大声で魔法の言葉を、
□magic×18
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次の日の日曜日。
朝目が覚めて寝ぼけた視界で隣を見るとクロはまだ寝ていて。
二度寝するかぁ。
そう思って再び目を閉じようとしたとき、ふと俺に降り注いでいた朝日がシャットアウトされて影が射す。
「は?」
バッと目を開けてクロがいるのと反対の方の隣を見る。
するとそこにはリンゴを片手に持った研磨がもう片方の手でベッドに頬杖をついてこちらを見つめていて。
俺は渋々クロの腕からすり抜けてベッドから這い出た。
さーて。
可愛い研磨のために起き抜けでアップルパイでも作るか…。
「ほらー出来たよ」
「わぁあ…!ありがと!」
「うん。あ、こっちがいつものアップルパイでこれはアルザス風アップルパイね」
研磨は俺に目もくれずキラキラと嬉しそうな顔で二つのアップルパイを交互に見る。
本当、アップルパイには敵わない。
そう思いながら一緒につくったカボチャとサツマイモと栗のクッキーを適当なクッキングペーパーを敷いた箱に詰め込んで、余ったクッキーは自分とクロと研磨で食べようと思ってお皿に移してラップをかける。
それを見て研磨は不思議そうに首をかしげて。
「それ、どうするの?」
箱のクッキーを指差して言う。
俺はその言葉にちょっと照れ笑いして答える。
「京治にあげるやつ」
すると研磨はムッと不機嫌な顔になって。
「ねぇ空絵」
「ん?」
短い返事をしてそちらを見れば研磨は拗ねたような顔で服の裾をいじる。
「空絵にとって一番って誰?」
へぇ?
思わず間抜けな顔をしてしまう。
えっ、だって、ホラ…研磨どうした。
研磨がなぜおかしいのか考えていると当の彼は真面目な顔で俺を見上げて。
「答えてよ」
と、ちょっと威圧的に言う。
えぇ…うーん。
「誰が一番ねぇ…?えー誰だろ。みんな好きだよ」
ケロリと答えると研磨はムッとした不機嫌な顔に戻ってから盛大に、呆れたように溜め息をついた。
それから小さな声で、
「そう言うと思った…」
と呟いて。
そこへ丁度寝起きのクロが来て。
「お前ら起きるの早ぇな…」
そして寝癖の頭をガシガシと更にグシャグシャにする。
「クロ、顔洗って髪整えて。目玉焼き作るけど半熟でいいよね?」
「おう」
クロはおとなしく洗面所に向かう。
あー。次は朝ご飯作りか。
「研磨は完熟?」
「アップルパイでいい」
「えー?俺が作った朝ごはんじゃ不満か?アップルパイはご飯の後に食べてよ」
すると研磨は無言でこくりと頷いてどこから取り出したのか携帯ゲーム機でゲームを始めた。
俺はご飯作りに取り掛かって。
朝ご飯を食べ終わってクロにちょっと出掛けるね、と声を掛けて詰問される前にクッキーの箱が入った紙袋を抱えて家を出た。
さぁてクッキーを届けよう。
待ち合わせ場所でぼんやりしていると知らない女の子に次々と話し掛けられて誘われては断るの繰り返し。
やっぱり幼馴染みがいないとすぐ囲まれる。
苦笑いで良心を痛めながら断り続けて約10分。
後ろから昨日知り合ったあの、優しい声が聞こえた。
「空絵さん、待たせてすみません」
振り返ると相変わらず無表情の京治がそこに立っていて思わず気の抜けた笑顔をなってしまう。
「うん。行こう」
手を差し出せば握られて、人混みから抜けるためにスルスルと人と人の間を縫って歩く。
おとなしく着いていって、ある程度人の捌けた通りに出ると俺は京治を見て笑う。
「ありがとね、京治。はいコレ」
そしてクッキーの袋を渡すと京治は無表情で、でも声は嬉しそうに。
「ありがとうございます」
とお礼を言う。
「んーん。いいよ別に。研磨のアップルパイのついでだし」
「それでも嬉しい」
京治はそう飄々と答える。
そう言われると照れるなぁ。
ふふっと笑えば俺の頭を撫でる大きな手。
それが気持ちよくて猫のように京治の手に甘えて擦り寄ると京治はそのままサラサラと俺の頭を撫でて。
「空絵さんはいつ帰るんですか?」
「あー…今日の夕方かな」
困った笑顔でそう言うと京治はそっか、と呟いてそれから続けて。
「じゃあそれまでデートしましょう」
まるで「今日はいい天気ですね」とでも言うようにサラリと言った。
「デート?」
キョトンと首をかしげて彼を見ると彼もまたニッと不敵な笑みを浮かべて。
「はい。デート」
と繰り返した。