大声で魔法の言葉を、

□magic×17
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※変態な赤葦に注意です※




「どんまい」

練習試合が終わってベンチに戻ってきたクロに声をかけるとクロはガシガシと寝癖の頭を掻いて。

「あー!また負けた!クッソ」

と言って、でも心底面白そうに笑ってドリンクを飲む。

ドリンクから口を離すとクロは、

「あとは片付けとモップがけだからもう少し待ってろ」

と言ってさっきまで立ってたコートに戻る。その背中を追いかけてクロのジャージの裾をちょんとつまんで、

「モップがけくらいなら手伝う」

と言うとそっか?と返事をして自分の分のモップともう一本モップを取って俺に渡してくれた。

一緒に並んでモップをかけているとすごい頭をした人がバタバタとこっちに来て。

「黒尾!えっ、誰その美少年!!」

と叫んで俺を至近距離でまじまじと見てくる。

「う、へぇ?」

こくりと首をかしげるとクロがその人の頭をグイッと押しやって。

「近すぎ。研磨にシバかれるぞ」

「孤爪って人、シバくの!?」

「本当うるせぇなお前ww」

クロに頭を押されてもグイグイ押し返して最初より俺との距離が縮まったところでその人が「グエッ!」と奇声を発して後ろに引っ張られるように遠のく。

うへー!と首を押さえる彼の後ろを見れば頭がすごい人のシャツの首の後ろの所を引っ張る真っ黒の短髪の人が。

「木兎さんがすみません。好奇心旺盛なもので」

「本当だよww」

黒髪の人がペコッと頭を下げて言った言葉にクロが笑いながら返事をする。

それからクロは俺を見て頭がすごい人を指差す。

「空絵、こいつが梟谷の大エース、木兎だ」

大エース……あ。

「3本の指には入らない人?」

すると木兎さんはクロを見てワァワァと騒ぐ。

「ちょっと黒尾ナニ教えてんの!?」

するとそれに黒髪の人が冷静に返す。

「まぁ事実ですよね」

黒髪の人に言われて木兎さんが言葉に詰まったところでクロが黒髪の人を指差して、

「で、こいつが赤葦。梟谷の副主将でセッター」

「どうも」

「あー…こんにちは」

軽く頭を下げられてふにゃりと笑う。

すると赤葦くんにじっと見つめられて何事だと首をかしげると赤葦くんがクロに向かって。

「ずいぶん可愛らしい人ですね」

と言って木兎さんが赤葦くんに無邪気な笑顔で、

「赤葦、あーゆうのタイプだよな!」

と言った。


ん?

木兎さんの台詞に赤葦くんは、

「そうですね」

と返事をする。

よく分からないけど俺の事だろうなと思って首をかしげる俺をはさんで笑顔のクロと無表情の赤葦くんが牽制しあう。

「赤葦、空絵に手ぇ出すなよ?」

「空絵さんっていうんですね。よろしくお願いします。俺は赤葦京治です。名前で読んでください」

「えっと、京治?」

「はい」

「空絵!名前で呼ばなくていいから!お前って呼んでやれ!」

「お前なんて言えないよ」

「あぁもう空絵ったらいい子!!」

クロはそう叫んで後ろから俺を抱きしめる。それを見た京治がふむ、と何かを考えるような仕草を見せたあと、やっぱり無表情で、

「俺も空絵さんをぎゅってしたいです」

と、俺の両手を握って言ってきた。

「おい木兎…赤葦大丈夫かよどうしたんだよ…」

「さぁ?一目惚れ?」

「ふざけんなよ!!」

「何で俺を蹴るの!?」

クロと木兎さんがそんなやり取りをしてるのを尻目にヘラりと笑って。

「俺で良ければ…どうぞ」

と言って、少しはずかしいと思いながら両腕を広げると京治はピシッと固まった。それからぎこちなく俺をぎゅっと抱きしめて。

するとクロと木兎さんは黙って俺らを見守る。

しばらくすると京治は俺から離れてやっぱり無表情でクロ達に告げる。

「ちょっとトイレ行ってきます」

「赤葦ィィイイイ!!!!」

京治が言い終わると同時にクロの怒号が飛んで俺は首をかしげる。

「トイレに行くだけで怒られるなんて可哀想だね」

シュンとして隣の木兎さんに言うと彼は片眉を上げて。

「お前気付かなかったの?…まぁこれは知らなくても良いことだな」

と言って笑った。

あー、それにしても。

「クロ、お腹すいた」

するとクロはニカッと笑って俺の頭を撫でる。

「じゃあ帰りにどっか寄ってくか」

その言葉に目を輝かせて。

「俺、焼き肉食いたい!」

両手をあげて万歳のポーズで言うと隣の木兎さんが激しく反応した。

「焼き肉!!俺も行きたい!!」

するとクロは嫌そうに顔を歪める。

俺はそれに気付かないふりをして木兎さんを見上げて笑った。

「じゃあ一緒に行きましょう!焼き肉!」

「おう!!」

そこへトイレから戻った京治がこちらに来て、木兎さんが嬉しそうに京治に報告する。

「赤葦!このあと空絵と焼き肉行くけど赤葦は!?」

「行きます」

「赤葦は来んな。今日のお前、キモいぞ」

「何でクロはそう言うこと言うの?ね、京治も行こう」

「待て。お前気付けよ」

「ん?」

「空絵さんは本当に可愛いですね」

京治はそう呟いて俺の髪をさらさらと指ですく。

その感触がくすぐったくて目を閉じて笑う。

ふと、京治の指が俺の耳に触れて。

「んっ……!」

あ、ヘンな声出ちゃった。

口を手のひらで押さえて京治を見上げると彼は無表情のまま鼻から血を出していた。

「けっ、京治!鼻血出てる!」

「大丈夫です。問題ありません」

「赤葦ィィイイイ!!!!」

クロの二度目の怒号が体育館に響いた。











「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」

「あ、5人です」

「座敷でよろしいでしょうか?」

「はい」

「では、こちらになります」

案内の人に座敷に案内されて靴を脱いで座敷にあがる。

「俺は空絵さんの隣で」

「赤葦は木兎の隣な」

そして俺はクロと研磨にはさまれて座ってテーブルをはさんで向かい側には京治と木兎さん。

「ヘイヘイヘーイ!肉だ肉ー!」

木兎さんはすごいはしゃぎようだ。

「なぁボタン押していい!?」

もう注文するものが決まったのか木兎さんは定員呼び出しボタンに手を伸ばす。

「早ぇよ」

クロはおかしそうに笑いながら木兎さんの手を止める。

「研磨は何食べたい?」

俺の隣でアイポンをタップしまくる彼に聞くと興味無さそうな声で返事が返ってくる。

「アップルパイ」

え、えっとぉ……。

「研磨、せめてメニューにあるやつ選んでよ。ほら、甘いものだとパンケーキとかアイスがあるよ?てか肉食べよう?」

「アップルパイ」

折れないな……。

俺は諦めて小さな溜め息を吐いたあと、研磨にヘラりと笑いかけて。

「明日つくってあげるから。ご飯食べよ」

すると研磨はアイポンの画面から顔を上げて。

「カルビ」

「ん」

俺は短い返事をして自分の注文を決めるためにメニューに目を落とす。

するとさっきの会話を聞いていたのか京治がやっぱり無表情で聞いてくる。

「お菓子、作れるの?」

それにこくりと頷いて、

「うん。さっきのは研磨のアップルパイつくってくれアピールだよ。こうすれば俺が作ってくれるって分かってやってる。素直に言えばいいのに」

すると隣でアイポンをいじっている研磨が無言で画面を見つめて指でタップしながらぐったりと俺の肩に寄り掛かってくる。

あ、照れてる。

可愛いなぁ。

ふふっと笑うと京治は俺を真っ直ぐ見つめて。

「いいな。俺にも何か作ってよ」

「いいよ」

すると隣からクロが俺の背中に手を回して俺を自分の方に引き寄せる。

「お前赤葦のお願いを気軽に引き受けんなよ。あいつ腹黒ムッツリだぞ。何考えてるか分かんねーぞ」

「黒尾さんこそ俺が何すると考えてるんですか?変態ですね」

「まだ何も言ってねぇだろ!」

「なぁ〜!注文しようぜ〜!」

木兎さんの言葉に、二人は言い合いをやめて木兎さんを見る。

「お前本当に肉が好きだな。落ち着けよ」

「木兎さん。注文出来ないぐらいでしょぼくれモードになんないでください」

「なってない!もうボタン押す!」

ピンポーン

店内に微妙に気が抜けたインターホンみたいな音が鳴り響いてしばらくすると店員が来た。

お待たせしましたと笑う店員に木兎さんがすごい勢いで肉の注文をしていく。

次に京治でその次にクロ。

クロは研磨の分の注文もしてくれてそれが終わると俺を見る。

「空絵は何食う?」

俺はメニューを見つめながら食べたいものを口にしていく。

「エリンギと野菜盛り合わせと同時でメロンソーダとチョコレートパンケーキ、食後にチョコレートプリンパフェで」

クロは呆れながら店員に「以上で」と言って店員がいなくなると研磨がゲームをやめて俺に寄り掛かったままこちらを見上げてる。

「空絵こそ肉食べなよ」

「肉苦手…」

「出たよ空絵の偏食」

クロは面白そうにそう言う。

木兎さんはこてんと首をかしげて。

「肉食わないのに何で焼肉屋に来たがったんだ?」

それに対して俺はにこにこ上機嫌の笑顔で答える。

「エリンギと人参とね、パンケーキが大好きなの!」

「すげー偏食発言」

隣でクロがニヤニヤと笑う。

何か静かだなと思って京治を見るといつの間にか彼は俺にスマホを向けていて、それに気付いたクロが聞く。

「赤葦なにしてんの」

すると京治は何ともないとでも言うようにさらっと、

「動く空絵さんを動画に撮ってます」

「木兎、今すぐ赤葦を止めろ」

「えっ。許してやってよ多分赤葦は初めての恋だから」

「やめろ恋とか言うな。てかこんな愛され方嫌だろ。なぁ空絵」

「ちょっと照れるからやめてほしいなぁ」

「照れるのかよ!嫌がれよ拒絶しろよもう空絵マジ天使!」

「照れる空絵さんも可愛い」

「赤葦本当にキモいぞ大丈夫か?」

そんな話をしてる内に注文したものが運ばれてきて木兎さんは上機嫌で鼻歌を歌いながら金網に肉を乗せていく。

わぁあ肉が焼ける匂いだ。

俺は金網の隅っこでエリンギを焼いて醤油をつけてもぐもぐと食べる。

エリンギ美味しい。

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