大声で魔法の言葉を、

□magic×14
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もうとっくに消えて無くなってしまったはずのものを、いつまでも在ると思い込んで大切にしまいこんでいるせいで、


俺は変われないのかな。











病院の定期検診が終わって帰り道。

たまにはいつもと違う道を歩いてみようと思い病院を出てすぐの曲がり道をいつもと逆の方向へ行く。

ちょっとした冒険気分だ。

日に日に寒さが増していくこの季節が俺は好きだ。

一番好きな季節の冬に近付いていると分かるこの気温が何とも心地いい。

あぁ、早く冬にならないかなぁ。

冬は空気中のゴミや塵が少ないから星がすごく綺麗に見える。

まさに"キラキラ"している。

冬へ思いを馳せながら歩いていると建物が多い路地に出て、俺は見たことのない景色に思わず足を止める。

街灯がぼんやりと光ってその曖昧な光が道を照らす。

どこだろ、ここ。

キョロキョロしながら歩いていると見知ったモノが見えて少し早足でソレの元へ歩いた。

こんなところに…

「ストバス?」

早足でたどり着いた目の前のフェンスの向こうには、バスケットボールのゴールリングが設置されているストリートバスケのコートがあった。

コートの隅っこにはベンチが二つ置いてあって。

俺は半ば無意識にフェンスのドアを潜り抜けてコートに足を踏み入れた。

あぁ…懐かしい。

ふと、ゴール下に誰の物か分からないがボールが置いてあって思わずうずうずしてしまう。

これ…使っちゃダメかな?

ドリブルするだけ…あ、シュート一本決めるだけ…あー…やっぱスリー一本いれるだけ……ダメかなぁ。

俺はしばらく考えてから、まぁこんなところにボール置く方が悪いよ!と開き直ってまだ表面の剥げてない綺麗なボールを手に持った。

新しいのかな、空気も全然入ってる。

ボールを見つめてからとても自然な、体に染み付いた動作でボールをコートの地面に弾ませる。

ダムッ ダムッ

段々ボールを強く地面に打ち付けてそろそろと歩き出す。

今までずっとやってきたものだから体は覚えているようで自然と少し前のめりの猫背のような構えをとって、ボールは低めに取られにくいようになるべく強く速く弾ませる。

それから、そろそろとした動きからコートの端から端までドリブルで駆け抜けてボールが手のひらからすっぽ抜けないか確かめる。

やっぱり、覚えてるもんだな。

何となく走ってる勢いでレイアップをする。

少し飛んでリングにボールをそっと置くようにすれば当たり前のようにボールはゴールのネットを潜り抜けた。

ネットを抜けてボールが地面にバウンドするとそれを取ってドリブルしながら向かい側のゴールへ歩いてスリーのラインからボールを片手で放るように投げる。

するとボールは放物線を描いてゴールに吸い込まれるように、リングに触れることなくにパサッとネットを潜る音を響かせる。

全く感覚が鈍ってないのが少し寂しかった。それと同時に悔しかった。

そりゃああれだけ練習したもんな…覚えてるよなぁ。

でも、もうバスケはやめたのに。

そう思うとムシャクシャして地面で跳ねるボールを拐うように取ってドリブルで一気にコートを駆け抜ける。

それからグッと足に力を込めて思いっきり飛んで、ボールをリングの中に叩き付けた。

所謂、ダンクシュート。

それから休むことなくボールを拾ってまたドリブルでコートを駆け抜けて、次はボードにボールを投げ付けてからグッと高く飛んで、ボードにぶつかって跳ね返ったボールをゴールに叩き込む。

これは、一人アリウープ。

そしてまたボールを拾って、今度は全力で走ってフリースローラインで思いっきり飛んで、ダンク同様ボールをリングの中に叩き付ける。

レーンアップ。

中学三年の春頃から出来るようになったこれらの技は、高校生でも出来ないと騒がれ俺の"空絵天才説"に拍車をかけた。

………これらの技が出来るようになるまでどれだけ努力したか。

どれだけ練習したか、誰も知らない。

それこそ、いくつもバッシュを駄目にしたしボールだっていくつも剥げてツルツルにした。

それほど練習したのに、天才の一言で片付けられてしまうなんて。

せめて努力の天才とか言ってほしかったなぁ。それならカッコいいのに。

指先や腕でシュルルッとボールを器用に回してぼーっと回転するボールを見つめる。

俺はいつまでこんなことをしているんだろうか。

バスケは辞めたはずなのに、コートを見ると。

ボールを見ると。

ゴールリングを見ると、

どうしても駄目だ。バスケがしたくなる。

あー…試合が出来ないのはしょうがない。せめて1on1…誰か相手してくれないかなぁ。

キョロキョロとフェンスの向こう側の路地を見るとタイミングよく歩いてる人が。

真っ黒の短髪で大きなエナメルカバンを肩にかけてどこの学校か分からないけど白にミントグリーンのラインが入ってるジャージを来ている。

何だろうあのジャージどこかで見たような気が……まぁいいか。

「あの…っ!」

その人が通り過ぎる前にフェンスに駆け寄って声をかけると彼は一瞬ビクッと肩を跳ねさせて驚いた顔で俺を見る。

「あっ…驚かせてすみません…」

シュンとして頭を下げるとその人は少し慌てたように手を振る。

「いや、大丈夫だ。あー……何か用か?」

キョトンと不思議そうに聞かれて俺は思わずへにゃりと笑う。

「1on1、付き合ってください!」

ボールを顔の横に掲げて言うと彼は気まずそうに頭を掻いて。

「……悪い。俺、バスケのことは分かんねーから」

「えぇ!お願いします!ディフェン…俺を止めに来るだけでいいので!!」

「でもなぁ……」

「お願いします!!」

土下座でもしようと片膝を地面に着けると彼は慌てたようにそれを止めて溜め息を吐く。

「しょーがねーなー…下手でも文句言うなよ」

「わぁ…有り難うございます!!」

ニカッと笑ってフェンスから出て彼の手を握ってすぐにコートの中へ戻る。

ベンチに荷物を置く彼に笑いかけて俺は自己紹介をした。

「俺、原沢空絵っていいます!空絵って呼んでください!」

すると彼は不思議そうに片方の眉を上げて。

「空絵……?」

と、呟いた。

何だか俺のことを知っているような。

不安になって彼を見上げると「あぁ、悪い」と言って続ける。

「俺は岩泉一だ」

一さんか。

こんな時間にエナメル持ってジャージ着て歩いてるってことは運動部なんだろうなぁ。

バスケ以外の運動部……バドミントンとか?あ、サッカーとかやってそう。

一人で勝手な想像をしていると一さんは首をかしげて口を開く。

「で、俺は何すればいいんだ?」

俺はハッとして説明する。

「俺が向こうのゴールにシュートしようとするのを止めてください。えっと…何て言うか、こんな感じで」

身ぶり手振りで説明するとギリギリ伝わったようで一さんは分かったと頷く。

では、

「始め」

そう呟いてドリブルを始める。

ダムダムとボールが地面を跳ねる音が響く。

俺が動くとそれに合わせて一さんも動いて、手を広げて道を塞ぐようにする。

俺は左右にウロウロしてから突然速く切り返しをして一さんを抜き去ってレイアップでシュートをきめる。

「スマン。油断した」

振り返ると一さんが申し訳なさそうな顔でそう言う。

「いえ!あの、まだ時間大丈夫ですか…?」

顔を覗き込むように言うとまた盛大な溜め息を吐かれて。

「………しょーがねーな」

「わぁぁあい!」

俺は両手を広げて一さんに抱きついた。

「有り難うございます!!一さん!」

にっこり笑って見上げると一さんはフイッとそっぽを向いて。

「もっとやるんだろ。……次はとめてやる」

その言葉にニヤつきながら俺は再びドリブルを始めた。











「付き合ってくれて本当に有り難うございました!」

ヘラっと笑って言うと一さんは小さく笑い返して言う。

「一回もお前からボール取れなかったけどな」

「それでも楽しかったです!」

俺は両手をぱっと広げて。

「腕が前とほぼ同じように動くと分かりましたし何より、楽しかったです。それはきっと、一さんが相手だったから」

にっこりと笑いかけると一さんは視線をウロウロと行ったり来たりさせてから少し顔を赤くして俺を見る。

「……腕がどうかしたのか?」

それに眉を下げて笑って。

「ちょっと前に腕を螺旋骨折しまして。割と大怪我だったんですよ!」

すると一さんは何を思ったのか少し悲しそうな顔で俺の頭をくしゃっと撫でた。

「空絵は、バスケ好きか?」

あ、初めてちゃんと名前を呼ばれた。なんて思いながら困った顔をつくって。

「バスケは…まだ、好きなんだと思います。でも、やっぱり俺は強すぎるから…遊び以外でバスケは出来ませんね」

そう言うと一さんは何の事か分からないといった風な顔をして。

「一人だけ強くでも無駄だという話です」

すると察したのかやはり悲しそうな顔でうつ向く。

そんな一さんの手を握って。

「一さん、帰りましょう?送ります」

遅くまで付き合ってくれて有り難うございましたと笑うと一さんも笑ってくれる。でも少し不満そうな声で、

「俺が送るから」

と言われた。


その言葉通り家まで送ってもらって玄関でお別れをするとき。

一さんが俺を呼び止めて振り向くとどこか緊張したような顔で口を開いた。

「なぁ…連絡先教えてくれよ。また付き合うぞ。……その、バスケ」

一瞬何を言われているか理解ができなくて数秒固まる。それからその言葉の意味を頭で理解したとき俺は嬉しくて一さんに思いっきり抱きついた。

「いいんですか!?」

「あぁ。俺もお前も暇な時な」

「わぁあ有り難うございます!!一さん大好き!!」

「!?あ、あぁ…じゃあこれ、俺の連絡先な。いつでもいいからメールか電話か何でもいいからくれ」

そう言って一枚の付箋の紙を差し出してくる。それを一礼してから受け取って大事に制服のポケットにしまった。

そして改めて一さんに向き直って、

「一さん、有り難うございます!!」

すると一さんはフッと笑って。

「敬語なんて要らねぇし"さん"もつけなくていい」

それにまたにっこり笑って。

「ありがとう!一!」

家に入ったらすぐにメールしよう。

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