BOOK
□海は広くて大きくて
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燈宮ジャズこと俺目線でお送りします。
波が白く輝く砂を押して、地面にゆらゆらとした線を描く。
季節は夏、照りつける太陽。
漣一行は海へと訪れていた。
「青い海!」「白い雲!」
漣が叫び、灯が呼応する。
「スカイブルーの空を背景に顕現する天使!(と書いてflccと読む)」
「ネェさん眼医者行け」
「え、ネェさんありがとう?
やだなー、今更ー☆」
「難聴か」
俺の発言をバッサリ両断するご飯のお供系不動天使もといflccと、両断された俺。
そして後ろでは尚も茶番が繰り広げられる。
「にっ、いっ、さーーーんッッ♡」
ジェット機の要領で頭突きをくりだした漣。
対する被害者の鈍い叫び声。
「ぐっ……、!?」
「兄さんの苦悶の声!?ktkr!?」
鳩尾ど真ん中を般若の顔で摩るのはこの中唯一の年増…げふん年長者ことアザミである。
「てめェ…」
ゆらりと立ち上がるアザミ。
「て…てへぺろ?♡」
両の頬に人差し指を当て、小首を傾げた漣に後ろから声がかかる。
「さざみーん!おっよごーぜぇ!」
俺である。
「よしゃぁアアアアアアア!
兄さん行こぉおお!」
早くもテンションがMAXへ達した漣にアザミはぼそりと。
「逝ってらっしゃいそして2度と戻ってくるな」
「あれ?デジャヴ!?」
そこで俺はヒソヒソと漣に耳打ちする。
それを聞いた漣はニヤリと微笑み、
「よっしゃ任せる」
「よっしゃ任された」
「「兄さーーーんッッッ!」」
全力ダッシュで近づき漣が構い倒して
かーらーのー…
俺はそっと後ろへ回り。
「膝かっくん!」
「!?」
視界が一二段階がくりと下がったアザミは目を白黒させた後、絶対零度の壮絶な笑みで言葉を放った。
「溺死と刺殺…好きな方を選べ」
「ワーイ兄さんが怒ったぁ☆」
「ウフフフフフ捕まえてごらーん☆」
文面のみ読めば和やかに見えるだろう二人の言葉だが
ビーチパラソルの下で読書にいそしもうとした水乃と、グラスに入ったジュースのストローを咥えるflccは同時に思った。
〔あれ何km出てんのかな。〕
微笑みながら全力遠泳する漣と俺。
そのすぐ後ろで、水面を蹴り上げるアザミ。
…心なしか体全体が水面より上にあるように見える。
つまるところ、水面を走っている。
水乃達と涼む小さなウサギは誰にも聞き取られない声量で囁くのだった。
「ホンマに人間かいな。(特に前半二人)」
そのウサギの飼い主、シオンはアザミを苦い目で見ながら呟く。
「既に人外に成り下がってるのなら、その二人の後ろで水面蹴り上げてる方だから。」
そんな会話は耳に入らない。
立ち止まったら死ぬ。若しくは砂浜か海底とこんにちはする羽目になる。
俺も漣もただひたすらハイスピード遠泳を。
全ての原動力はflccへの愛とアザミにーさんへの悪戯心。
さぁもう一踏ん張り「よゥ糞餓鬼共」
「「あっれー兄さん奇遇ダネ☆」」
「あァ…奇遇だなァ?」
米神に血管が浮き出て見える辺りお怒りは深いようで。
二人分の悲鳴(そのうち一名は歓喜の声)を聞きながら灯は砂の城を建設しつつ言ったのであった。
「元気だねぇ〜」
──────────────
「さざみーん☆起きてみよう」
ナイスボディ(砂製)になったさざみんを起こすと、さざみんはあれ?あれ?と辺りを見渡そうとする。
「大変出るとこ出た〔ないすぼでぃー〕ダネ♡」
俺がニヤァっと笑えば顔が青ざめるさざみん。
「わぁああああああ!?なにこれ!」
身をよじるさざみんを、ここで会ったが百年目とばかりに撮りまくる万くん。
その顔は普段のイタズラの仕返しができたとあって実に晴れ晴れとしていた。
「ちょ!誰か!ヘルプ!ミー!」
「えっと、ゴメンね?」
助けられそうにないよ、と苦笑いするのはさざみんを埋めた本人であるアザミ兄さん。
ただし彼は今現在柔和な笑みで佇んで居る。
表兄さん万歳。
「うぁあああああああ表兄さんの水着姿hshsしたいのに動けないぃいいいいいいいい」
絶望の声をあげるさざみんを余所にさっさと元の位置へ帰るそれぞれ。
助ける気など毛頭無いようだ。
かくいう俺もだけどね!★彡
「flccflcc!
日焼け止め塗ってあげるから俺と泳ぎませんかーーー!
ぐふふ、ぐへへへへへ♡」
「帰れ変態、土に。」
絶対零度の瞳が照りつける太陽を凍らせるかもだけど俺はむしろそんなflccに凍らされたい、むしろ凍らせてください。
flccはスッと俺から本へと視線を戻してしまった。
ほ…本に嫉妬する…('ω')
「ねーさんねーさん、僕をここから助ける気は…」
「あれ?さざみん面白い格好してるねー」
「無いんですね。」
────────────────────
「水乃!」
「…………香月」
水乃は持っていた本から視線をあげる。
「って海でまで本………?」
「泳ぐ気とか最初から無いし」
「うわぁ…海を全否定。」
ここで水乃は香月の全体像に目をやる。
水着の上から羽織られた薄手のパーカー、当然羽織っただけなのでパーカーの下は水着の下が見えている。
控えめのヒラヒラしたレースが見えて、ピンクの紐でとめられたリボンにまで視線が伸びた所で水乃はハッと我に返った。
「(って!どこ見てんだ僕!)」
バッと顔を逸らすが本に目をやるわけにもいかないし、海で遊んでる元気な彼らを見るには些か焦りすぎで。
気付けば何故か香月の顔をガン見していた。
「……………」
「……………?」
急に頬に熱がより、慌てて地面に向かって顔を伏せる。
「おーい、水乃?」
香月は呼びかけて、そこで耳の赤みに気付いた。
「………あ。
水乃、似合う?」
「…………似合ってる。」
カァと指先まで真っ赤に染めて、顔を見る水乃にたまらなく色んな感情が押し寄せて。
お互いに顔を見合わせて笑った。
「ぷっ………!」
「ふふっ………!」
────────────────
「というかさざみん、どうしてそう言うことになってるの?」
表アザミが、砂製のナイスボディーを惜しみなく披露(笑)するさざみんに向けて質問する。
「あっちの兄さんが埋めてたんだよ。
表アザミん。」
俺がぷーくすくすと笑うと、ええぇ!?と驚いて慌ててさざみんを掘り起こす表アザミ。
掘り起こしてる最中にブツブツと何か呟いていたので、多分じぶんの中にいる裏アザミ兄さんに問い詰めてるんだろう。
「えっと、ゴメンねさざみん。
コイツが本当に…………!」
「いやいや!対して苦じゃないから!
(それに兄さんが掘り起こしてくれた時に胸板近くてhshsprprできたし)」
俺はさざみんの胸中の声を聞いてしまったけれども、聞かなかったことにする。
友人のよしみだもんね!
降り注ぐ太陽の下、俺たちは遊び尽くす。
そして日が傾いてきたころ。
────────────────────
「んじゃ、麦茶とクリームソーダで良いねー?」
灯ちゃんの再確認に頷いて、店員さんが注文をとっていった。
「楽しかったねー…!」
「さざみんのナイスボディー(笑)も撮れたしねぇ?」
「えっと、本当にアイツがゴメンね、さざみん。」
「いいよいいよ!だって胸板…げふん!」
「え?胸板?」
「なんでもない!」
「さーざみーん
(ひそひそ麗しの兄さんの胸板は如何でしたー?)」
「(そりゃもう!素敵でした!)」
「(女の子のおっぱいとどっちが良い?)」
「断然兄さん!」
「ギルティ女の子のおっぱいに決まってんだろ」
「お前ら何の会話してんだよ…」
「お待たせしましたー、焼きそばとかき氷です」
「かき氷多いな!?誰だ頼んだの!」
「てかこれ人数分あるくね…………?」
夏休みはまだまだ続く。