?したって。えっ、そう言えば空絵ってバスケしてたんだよね?そこのバスケ部だったの?」

「うん。一応スタメンで主将だった」

「えぇ!?なにそれ超すごい!」

「徹は?中学」

「俺は北川第一」

「……ごめん分かんない。俺、地元民じゃないから」

「引っ越してきたの?あ、中学東京だもんね。東京から来たんだ。宮城はどう?」

「東京より空気が綺麗だし水もおいしい!あと人が少なくて感動した」

「感動ww」

「それにしても徹の目玉焼きハンバーグ美味しそう」

「一口食べる?」

「じゃあ俺のも一口あげる」

そうして適当な話をしながらハンバーグの食べさせ合いっこをして。

食後のデザートで運ばれてきたチョコレートプリンパフェを徹に食べさせたりすると徹がぽつりと呟いた。

「なんだかデートみたいだね」

そして言った後段々顔を赤くして。

自分で言って自分で照れてる。

なにそれ可愛い…。

俺は徹の頭をよしよしと撫でる。

「そうだね、デートみたい」

そう言って笑えばさらに赤くなる徹の顔。

イケメンは本当にどんな顔をしても画になるね。

一人で勝手に感心してパフェを食べ終えると徹は店を出ようと言って席を立つ。

俺は急いで徹の後を追った。












ファミレスを出た後、徹の買い物に付き合ってバレーのサーブを教えてもらって、それから帰ろうということで今、帰り道。

昼間からずっとお互い手を握って歩いているからもうそれが普通になって何の違和感もなく、当たり前のように手を繋いで歩く。

たわいのない話をしていて、もうすぐで別れ道というところで徹が思いきったように聞いてきた。

「空絵はどうしてバスケを辞めたの?」

俺の目を真っ直ぐ見つめて。

俺はその視線を苦笑で返して。

「腕の骨をね、螺旋骨折したんだ。プレート2枚とボルト12本入れる大怪我。でもそれはただの切っ掛けにすぎなくてさ」

俺はまた苦笑いをして。その時、まるでタイミングを見計らったように後ろから大きな風がぶわっと吹き付けて俺と徹の髪を乱す。

困ったような、傷付いたような、悲しそうな。そんな複雑な徹の顔に乱れた髪がぱさぱさとかかってそれがとても綺麗だった。

「自分で言うのもアレだけど。俺はバスケがうまかったからみんなに頼られ過ぎちゃって。その内、空絵さえいれば勝てるだろ、みたいな雰囲気になってそれがすごく嫌で」

徹のうなじをさわさわと撫でて。

「俺だけが努力して強くても所詮チームプレーだ。良く言えばみんなは俺に頼りすぎた。悪く言えば俺が強いせいでみんなは努力を辞めた」

あぁ、そんなつらそうな顔しないでくれよ。

「ただ、それだけだ」

にこりと笑えばくしゃりと歪む目の前の整った顔。

俺は強いから俺がいれば大体の試合は勝てる、それに気付いた俺の仲間は筋トレも基礎練もサボるようになって。

お前がいるから大丈夫だと笑っていつしか本気でプレーをしなくなった。

それどころか練習も来なくなるから当然実力も落ちて。

練習試合も全中も俺の独壇場だった。

努力を努力で応えてくれないチームメイト。成り立たないチームプレー。

次々とバスケを辞めていく仲間。

こんなバスケの何が楽しいんだ?

そんな疑問を抱いたまま親の都合で宮城に引っ越してきて何となく高校に進んで何となくまたバスケ部に入って。

でもすぐに怪我をした。

俺はこの怪我を理由にバスケ部を退部した。

もう、バスケをしたくなくなってしまって。

それに加え元々悪かった肝臓の持病が悪化して入院した。

「一人でするバスケはすごく寂しかった。でも、バレーなら。俺は初心者だしみんなの足を引っ張ることはあってもバスケの時みたいなことは起こらないと思うから」

俺は徹の頬を撫でて。

「もう一度。みんなで勝って、笑いたいんだ。コートは違くても、ね」

そう言って笑うと、不意に徹に抱きしめられた。

「徹?」

「俺の後輩にもいるんだ。上手すぎて孤立してた奴が。でもそいつはバレーで新しいチームと出会って、もう一人じゃない。だから、」

ふっと徹は顔を上げて。

「空絵も、きっと大丈夫だよ」

そして、キラキラの笑顔を俺に向けて。王子様ってこういう人のことを言うんだろうな、なんて思って見つめ返していると段々近付いてくる整った顔。

ん?

と首をかしげた途端、

ちゅっ

とキスをされた。唇に。

ぽかんと徹を見上げると彼は自分からしたくせに顔を真っ赤にして。

「ごめん!あぁ〜…何て言うか…えっと、」

そんな焦る姿も可愛くて、今度は俺が徹の後頭部に手を回してぐいっと自分の方に引き寄せて、

ちゅっ

と音を立てて唇にキスをしてやった。

それから、ニカッと笑って。

「これでおあいこな」

そして家に帰るために別れ道に足を踏み出していまだに固まってる徹に手を振る。

「じゃあな、徹ー。気を付けて帰れよ」

徹がちゃんと家に帰れるか心配だ。

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