大声で魔法の言葉を、

□magic×15
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病院で部活を休んだ次の日、学校に行って教室に入って席に着くと早々に飛雄に言われた。

「おい、空絵。今日から学校ではずっと、俺と一緒にいろ」

「………え、うん」

何のことか分からないけど飛雄の雰囲気的に頷かないとまずいと思いこくりと首を縦に振った。









「空絵、どこ行くんだ」

「え?次は移動教室だよ?」

「行くなら俺に言え」

「ごめん。一緒に行こう?」

「あぁ」

おかしい。

何がおかしいって今日のバレー部のみんながおかしい。

飛雄と廊下を歩いてるときにバレー部の人に会うと絶対「大丈夫か?」とか言って俺の方をチラチラ見ながら飛雄に確認してる。

田中さんと菅原さんと澤村さんは俺の教室まで来たほどだ。

何だ?

俺、何かしたっけ?

昼休み、首を捻って考えても分からないからもう考えないことにした。

お昼ごはんの弁当を鞄から出すと飛雄が俺の手を握って。

「来い」

と言って歩きだした。

着いた先は体育館。何事だと思っていると体育館の中の隅っこに俺を座らせて

「そこで食え」

と言って飛雄はバレーボールを出してきた。

え。

「練習するの?」

すると飛雄はボールから目を離すこと無くあぁ、と答える。

少しするとオレンジ色の髪の背の低い子…翔陽が体育館に入ってきた。

翔陽は隅っこで弁当を食べる俺を見付けて嬉しそうに笑う。

「今日は空絵もいる!」

それから翔陽もボールを手にとって練習を始めた。

二人はいつご飯を食べてるんだろう。

不思議に思いながら昨日の夜の余りの手作りハンバーグを箸で一口大に切って口に放り込む。


すっかり弁当を食べ終わって俺も暇だなと思い近くに転がっていたボールをヒョイッと拾う。

それから最近レンタルショップで借りたバレーの試合のDVDの中でやってた技を試しにやってみる。

おぉ。なんか出来たぞ。

アレもコレもと試してみては自分なりに修正を入れる。

どれも出来るが一つ一つの精度で言えばあまり出来が良いとは言えないものばかりで。

こんなにうまくいかないなんて…バレーは楽しいなぁ。

一人でニヤニヤしてると昼休みが終わるギリギリで飛雄と翔陽がすごい勢いでご飯を食べ出してそれを見て思わず噴き出した。

予鈴が鳴って飛雄と走って教室に帰る途中、前を見つめたまま彼に聞かれる。

「お前、色んな技が出来るんだな」

「精度は全部イマイチだけど」

ヘラりと笑うとチラッと横目で一瞥されて。

「努力する奴は好きだ」

と、呟くように言われた。


家で練習してるなんて言ってないのに。

時々徹やクロ達に教えてもらってるなんて言ったことないのに。

全て見抜かれてるような気がして。

初めて努力が他人に認められたような気がして。

その一言に救われた。

それと同時に、吹っ切れた。













放課後、部活のために体育着に着替えて飛雄と一緒に体育館に向かう。

体育館に着いてみると3年も2年もみんないて体育館に入った途端みんなの視線が俺に集まった。

キョトンと首をかしげてみんなを見渡すとあることに気付く。

えーっと、名前は思い出せないけどバスケ部の主将と副主将がいた。

二人は俺を見ると嬉しそうな顔をして。

「おー!空絵、元気にしてたかー?」

「久し振りだな!」

二人は交互に俺に挨拶をする。

それに軽く頭を下げて、

「あ、こんにちは」

と言ってバレーのシューズを履いてから隣を通りすぎようとすると。

ガッ

腕を掴まれた。

「なんですか?」

不思議に思って振り向きながら聞くと俺の腕を掴む主将が苦笑いをして。

「どこ行くんだ?お前はバスケ部員だろ?」

と笑う。

目は笑っていなかった。

何のことか分からず半目になりながら答える。

「俺、バスケ部はずいぶん前に退部しましたけど」

すると主将の眉間にシワが寄って。でも不気味な笑顔は崩そうとしない。

バレー部のみんなはハラハラと不安そうに見守ってて申し訳なくなる。

じっと主将を見つめると彼も俺を見返して言う。

「だったらバスケ部に戻ってくればいい」

「え。嫌です」

即答して掴まれてた手を振り払うと主将は舌打ちをして顔を歪めた。

「少しバスケが上手いからって調子に乗るな」

低く威嚇するような声で言われて俺はポカンとした。

なんだ。

「じゃあ勝負事しましょうか?」

「は?」

バレー部のみんなもボケッと呆けた顔をして思わずクスクス笑ってしまう。

「簡明で率直。バスケやってる人なら察するでしょう。……1on1です」

バレー部のみんながキョトンと首をかしげる中主将と副主将は盛大な舌打ちをする。

「卑怯だぞ」

え?

「何でですか?俺はたかが“少しバスケが上手いだけ”ですよ?何なら主将と副主将対俺でも良いですけど」

わざと好条件を提示して言うと主将は

「乗った」

と呟いた。

俺は体育館倉庫からバスケットボールを取ってきて片面のコートに立つ。

「どっちのゴールに入れてもいい。一本勝負で俺が負けたらバスケ部に入る。あなた達が負けたら今後一切俺にもバレー部のみんなにも近寄らないし関わらない。良いですか?」

「あぁ」

「ボールはそっちからで良いですよ」

ハンデのつもりでボール譲ってやる。

そして、

「では……始め」

主将がそう言ってボールを弾ませて早速副主将にパスをしようとして……


俺はそのパスをカットして全力でドリブルしてあっと言う間にダンクをきめた。

はい、

「では、お引き取りください」

両手を広げて笑って言うと主将は声を荒げて。

「もう一本!」

「はぁ?」

溜め息を吐いて主将を睨み上げると時間が止まったような感覚に陥る。

誰も動かないし主将は呼吸さえ忘れている。

滑稽だと思いながら。

「俺、一本勝負って言いましたよね?あなた方もそれを了承しましたよね?もう一本だなんて、話が違うじゃないですか。それに」

俺はにこりと笑って。

「あなた方、“バスケの天才”と戦ってる自覚あります?何回やっても俺は勝てます。負けたといっても全国には金を払ってまで俺と1on1したがる人が腐るほどいるんですから感謝してほしいですよ本当」

そして呆然とする主将にグッと顔を近付けて。

「帰ってくださいよ。……俺はバレー部だ」

目を細めて眉間にシワを寄せれば二人はビクッと肩を揺らして走り去って行く。

俺はゴールの下に落ちたボールを拾って反対側のゴールに向かって片手でぶん投げる。

ボールは綺麗な放物線を描いてリングに触れること無くゴールのネットを潜り抜けて。

それを見てにかっと笑う。

やっぱりバスケは好きだ。大好きだ。

でも、烏野のバスケ部は俺の居場所じゃない。

俺はバレー部のみんなを振り返ってから深く頭を下げて。

「部活時間中に不本意とはいえ修羅場起こしてすみませんでした」

すると何とも言えない顔をしたみんなが一斉に抱きついてきて、揉みくちゃにされながら声を上げて笑う。

俺は、ちゃんと烏野のバレー部だ。

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