大声で魔法の言葉を、
□magic×16
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とある日の土曜日。今日は朝早くから幼馴染みのクロと研磨に会いに東京まで来た。
駅を出てすぐのところで俺を待っていてくれてる二人に手を振って飼い主を見付けた犬のように駆け寄る。
「クロ!研磨!」
ヘラりと笑いかければ二人とも顔の表情筋を緩めて。
「久し振りだね!」
迷子にならないようにと、昔からの癖で二人の手を握って歩きながら言うとクロは、
「あぁ」
と、研磨は
「そうだね」
と答える。雑談をしながらある程度人のいない路地に入ってから大通りと違い、人々の喧騒が少なくなったところでニコニコしながら口を開いた。
「今日、練習試合するところって、どこ?」
今日は二人が午前に練習試合があるから観に来いよと、と言うので来た。
昔からクロたちがバレーにのめり込んでてバレー部に入ってるのは知っていたが今まで俺もバスケの試合ばっかで実際バレーの試合をしているところを観たことはなかった。
だから二つ返事で東京に来たわけだが。
俺ってチョロい…。
さっきの質問にクロはニィッと笑って答える。
「梟谷学園」
ん?
「ふくろうだに?」
言われた台詞を反芻して首をかしげる。
「バレーが強いところだね」
中学の時からバレーが強い高校としてちょいちょい噂で聞いたことがある。
クロを見ると彼は怪しい笑顔を浮かべて。
「今は昔よりもっと強いぞ。今の梟谷には全国で5本の指に入る大エースがいる」
「大エース?」
「あぁ。3本の指には入らねぇが強いぞー。あとうるせぇ」
「うるさいんだ」
ふふっと笑うとクロは思い出したように言う。
「でもお前んとこのウシワカは全国3本の指に入るぞ」
「?ウシワカ?」
キョトンと首をかしげるとクロはニィッと笑って。
「宮城の白鳥沢学園バレー部の主将だ。とにかくストイックでマジ強い」
「そっか〜」
「よく分かってねぇなお前……あー、アレだ。バスケやってる時のお前ぐらい強い」
「えぇ!?ナニソレ超強いじゃん!」
「……腹立つけど一回言ってみたい台詞だな…」
てゆーかアレ?
いつの間にか片手が空いてる……、
「研磨!?」
バッと後ろを振り返ると迷子になったかと心配した研磨がいた。
猫を抱っこしている。
「わぁぁあ〜!猫さんだ!」
ゆるゆるの笑顔で研磨に駆け寄ると後ろからクロが研磨に言う。
「研磨、猫は置いてけよ」
「だって可愛いから……」
ふいっと顔を逸らす研磨も可愛いけど。
「猫さん、研磨になついてるねぇ」
ニコニコと笑うと猫さんが答えるように「にゃあ」と、鳴いた。
「早くしろ。遅れるぞ」
クロに急かされて研磨は渋々猫さんをアスファルトの地面に下ろして、
「じゃあね…」
と手を振る。
俺も猫さんに手を振って今度はしっかりと研磨の手を握って歩く。
目指すは梟谷学園だ。
「でかいなぁー。さすが、強豪…」
大きな体育館を眺めて思わず声を上げるとクロに笑われる。
それに少しムッとしたがふと気付いてちゃんと研磨の手を握ってるか確かめながらクロに聞く。
「ねぇ、俺ってどこにいればいい?二階?」
首をかしげて聞くとクロは、
「公式じゃねぇしベンチで良くね」
と、気のない返事を寄越す。
何だソレ。
言われるがままに、研磨の手をちゃんと握って俺の手を引いて先を歩くクロについて体育館の中に入ると、クロ達と同じ赤いジャージを着た人達が集まってるのが見えた。
その人だかりに向かうクロと研磨についていくと人だかりの中の一人がハッとしてクロの名前を呼んで。
「遅かったですね」
「悪ぃ。こいつ迎えに行ってた」
クロはそう答えると二人の後ろに隠れていた俺をグイッと前に出す。
途端に集まる視線。
俺は気まずさを誤魔化すためにヘラりと笑って。
「えっとー……こんにちは」
と挨拶をした。
それから一拍置いて。
「美少年だ!クロさんが美少年を連れてきた!」
「黒尾先輩の彼氏ですか?」
「いや、でも研磨とも手を繋いでるぞ…」
「うわっ…すごい美少年」
と、みんな口々に言う。
すると研磨が不機嫌そうに、俺に近付いてくる長身の二人に威嚇をする。
「犬岡とリエーフはこっち来ないで。空絵に近付くな」
研磨は俺の手を握ったまま俺の前に出て、クロは後ろから俺に抱きついて。
「そーそー。くれぐれもこいつに手ぇ出すなよ」
と、俺の頭に顎を乗っけて言った。
「てゆーかクロもいちいち空絵に触るの、変態臭いよ」
「研磨…お前俺にも厳しいのかよ」
そんなクロと研磨にされるがままでいるとみんなと比べて小さめの人が言う。
「三人、どんな関係ですか」
それに俺らは声を揃えて。
「幼馴染み」