幻想少年創生録

□カミサマ?アクマ?ニンゲン?
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「・・・?」
少年は、目を覚ました。
暖かい感覚に包まれ、先程の事柄全てが悪い夢だと錯覚する。
だが、目を開けると、そこは博麗神社ではなかった。
「・・・・・っ!」
最早、少年に怒ったり、妬んだりする気力は無かった。
ただ、ただ、悲しみと虚無感があるだけだった。
涙が、蛇口を捻ったかのように止まらない。
「ぅ・・・ぁ・・・!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
少年は、ただ、ただ、泣いていた。
すると、その声を聞きつけ、一人の少女が部屋に入って来た。
「あ、起きたんだ」
「あっ・・・!!」
少年は少女に泣いていた現場を目撃され、顔を真っ赤にした。
死にたい・・・!これ以上俺を苦しませないでよ・・・!
「あの・・・今の、見てないよね?」
「え!?」
「見た・・・?」
「見た、けど・・・」
「やっぱりぃぃぃ!!その、これは秘密に!」
「そ、それはいいんだけど・・・見えるの?」
「・・・へ?何が?」
「わ、私の事」
「・・・?うん、見えてるよ?」
「あれ?能力、使えてるよね・・・?」
「???」
少年が理解できていないうちに、また一人部屋に入って来た。
「あ、起きたんだ。こいし様は・・・まだいないみたいね」
少女は猫の耳と尻尾を生やしており、猫の妖怪だと認識できる。
髪は赤髪で、服はゴスロリのような物だった。
・・・橙みたい。
少年は、知り合いである化け猫を重ね合わせ、また目に涙を浮かべた。
あいつが・・・!橙達と・・・!なんで・・・!!
「だ、大丈夫?」
「お燐。拭く物ある?」
「きゃっ!?こ、こいし様!」
「ごめんね。拭ける物はいい・・・それでね、その子、さっきから、いたけど」
「・・・ねぇ、名前は?」
「俺?俺は・・・」

『・・・これで、俺の物だ』

「!・・・俺には、名前は無いんだ」
「・・・え?」
「・・・過去も、今も、未来も。俺は、全部失ったんだ。自分の存在さえも・・・だから、『ナナシ』とでも呼んで」
「ナナシって呼べばいいの?分かった。じゃあ、ナナシ。お姉ちゃんに会ってくれない?」
「お姉さんに?いいけど、なんで?」
「ここはこの『古明地 こいし』様の姉の『古明地 さとり』様の家なの」
「・・・そっか。お礼、言わないとね」
「じゃあ、ナナシを連れてくから、お燐はお片づけよろしくねー!」
「ちょ、こいし様!?」
「行こ!ナナシ!」
「あ、うん・・・」

〜少年少女移動中〜

「お姉ちゃん、入ってもいい?」
「こいしね。いいわよ」
扉を開けた先にいたのは、薄紫のボブに深紅の瞳、フリルのついた水色の服装が特徴的な少女だった。
「あの、助けていただいてありがとうございました。自分は、ナナシと申します」
「・・・!?」
「? どうかしました?」
「・・・貴方の職業は?」
「今は、無職です」
「・・・・・」
「そ、その、本当にどうかしました?」
「お姉ちゃん・・・まさか」
「こいしも?」
「うん・・・この人には、能力がきかなかったの」
「そう・・・私もなのよ」
『・・・悪いな、陽炎。黙って聞いてくれ』
・・・アダム?
『俺は、お前に、『あらゆる能力を防ぐ程度の能力』を与えた』
なっ!?
『だが、あの新太郎とかいう奴の能力は、打ち消せなかった』
・・・。
『・・・後で、案を考える。だから、少し待っててくれ』
「・・・うん」
「? どうかしました?」
「ううん、何も」
「そうですか。ところで、貴方はどうして倒れていたのですか?」
「真っ黒な姿になってたよね!」
「真っ黒・・・?」

[『ギャハハハハハ!!』]

「・・・これは」
何なんだ、これ・・・!
自分が、自分ではない何かになっていたことを、少年は思い出した。
「・・・分からない。俺にも、あれが何なのか。倒れてた理由は、喧嘩して、刺された」
「大丈夫・・・?」
「大丈夫だよ、こいし。もう治ってるから」
「そう。なら良かった!」
「ありがとう、こいし。さとり。お世話になりました。俺、傷も治ったし、ここから出ます」
「あのねナナシ。話があるの。お姉ちゃんにも」
「何かしら?」
「何?」
「ナナシ、ここに居て!お姉ちゃん、ナナシが住む事、許して!」
「え!?」
「・・・こいし」
「私、気付かれたの初めてだった。嬉しかった・・・私でも。気付いてもらえるんだって、思えて・・・」
「・・・いいわよ」
「本当!?」
「ただし、ナナシさん」
「呼び捨てでいいよ」
「では、そうします。ナナシには、働いてもらうわよ」
「勿論。お世話になるんだし、そのくらいしないと・・・と言っても、家事くらいしかできなさそうだけどね」
「十分よ。じゃあ今夜、仕事について話したいから、私の部屋に来てくれる?」
「分かった。ありがとう、さとり」
「やったー!ありがとう!お姉ちゃん!」
「じゃあこいし、遊んでいらっしゃい」
「うん!ナナシ!行こ!」
「うん。行こう」
・・・あの姿、一体何なんだろう?
「? どうかしたの?まだ涙出る?」
「・・・大丈夫。さぁ、いっぱい遊ぼう!」
今は、このつかの間の幸せを楽しもう。
・・・どうせ、すぐに消えてしまうのだろうけど。
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