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□通り魔さんがログインしました
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"もう人生に疲れた
誰でもいいから殺そうと思った。"
逮捕されたらそう言ってワイドショーとかに出てやろうと思った。
そう思った。
実際行動にも移したし、何人も殺したし、今までの俺の人生の中で最も有言実行を体現したと思う。
それなのになんで…なんだって…
「何で死んでねぇのアンタ⁉︎」
事の始めは何人か襲った翌日、紫色の髪の男が目に留まった所から。
自然色の髪色ではなかったし、きっと染め毛だろうから俺なんかより楽しい人生なのだろう、腹がたった。
人通りの少ない道に入って行くのを確認してあとを追った。
後ろから近付き、振り向いたソイツの腹にグサリと果物ナイフを突き刺した。
数秒間息が止まった様に感じたが相手は一向に倒れる気配が無い。
妙に思い顔をあげて、目が思いっきり合ったので目を白黒させた。
「えっと、取り敢えず離れてもらっていいかな?」
微笑まれたのでえ?え?と戸惑いつつもふらっと離れる。
ソイツの全体像を改めて見ると妙な気分になった。
紫の髪を何房か長めに垂らして、特徴的なコートを着ていて、そのコートの腹部から真っ赤な染みが広がるが、当人に表情の変化はみられない。
え、痛くないの?
「えーっと、取り敢えず返すね」
ずぷりと引き抜いて一振りすると、その果物ナイフの柄をこちらに向けられた。
「へ?」
「…えっと、返すね?」
たっぷり10秒以上は硬直したと思う。
俺はそこでやっと理解して、その次に困惑した。
「え?えぇ?いやえっと、」
そこで言葉を一旦切る。
「刺さってなかったですか?」
なんで加害者が被害者に敬語なんだ。
「え?あ、刺さってたよ?
でも惜しいね、臓器には一切当たってないよ。
突き刺すならもっとナイフの柄をしっかり握るんだよ?」
ニコリと浮かべたその笑顔はテレビのアイドルかはたまた恋人のそれだった。
頭が困惑したままで帰宅して俺は、そこに来てようやっと気付いた。
「…何で死んでねぇのアンタ⁉︎」
勿論アイツはその場にいないのだからアンタよりアイツの方が正しかったんだろうけど、今はそれよりも漸く理解した頭でついさっきの出来事を振り返ることに精一杯だった。
えっと、俺は刺したよな?
それこそぐっさり。
んでいつまでたっても倒れないから変に思って顔上げて…、目があって…、ナイフ返されて…?
俺は慌ててナイフを取り出した。
血を振るって落としたといっても、やっぱり血液がべったりと付着している。
そこにふっとあの笑顔が思い出され、俺にはなんだか妙なプライドが芽生えた。
最早意地である。
「絶対アイツを殺してやる!」
俺はまずナイフを変えた。
このご時世である、ネットなんかで簡単に凶器は手に入る。
ボウガンだとか銃だとか。
俺は届いたサバイバルナイフを見て、あやこれ脳内シミュレートした。
いける、今度こそいける。
決行したのは翌日である。
そもそもアイツがまだこの辺にいない可能性を考慮していなかったので、出会わないはずだった。
普通にいた。
フラフラと住宅街を彷徨いていた。
この辺に住んでいるのだろうか。
俺は気配を殺して後ろからそっと近づいて、今度は指摘された通りに根元まで持ってしっかり突き刺した。
………………またコイツ倒れない。
ゆっくり視線をあげると困った感じの笑み。
もうヤダ何なのコイツ。
「うーん、何だろうね。
何かデジャヴ」
しかも忘れられてる
「あ、これ返すね?」
またずぷりとナイフを引き抜くコイツ。
「えっと、大丈夫なの?」
「え、何が?」
うわぁあああああああああああああん
滅びろイケメン爆ぜろリア充ぅうううッ!
三日目。
今度は毒殺だ…さぁ死ね今度こそ。
「ゲホッケホケホッ…」
ふはは苦しめ苦しめ!
人間を僅か数秒で死に追いやる劇薬だ
「兄さん大丈夫風邪⁉︎」
「あー風邪かなぁ…?」
風邪じゃねぇよ!毒だよ!
四日目。絞殺だ!
後ろから近寄って、首に、ロープを、
「せぃやぁあああっ!」
全体重をかけたロープを簡単に避けられた。
「うわっ!また君なの⁉︎
よく飽きないね⁉︎」
飽きる飽きないじゃねーよ!
数週間後五度目のチャレンジ。轢殺。
その為に免許までとったんだから、本当にそろそろ殺ってやる!
俺はそろそろ本気だす!
おれは ちゅうこしゃで たいあいり した!▼
アイツは でんちゅうと くるまの あいだから はいでてきた!▼
ミラクルが おきた! むきずだ! (おれも) ▼
「きゅっ救急車!」
通行人が叫んだら何とソイツが
「あ、大丈夫です。
無傷ですから、ご心配なく」
せめて怪我をしろぉおおおおおおおッ
「何度目かのリベンジ。
俺はこれで終わらせる。」
俺はそう書き残し、ノートをパタリと閉じた。
思えば“アイツ殺害日記”も5冊目だ。
ここまで長かった。
だがついに長い戦いに終止符を打つのだ。
アイツは最近女と共によく現れる。
彼女かリア充め。
まぁ確かにあの柔和な笑顔には俺も何度も殺意を削がれそうになったが、俺は今までそれを強靭な精神とあの時から鍛えた体力で耐えきった。
そして今、俺は。
ナイフを突き刺した。
何度も何度も殺そうとして成長した俺の技術は容赦なくソイツの体を抉る…筈だった。
「ににににに兄さん!」
「いってェな…何しやがる」
ぱーどぅん?
「あ、あれ?えっとどちら様で…?」
「あ?ンだよ人違いかよ…」
「兄さん血がどっぱどぱ出てるよ⁉︎」
「舐めときゃ治ンだろ」
だだだだだだだ誰この人!!!
なにこの人怖い!!!!
アイツ双子なの!?
こんなに怖い双子いたの!?
もうあれ視線で人を殺せるヤツだ!!
つーか視線で殺したことある人だ!!
「何見てやがんだァ?」
「すいませんでしたもうしませんすいませんでしたぁああああああ」
「まァ丁度コイツがウザくて堪ンなくなってたトコだしなァ………?」
「……………………………………え?」
《たった今入った情報です、○○○区の警察署に歩行者天国無差別事件の犯人と思われる男が出頭しました。
調べに対し男は“自首する以外にあの男から逃げる術が無かった”と訳のわからない供述をしており、警察は犯人が別の事件に巻き込まれた疑いがあるとして捜査中です。》