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□人色亭の日々A
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人色亭。




東京のどこか片隅、ビルの合間を縫うような細い入り組んだ路地にその食堂は存在した。
店先に吊るされたOpen≠フ文字を見る限りどうも食事処であるらしいそこは、今日もひっそりと営業している。

基本的に訪れる客は一種類のみ。
そこに人種性別年齢は関係なく、ただある一つの目的でこの店に集まる。
時折事情を知る由もない一般人が入店するものの、出された食事を美味しそうに平らげ平然と帰って行く。
どうやら殺人鬼の経営する店なんかではないようである。

その後の客の体調や、食事の原材料などは解説するこの私の知ったことではないが。


閑話休題。
文章の頭からそんなことを説明したことには当然、然るべき理由がある。

ここの店主、桐ヶ谷色人は自らが美味しいと思うものを食べてもらって、美味しいと言ってもらって、笑顔で客を送り出す。
実際そのことに大変な喜びを感じているし、その仕事にやりがいも感じていることだろう。

問題はそこではない。
この店主の問題点、それは彼が食人家であることだ。






「やぁ色人」
人色亭の扉が、ドアベルの涼やかな音色を揺らして開く。
今やって来たのは、竜騎と言う長い白髪を低く結んだ眼鏡で常連客の一人で、爪先から頭のてっぺんまで真っ白い、未菜ちゃんとよくここで喋っているのをよく見ている。

「お久しぶりです竜騎さん」
俺が挨拶すると店の端、いつもの定位置にいた未菜ちゃんが午後の微睡みから醒めて視線を移す。
「うー」だとか「あー」だとか言う鳴き声とでも言うべき声を口の中で留める未菜ちゃんはのっそりと体を起こした。

「あーーー!竜騎ちゃん!」
未菜ちゃんが漸く覚醒した頭で視界に収めた竜騎さんを前に叫ぶ。
毎度毎度思うがちゃん≠ヘどうだろう。
もう年齢だって年齢だろうし。

「やぁ未菜ちゃん」
竜騎さんがニコリと笑うと未菜ちゃんに耳と尻尾が見える。

ホントに仲が良いなぁ…
兄妹かなにかみたいだ

「あぁ、そうだ。
 色人さん、これお願いできるかな」
竜騎さんは、ストラップを使って肩から提げられたクーラーボックスをカウンターに置いて言う。
組合にも入らずに毎度毎度よくバレずに調達できるものだ。

「仕込みがまだですので、少しお時間いただきます」

「構わないよ」

その間未菜ちゃんと、最近の若い肉について語って待つらしい竜騎さんに微笑みを返して早速取り掛かる。

「最近美味しそうな子に出会ってねぇ…」

「ほぅ」
相槌は打つものの、料理の手は止めずに。

「葉って子なんだけどね?」

「葉…………?」
聞き覚えがあったのでピタリと手を止めた。
葉…葉……………あ。

「その子多分常連さんの友人ですね」

「え、ホント?」

「ええ、当人はツンデレでしたけど
 まぁまぁ仲が良いのではと。」
作業を再開しつつそう言えば微妙な顔をする竜騎さん。
店の常連の知り合いだと言えば、少しそうして考えてくれるあたり料理人冥利につきる…訳でもない。
店内での調達は禁止しているが、店の外の調達はこちらの預かるところではないので。

「ま、お気に入りだしね」

「おや、意外ですね。
 友人関係などスルーされるかと。」
この方のことだからそんなもの気にせずに食べてしまうものだとばかり思っていた。
失礼だったようだ。







「食べる前に仲良くするのも後々美味しいかなと思って。」






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後書き

オチはアザミ兄さんがフライアウェイしました。
スクロールバーが仕事を放棄しました。

何が言いたいかって、これ以上つづかねぇ!

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