大声で魔法の言葉を、

□magic×19
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「デートって何するの?」

キョトンと首をかしげて京治に聞くと彼は愛しそうに目を細めて控え目に笑う。

「空絵さんは何がしたいですか?」

何が…って。うーん?

「え〜……何だろ…バスケとか?」

ちゃんと5人揃ってる試合形式のやつ。

呟くように告げれば京治は不思議そうな顔をして。

「空絵さん、バスケできるんですか?」

「うん。今はバレーしてるけど前までバスケやってたもん」

そう答えると京治は驚いた顔を見せる。

「へぇ。以外ですね」

「そうかな」

「えっと…バスケのことは詳しくないんですがどこかコートのある所、行きます?」

「え!いいの!?行く行く!やった!」

東京にいたときいつも通ってたストバスに行こう。

そしてそこでバスケしてる人がいたら混ぜてもらおう。

そうしよう。

確か向こうだったな、と記憶を頼りに歩き出すと京治も俺に付いてくる。

あぁ、楽しみだ。

なんて素敵な休日だろう。











「こんにちはー」

挨拶と共に足を踏み入れたコート。

そのコートにいる人の視線を一身に受けて恥ずかしさを誤魔化すようにヘラリと笑う。

すると一瞬静かになってから響く悲鳴にも似たような歓声。

「原沢さんですよね!?ファンです!」

「嘘っ!原沢さん!?本物!?」

「わっ、写真よりイケメンだ!」

チビちゃんから大学生くらいまでわらわらと俺の周りに集まる。

その一言一言に笑顔でお礼を言うと隣で京治が固まっていて。

「京治、大丈夫?」

顔を覗き込んで聞くと彼は心底驚いたように俺を見返して言う。

「もしかして空絵さん、有名人…?」

「えぇ…?さぁ?」

京治の言葉を聞き付けたチビちゃんの一人が背負っていたリュックから昔の月バスを取り出して京治に突き付ける。

「にーちゃん原沢さんのこと知らねーのかよ!コレ読んでいいから」

「有り難うございます」

京治は驚いたように月刊バスケットボール、通称月バスを受け取る。

しかもよりによって表紙が俺のやつ。

やめろください恥ずかしい。

珍しそうにそれを眺めて、

「月バリのバスケバージョン?」

と呟く京治に一つ頷きを返せば、俺はそこのベンチで読んでるから好きに遊んできていいと言われる。

やった。

「ねっ、みんな!試合やろ試合!」

両手を上げて万歳のポーズで言うとみんなは嬉しそうな声を上げて賛成してくれる。

本当、こういうの好きだ。

ここにいるみんながみんな、バスケが好きでたまらないってこのカンジが。

とても嬉しい。

もうチビちゃんも大学生もみんな混ぜてじゃんけんをして、勝った10人から2チームに分かれて試合をする。

制限時間じゃなくてマッチポイント制にして25点マッチの試合。

誰のものか分からないけど有り難くボールを借りてプレイする。

途中みんなにダンク見せて、だのレーンアップ見せて、だの言われてそれに応えては大きな拍手が起こって照れて顔を隠す。

一通り試合を満喫するとチビちゃんや大学生たちにバスケ教えてと言われてそれはもう上機嫌で教える。

努力する人は好きだ。

だから、俺に出来ることがあるなら何でも教えた。

まるでバスケを始めたばかりの頃に戻ったみたいでとても楽しくて。

下手でも構わない。俺はこんな仲間に囲まれてバスケがしたかった。

ちょっと悲しくなったけど今の俺にはバレーがあると思うと悲しさも薄らいだ。

そんな俺と時折目が合うと手を振ってくれる京治の目は、どことなく優しくて。

散々遠回りしたけど、俺は今恵まれてる。

鼻歌を歌いながらダンクをきめると本日何度目か分からない歓声に包まれて。

時間ギリギリまで大好きなバスケを楽しんだ。











「今日はありがとうねっ!京治!」

クロの家まで送ってもらって俺は京治に頭を下げる。

すると無言の京治に頭を撫でられて。

顔をあげると愛しそうにこちらを見詰める京治の真剣な顔が近くにあった。

思わずドキッとして後ずさろうとするとパシッと手を掴まれて。

京治は至近距離で俺を真っ直ぐ見つめて、囁くように言った。

「俺はバスケのことは分からないけど空絵が楽しそうにしてて良かった」

「う、うん」

「空絵のこと、もっと好きになりました」

そしてもう一度サラ、と俺の髪を撫でて。

「また東京に来たときは連絡ください。待ってます」

と言って踵を返して歩いていってしまう。

……………好き?

てか、なんで急に呼び捨て…いや別に良いけど…。

好き………あぁ、友達としてね。

びっくりしたー。

自己完結してインターホンも無しにクロの家に帰る。

「ただいまー!」

ドアを勢いよくあけて声を上げるとクロがドタドタと駆け寄ってきて。

「バカッ!お前今までどこにいたんだよ!」

うわっ出たよ過保護。

俺は昔から何も変わらないクロに溜め息を吐いて。

「ストバスで知らない人とバスケしてたんだよ」

「だったら連絡ぐらいしろ!」

「バスケしてんのにどうやってケータイ見んのさ!」

「あ!?心配してんだこっちは!」

「もぅ!クロは本当に心配性だなぁ…好きだよ」

呆れた溜め息と一緒に吐き出した言葉にクロは固まる。

そんなクロの横を通りすぎてリビングに行くと今朝つくったアルザス風アップルパイを幸せそうに食べる研磨がいて。

「あ。空絵お帰り」

「ただいま。そのアップルパイ初めて作ったけどどう?」

「うん。いつものも好きだけどこっちも好き。またつくってよ」

「次来たときね」

それに研磨はこくりと頷いて。

クロの部屋から荷物を取ってきて帰ろうとすると玄関でクロが座り込んでいて。

「どうしたのクロ」

するとクロは恨めしげに俺を見上げる。

「何でもねぇよ…次、いつ来る?」

アレ。クロどことなく顔が赤い気がする…。気のせいか。

「多分来月になるだろーなぁ」

今後のスケジュールを頭に思い浮かべながら言うとクロは目に見えてシュンとして。

座り込んだままうつ向いて言う。

「なるべく早く帰ってこいよ…?」

そんな彼がすごく可愛く見えた。

思わずクロの寝癖の頭を撫で回して、驚いたようにあげられた顔を見つめる。

それから彼の名前通り真っ黒な髪をかき上げて額にリップ音とともにキスを送る。

「じゃ、また来るね」

ぽかんと俺を見上げるクロに笑いかけて家を出る。

さて、宮城に帰るかぁ。

俺は大きく伸びをした。

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