東方天使録

□奇跡を起こす巫女と天使
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守矢神社内
「それじゃあ、改めて。俺はグレートブリテン及び北アイルランド連合王国。イギリスと呼んでくれ」
「東風谷 早苗です」
「『八坂 神奈子』だ。よろしく」
「『洩矢 諏訪子』だよ。よろしく」
「・・・それで?イギリス。ここへ来た理由は何なんだい?」
「軍神、呪い神、奇跡を起こせる巫女・・・なんか、親近感が湧いてな」
「親近感?神奈子は軍神だから分かるけど、私と早苗は国とは関係ないでしょ?」
「軍神・・・戦いは国として、呪いと奇跡に関しては俺自身として気になった。俺は国の化身でありながら、天使の力、奇跡の力、魔術を使用できるからな」
「え・・・?奇跡をですか!?」
「あぁ。つっても早苗みたいにはできない。俺はあくまでも起こすだけで、どんな奇跡を起こせるのかは分からない」
「へぇ・・・じゃあ、天使の力っていうのは?」
「肉体の変化。身体能力の向上。魔術の威力の増強・・・だいたいそんなもんだな」
「へぇ・・・外にもまだそんな力を持った存在がいたんだねぇ」
「・・・そういや、早苗」
「何ですか?」
「さっきの質問の続き、いいか?」
「えぇ、いいですよ」
「・・・お前は今、本当に幸せか?」
「・・・え?」
「い、イギリス?いったい何を言い出しているんだ?」
「悪い。今は静かにしててくれ」
「いや、しかし・・・」
「神奈子。ここはイギリスに任せようよ。私達は昼食の準備でもして待ってる事にしよう」
「あ、こら!」
・・・ありがとな、諏訪子。
神奈子をやや強引に引っ張って部屋を出て行く諏訪子に、イギリスは心の中で感謝の言葉を述べた。
「あぁ・・・食事の準備なら私がするのに・・・」
「気をつかってくれたんだろう。二人の前じゃ言いにくい事もあるだろうしな・・・」
「・・・あの、どういう事ですか?」
「無理をしちゃ駄目だ」
「! な、何のことでしょうか・・・?」
「分かり易すぎるぞ、早苗」
「・・・ですから、私は大丈夫なので」
「いや、だからな・・・」
「大丈夫って言ってるでしょ!?」
「っ!」
早苗が怒りに任せて撃った弾幕が、イギリスに襲い掛かる。
「・・・がっ!」
だが、イギリスは避けようとしなかった。
早苗が、一般人にすら避ける事ができる弾幕を撃ったのにもかかわらず。
「え・・・!?あ、えっと、その・・・」
だが、その状況に頭が冷えたのか、早苗は困惑したような表情でオドオドし始めた。
「・・・俺は、何も君に危害を加えたい訳じゃない・・・ただ・・・」
イギリスの脳裏に思い浮かぶ、早苗の無理矢理作った笑顔と重なる笑顔。

『私は、大丈夫です・・・フランスさんを、お願いします』

母国の為に戦い、母国の王に裏切られ、自身の国で処刑された・・・あの勇猛果敢な女性の、無理矢理作った笑顔と目の前の少女の笑顔が、重なるのだ。
「無理をしないでくれ。お前が無理をして体でも壊したら、お前を好いてるあの二人の神が悲しむぞ?」
「わ、私は現人神ですし、体は壊しませんよ」
「そういう問題じゃねぇし、第一、現人神だって人間だろ?」
「ですが・・・」
「・・・俺は昔、お前と同じ笑顔をした女性と話をした。あいつは無理をして笑顔を作った・・・お前も同じ顔だ」
「・・・その、女性は?」
「・・・殺した」
「え・・・?」
「俺が・・・殺しちまったんだ・・・俺が・・・!」

『なんでだ・・・なんであの子を殺したんだ!』
『・・・』
『答えろよ・・・おい!答えろクソ野郎!』

「あいつが・・・あいつが苦しんで・・・俺も、嫌だった・・・けど、国民は笑顔で・・・王も笑顔で・・・何でだ!何でだよチクショウ!!」
「イギリスさん・・・」
「・・・悪い。俺の事はどうでもよかったな。とにかく・・・お前は俺の知ってる女性と同じで、無理をしてる。だから、少しくらい愚痴ったっていいじゃないか。頑張らなくていいじゃないか。頑張るのと、自分を殺して生きていくのは、違うぞ?」
「・・・・・私」
「・・・」
「私だって・・・私だって普通の女の子になりたかった!能力なんて無い、現人神じゃない、普通の女の子になりたかった!友達だって、たくさん!たくさんほしい!でも・・・でも!駄目なの!現人神として生まれてしまったし、皆も私を恐れて近づかない!幻想郷に来た後も、友達なんてできないし!信仰を集める為とはいえ、他人に迷惑を掛けてしまうし・・・でも、そうしないと神奈子様と諏訪子様が・・・もう嫌ぁ!なんで・・・!何で私がこんな風に生まれなきゃいけなかったのよ・・・!」
涙を流し、叫び、自らの思いをぶちまける。
そんな彼女をイギリスは、まるで父親が子供をあやすかのように頭を撫でることで落ち着かせようとする。
「・・・俺もな、国になんて生まれなきゃ良かったって、何度も思ったさ・・・でもな、早苗。そんな事は無いんだ。人は・・・いや、人も、妖怪も、悪魔も、妖精も、国も・・・皆、生まれた意味がある。紫が生まれたから、幻想郷ができた。お前が大切に思っている二人は消えなかった・・・霊夢がいるから、人間は異変から助かってる・・・魔理沙もか・・・だから、よ。早苗にもきっと生まれた意味があるんだ。それを見つけよう。そうすれば、自然と・・・友人とまでにはいかないにしろ、仲間と呼べる奴ができるさ」
「・・・イギリスさんは」
「ん?」
「イギリスさんは、どうやって今まで生きてきたんですか?」
「俺か・・・俺は、だな。まぁ、国民の総意に従ったって感じだな。国は、国民の為にあると、俺は思ってる」
「・・・仲間は、できました?」
「仲間・・・って言っていいのか分からないが、できたぞ。ヘタレな軟派男の兄弟、筋肉モリモリマッチョマンの兄弟、銃を躊躇無く撃つ奴、生意気な弟、爺さん、自己主張の薄い奴・・・腐れ縁の変態野郎。それに友達と呼べる、俺には勿体ないくらいの、出来た奴・・・」
「・・・ふふ。個性豊かなんですね」
イギリスの紹介が面白かったのか、クスリと笑う早苗。
「お前達が言うか?・・・というか、やっと笑ってくれたな。やっぱり、女性には笑顔が似合う。無理してない笑顔がな」
「え・・・あ、ぅ・・・」
「どうした?」
「え?あ、いえ!何も!」
「・・・そうか。まぁ、他の奴等に言いたくないってんなら、俺の前だけでも本音を曝け出しちまえよ」
「・・・イギリスさん」
「うん?」
「・・・ありがとう、ございます・・・」
「・・・おう」
「・・・」
「さ、早苗・・・?」
早苗は急に無言になると、イギリスににじり寄っていく。
「お、おい。どうした・・・?」
「・・・わっ!」
「!?」
早苗が急に大声を出し、イギリスは驚き、仰向けに畳の上に転がってしまう。
「え・・・?ちょ、は・・・?」
「ふふふ。やっちゃった!」
「な・・・え?早苗・・・どうした?」
「・・・私、友達と馬鹿やったりするのが夢の一つだったの。今、叶っちゃった」
・・・友達、か。
「・・・そうか。お前、以外とお茶目な性格してんのな」
「そうかな?」
「・・・早苗」
「何?」
「・・・ありがとな、友人と呼んでくれて」
「ううん、私も友人と認めてくれて嬉しかったし、別にいいよ・・・でも、いつかは・・・」
「ん?いつかは、何だ?」
「え!?あ、ううん!何でもないの!」
「・・・?そうか」
「いやー・・・青春してますねぇ」
「「!?」」
何故かイギリス達の頭上から声が聞こえる。
二人が上を向くと、天井の板が一枚はがされ、そこから何者かが二人にカメラを向けていた。
顔は覆面で隠されており、全く分からない。
「・・・え?」
「あやや。バレましたね」
声も何かの機械で変えているようで、よくドラマで耳にするボイスチェンジャーのような声が聞こえる。
「・・・撤収!」
バキィッ!
謎の人物は屋根を壊し、守屋神社から何処かへと飛んでいってしまった。
「・・・なんだあれ」
「・・・なんだろう」
「ご飯できたよー!」
二人はとりあえず、謎の人物を無視して、昼食をとることにした。
それが後々大変な自体になる事を予測できずに。
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