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□イかれ男と眼球愛者と愛情狂い女
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僕は現在バイトであり、レジで愛想をふりまいている。
“兄さんに会いたいなぁ”なんて胸中にしまい込み、ニコニコと接客する。
自動扉が開き、お客さんが入ってくる。
「いらっしゃいま…」
「……………………」
僕は言葉を切った。
「わぁあ!兄さん兄さん!来てくれたの⁉︎
 僕もう嬉しすぎて死んじゃう!
 …じゃなくて、ごほん。
 ご注文お決まりですか?」
僕が真面目に働いているのを見て目を丸くした兄さん(そんな兄さんも素敵だった)。
僕がうふふと目を細めれば、突如空気が変わった。
なんでここにいるんだアンタ
兄さんの後ろからやって来たのは場の悪いことに不破 弓月。
まごうことなき元友人の敵対関係。
「あ?てめェこそ何してやがる」
空気が不穏なものに変わり、二人の様相に気付いた数人のお客さんが二人を微妙な目で交互に見る。
「それはこちらのセリフですね、平日の真昼間からこんな所で何をしていらっしゃるんです?
 あなたとっくに成人済みですよねぇ?
 嗚呼、お暇なのですねぇ?」
感情の一切を殺した無表情で声色だけに嘲笑を載せる弓月。
“こちとら夜勤明けだ…”と苛立ちを前面に押し出したような殺気を放つアザミ兄さん。
いつ事態が動くのかと誰もが息を飲んだ空気を破壊したのは、他でもない二人だった。
「おい変態女、注文とれ」
「あ、私ポテトとシェイク」
この状況で注文にもっていけるところだけなら弓月を尊敬してやらんでもない。



二人は何故か向き合って着席する。
仕事が休み時間に入るまで二人に近寄れないので会話が気になって仕方ない。
あと弓月てめぇそこどけや、兄さんの前(そこ)は僕の席だ


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俺がイライラを歩幅に表して着席すれば何故か前に座りやがる眼球女。
「何で前に座りやがンだ」
「別に他意はありませんよ」
表情を隠した声には敵意と殺意が混ぜられていて、久しぶりに愉快な気持ちになる。
あれだけ殺されかけた途端必死で逃げ出しやがった癖に、恐怖心が見え隠れすらしねェ。
孤独感から生まれた狂人、激化した愛情中毒者、眼球に執着する異常性癖者。
俺も、漣も、コイツも、イかれて狂ってる、惨劇が愉快で実に滑稽。
「あなたみたいな方にはわかりませんね、眼球の崇高な魅力が。」
取り敢えずこいつの神経逆撫でしてみる。
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ
「わかりたくもねェな、ンな気持ち悪ぃモン」
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ
「あぁ…そもそもあなたの様な粗雑な人外には無理な話か。」
シャカシャカシャカシャカシャカシャカ
「お前にしか理解できねェだろうな?
 なんせその異常性癖だしなァ?」
ガサガサガサガサガサガサガサガサガサガサ


「……………………」



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うん、僕も気になってたんだけどさ。
「シャカシャカシャカシャカ五月っ蝿ェよ!!!」
うんそうそれ!兄さんシャカポテいつまで振ってんの⁉︎
嘲笑の浮かぶ無表情なんていう器用な顔は何処へやら。
弓月の顔には前面に苛立ちが塗りたくられている。
対する兄さんはいつものようにせせら笑う。
ああもう流石兄さん!
一方調子を狂わされた弓月は舌打ち一つ叩いてガタリと席を立った。
「は、逃げんのかァ?」
「無益な時間だし、ここじゃアンタも私もお互い殺せないし」
その言葉をレジから睨みつけるが、弓月は僕を一瞥して店を出て行った。




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あぁ、腹が立つ。
私の眼球を殺してくれやがりましたイかれた紫男の視線を背に感じつつ、私は店を出た。
お昼時真っ只中。
昼食を取りに来たであろう人が入れ違いに入っていく。
瞳は茶色混じりの黒。つまらない。
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