大声で魔法の言葉を、

□magic×12
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バレーを始めて丁度一週間程経ったある日の放課後。

「みんなごめん。今日定期検診の日だから部活参加出来ないや」

しょんぼりと眉をさげてそう言うと澤村さんが優しい笑顔で。

「病院ならしょうがないだろ」

と言う。すると菅原さんや翔陽、飛雄や蛍までよしよしと頭を撫でて励ましてくれる。

「気を付けて行ってこいよ」

体育館を出ていく間際、菅原さんのニカッという可愛い笑顔と共に声を掛けられて俺は体育館のみんなに手を振って急いで病院に向かった。





〜菅原side〜

みんながネットを張ってる間、ボール出しをしてスコアボードも出して一息つく。

空絵がいない体育館はいつもより静かに感じられて少し寂しくなる。

練習前のストレッチやアップの時間、日向がぽつりと呟いた。

「空絵って病気なのか?」

不思議そうに首をかしげる日向の頭にチョップをかまして影山が言う。

「いきなり何言ってんだ」

「だって気になるじゃんか!入院してたとか定期検診とか!」

「…そりゃあそうだけど」

それに俺は口を挟む。

「怪我してたっていうのは聞いたことあるけど…詳しくは分からないな」

申し訳無さそうに言うと日向はへにょんと眉をさげて。

「ほら、練習始めるよ」

話題をすり替えるように大きな声で言うと大地のところにみんなが集まる。

そして今日も練習が始まった。











レシーブ練をしているとき、体育館の入り口に一人の男子生徒が立っている事に気付いた。

「大地、あれ」

ちょんちょんと大地の肩をつついてから入り口を指差す。

すると大地は首をかしげて。

「あれは…確かバスケ部の主将か?」

部活の主将の集まりで見た気がする、と続けて言う。

帰宅部の人が部活見学ならまだ分かるけどバスケ部の主将が何の用だろう?

丁度全員レシーブ練が終わったし休憩にするか。

大地が休憩の指示を出してみんながドリンクを飲んだり汗を拭いたりしているとき、大地と一緒に体育館の入り口にいる人のところへ向かう。

「何か用か?」

大地が声を掛けると男子生徒はははっと笑って。

「空絵がバレー部に入ったって聞いて来たんだけどデマだったみたい。いないし」

そう言って踵を返して帰ろうとする。

俺はその人に向かって少し声を張って、

「空絵なら先週からバレー部に入部してるけど」

と言う。

するとさっきとは全然違う険しい顔つきで男子生徒はこちらに近付いてくる。

うわ、何この人。

何だか不気味で俺と大地はじりじりと体育館の中へ下がっていく。

無意識に相手を睨んでしまう。

するとそいつは途端に不気味な笑顔を浮かべて。

「空絵、返してくれないかな」

「「は?」」

突然の言葉に俺と大地の声が被る。

それを聞いてそいつは少し苛立ったようにガシガシと頭を掻いて。

「だから空絵を返してくれよ。来週には試合があるんだよ」

何言ってんだこいつ。

こくんと首をかしげる俺の隣で大地が不思議そうに言う。

「それは人違いじゃないか?」

するとそいつは突然声を荒げた。

「この学校に空絵は一人しかいないし人違いじゃない!いいから返せよ!アイツはバレー部なんかにいていい人間じゃないんだ!!」

そしてバシッと何かを大地に投げ付けて走り去って行く。

「大地、大丈夫!?」

「大地さん!?」

声を掛けると大地は大丈夫だと笑って言って。

いつの間にか俺たちの周りにみんなが集まっていた。

西谷と田中が心配そうに大地に駆け寄って、西谷がふと大地にぶつかって下に落ちたものを拾い上げる。

「月刊バスケットボール…?」

それは同じタイトルのバスケの雑誌三冊。

月バリのバスケバージョンか。

「なんだコレ」

西谷が珍しそうに表紙を眺める。

三冊の内の一冊を奪い取って、大地も西谷の手からひょいっと一冊取る。

俺も表紙を眺めてあっ、と声を上げた。

「これ、今年の2月のだ」

すると大地は、

「これは去年の12月のだぞ」

と言って続けて西谷も表紙を見て、

「こっちのは去年の9月のです」

と、呟くように言う。

どういうことだ?

不思議に思ってペラペラとページを捲ると驚いて思わず声を上げた。

「うわぁちょっと!!みんなコレ!」

バッとあるページを開いてみんなに見せる。するとみんなも驚いて声をあげる。

そのページには見覚えのある綺麗な顔の男子がバスケのユニフォームを着てバスケのコートを駆ける写真がでかでかと載っていて。

それは紛れもない空絵だった。

そして見出しに大きな字で

『バスケの天才、高校でもやはりバスケ部か!?独占インタビュー!!』

と書かれていた。

「バスケの天才…!?」

空絵が!?

てゆーか特集組まれてるし…。

信じられない事実に目眩のような感覚に襲われる。

嘘だろ…。

隣では大地が空絵のページを見付けたらしく記事を声に出して読む。

「『全中決勝戦も原沢選手の活躍により勢多丘南中学の優勝。原沢選手の圧倒的な強さに相手校はなかなか得点出来ず100点以上の差をつけられて負け』……どういうことだ…?」

次に西谷が。

「あっ!こっちにもありました!『今年の全中も原沢選手の活躍により優勝。勢多丘南中学の全中三連覇が達成された。』あ、ここからは空絵のプロフィールです。『名前、原沢空絵、身長171p、体重56s、バスケ部超強豪校の勢多丘南中学校で主将をつとめるエース。背番号5番。ポジションはPFで超攻撃的プレーを得意とする』……誰だこれ」

みんな雑誌を覗き込んで呆然とする。

あまりにも俺らが知ってる空絵とは遠すぎて。

あんなに無邪気にバレーの練習をする空絵がバスケの天才だなんて。

想像もしていなかった。

「だからさっきのバスケ部の主将は空絵を返せって言ったのか…」

腑に落ちたとでも言うように大地が呟く。

いやいやいや、でも!

「空絵がバスケをわざわざ辞めてまでバレー部に来たんだからよっぽどの何かがあったんだよ!返しちゃ駄目でしょ!」

それに大地はこくりと頷いて。

だよね!

だってバスケがしたかったらバスケ部に入ってるでしょ!

「とにかく、部活時間は俺らがいるから良いとして…授業や休み時間は一年の誰か、一緒にいてやってくれ。バスケ部の主将のあの態度は異常だ」

その言葉に影山がスッと手を挙げる。

「俺が一緒にいます。席、隣なんで」

それに大地が頷いて。

烏野高校バレー部は空絵を守り隊と化した。

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