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□二組の夏
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夏休みまで残り僅かとなった、七月十八日現在。
今日の短縮授業と明日の終業式で夏休みである。
茹だる様な暑さの中、蝉の声が何処から聞こえてくる。
「あっつ…」
学生である水乃は行軍する兵士よろしく額に汗を滲ませて歩いていた。
早く学校終わればいいのに。
登校中から既に帰りたい、これが無気力の極みである。
「水乃」
後ろから声がかけられゆっくりと振り向けば、そこにはクラスメートの万が同じ様に額に汗を滲ませて立っていた。
「うわ」
「うわって何だ、うわって。」
「朝から万とか何の拷問?」
「それ言ったらこの暑さのが拷問だろ」
「それな」
二人はまた歩き出した。
「やっと夏休みか。」
「水乃さ、今年香月ちゃんと花火行くの?」
「………まぁ行くけど」
「ふーーん」
意味ありげな何か含んだ笑いで水乃を見る万に、水乃はハァと溜息をついた。
「出くわしても話しかけんなよ、絶対」
「わかってるって」
ニヤニヤしながら水乃を見る万。
水乃は本日五度目の溜息をついた。
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夏休みまで残すところ二日となった今日、さざみんこと漣葉は私服で街中を彷徨いていた。
所謂サボりである。
授業日数残り一日にして何だか面倒臭くなったらしい。
「外出てきたのは失敗だったかなぁ〜」
ポツリと呟いてみるものの返事など帰ってくるはずもない。
自分自身に冷めた目を向けてハァと溜息を吐くと、クルリと身を翻した。
「帰ろ」
弓月は学校だし、蝉は五月蝿いし、暑いし、と付け足してスタスタと足を早めた。
自宅のある道に出た時に、漣は歩みを止めた。
悪い予感は良くあたり、良い予感なんてものは名前すら聞かないが、コレは良い予感だ。
道の角を曲がるとロングコートに垂らされた紫の髪が見えた。
「兄さん兄さん兄さん兄さん!」
暑さなんて五月蝿さなんてなんのその。
漣のハグ(と書いてタックルと読む)をモロに受けた紫の髪、もといアザミの腰がバキッと鳴る。
「────〜〜‼︎」
腰を押さえてしゃがみこんだアザミに漣はデジャヴを見た。
「ご、ごめん兄さん…えっと、大丈夫?」
二度目ともなると流石に罪悪感が凄い。
素直に謝って腰を摩る漣。
「いたたたた…喜んでくれるのは嬉しいんだけどね?
もう少し優しく抱きついてくれたら嬉しいな…」
僅かに顔を痛みに歪めつつもアザミは気丈にも柔和に微笑んだ。
「…ていうかキミ、今日は学校じゃないの?」
「…てへぺろ!」
「サボったの⁉︎」
ダメだよ行かなきゃ!とやんわりと叱るアザミに、漣はただほおを緩める。
「でも今日は昼までだし、そろそろ学校終わってるんじゃないかなー…
……………って。」
漣は道の向こうを見て露骨に顔を顰めた。
「…漣やっぱりサボりか。」
ん、と言って紙束を渡してきたのは数少ない“友人”である不破弓月である。
ただこの場で出くわすのはマズかった。
「んで、イカレ殺人狂(表)はここで何してやがる」
「えっと……………散歩?」
「ジジィ(ぼそっ」
「ちょっ、酷くない⁉︎」
「ゆーづーきー?」
ここで漣が口を挟む。
「は?事実だろジジィ」
再び口を開こうとしたアザミと弓月。
だが二人は無言で閉口した。
蝉がジィジィと鳴き喚く空間と照りつける太陽、熱せられたコンクリートから立ち上る陽炎。
「(これ以上騒いだら多分暑さで死ねる)」
眼球愛者と殺人狂(表)は会話を交わすことなく意思を疎通させた。
若干の羨望を弓月に向ける漣を連れて、三人はとぼとぼと歩みを進めて、角を曲がって見えなくなった。
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