BOOK

□エンヴィ
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早朝から気分が良い僕は高校の正門前で、去っていくアザミ兄さんの背を見えなくなるまで見つめ、そうして漸く校内へと足を踏み入れる。
いつも通り、他人に対して冷たい無気力な知り合いから「アンタ本当にあの人のこと好きだねぇ……」なんて呆れられるハズが、今日は違う。
ワッと女の子に取り囲まれた。
これがハーレムか!と内心喜んでいると聞き捨てならないセリフが飛び出した。
曰く、校門で話していた男性は誰だと。
曰く、あのイケメンとは付き合っているのかと。
嬉しさは何処へやら。一瞬にして吐き気がこみ上げてきた。腹が立つ。
女子の群れの向こう側でさっきいった知り合いが冷めた目で女の子達を見つめている。
見ているなら手伝えよバカと思う。
「ねぇねぇ漣さん!付き合ってるの⁉︎
 超あの人イケメン!」
キャアキャアと黄色い声を飛ばす女の子達に眉を顰めて言葉を吐く。
「………付き合ってはいないけど」
その言葉に色めきたつ女の子達を軽く睨んで言う。
「僕のアザミ兄さんだけど、?」
少し語尾を強める。
いつもと違う僕の雰囲気に戸惑う女の子を尻目に言外で付け足す。
(まぁ、そもそも?
アンタらじゃ話しかけたところで裏兄さんに殺されるのがオチだけどさ?
その殺してもらえるってのが羨ましすぎてもういっそ………)
そこまで考えたところで目の前にその知り合いが立った。
いつの間にやら女の子達はあちこちに散って、思い思いの会話に花を咲かせている。
改めてその知り合いに文句の一つでも言ってやろうと思ったら、ソイツ(不破弓月という)はニヤニヤと笑っていた。
「…何さ」
口をつく筈だった文句はなりを潜め、質問が飛びだした。
「ん?相変わらずお熱いことだと思いまして?」
無気力で、他人に冷たくて、趣味が悪い弓月はこういう皮肉気な笑顔が得意だ(というかそれしか出来ないらしい)
正直なところこんなヤツである弓月と長く付き合えていたのは僕はだけだと思う。
「助けてくれても良かったのに」
「私が助けるともれなく女の子から避けられるっていうオプションがついてくるけど?」
「やっぱり結構です。」
前言撤回。弓月に助けてもらうと碌なことがない。
「んで?愛しの彼との進展は?」
「いつもと変わらず。
 でも僕は兄さんを愛せるならなんだっていいよ」
うふふ!と笑えば冷たい目線を浴びせてくる弓月。
あう。目が痛い。
「そういう弓月は?」
「いつもと変わらず。
 嫌われまくってるよ。」
少なくとも、僕よりはコイツの方が頭がイかれてると思うんだ。
世間一般的に見て趣味が悪い───オキュロフィリア。
互いに狂愛だとか眼球愛だとか気にしないタイプだったから上手く友人関係を築けているしこれからも築けていくんだろうなぁ、そう思っていたのは最近までの話。
と、そこへ。ある女の子が話しかけてきた。
「葉ちゃん!」
鈴谷日向。
可愛らしくて慎ましやかな女の子。
僕たちの友人関係の解れの糸。
「どったの日向ちゃん?」
ニコニコと話しかける日向ちゃん。
ここで話を戻すことになる。
僕が日向ちゃんとキャッキャウフフしてる時の弓月の目が酷く鋭い。



不破弓月は日向ちゃんの眼球に惚れている。



まぁこれだけならまだ友人関係は続いていただろうと思う。

解れには続きがある。
弓月の当時気に入っていた眼球の持ち主が、兄さんにスパッと殺された。
弓月の格言は【片目はえぐり出し、もう片方は生きたまま愛でる】その生きたまま愛でる方の目が、早い話アザミ兄さんに殺されたというわけで、弓月はアザミ兄さんにあろうことかケンカをふっかけた。
結果は目に見えてわかりきった結果。
弓月のボロ負け。
殺されかけた弓月は命からがら逃げ出した。
そしてクラスメートである鈴谷日向の眼球を見つけたが、その鈴谷日向は僕と仲がいい。




というのが話の顛末。




今では“友人ごっこ中の敵対関係”というのがぴったり。
お互い、気にしなければ楽な友人だったしね。








(あの子の瞳に見つめられるなんて、本当に妬ましいなぁ…)
(兄さんに殺されかけるなんて、本当に妬ましいなぁ─…)
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