BOOK
□美術部顧問と不破部長
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子供の頃、絵を描くのが大好きだった。
叔母に買ってもらったスケッチブックに、空に浮かぶ雲や庭の花なんかの、兎に角ありとあらゆる物を描いた。
中学高校と絵に没頭し、やがて俺は美術の教職に就きたいと思うようになり、ガンガン勉強して大学に進んだ。
大学でたくさん勉強して、なかなか上位の成績で卒業して、念願の美術教師になった。
生徒みんなに好かれるような、素敵な先生に
教職に就いたばかりの頃は、俺だってそんな夢や希望を抱いてた。
けれども、そうやって何年も勤める内に俺は、いつしかそういった腕いっぱいに抱えた何か≠何処かへ落としてきてしまったらしい。
研修にやって来た教職見習いを見て、眩しいなぁと感じてしまった時に、そう気付いてしまった。
そんな今の俺の成り立ちをどうしてここで語ったのかは、コイツを見て納得してもらいたい。
俺が顧問を勤める美術部に、まぁまぁ熱心に絵を描く女生徒がいる。
毎日顔を出す訳でもないが、合同発表会なんかに出す絵は必ず仕上げる。
そして必ず入賞する。
最優秀賞なんかには絶対に選ばれないクセに、必ず入賞する。
俺はその女生徒の絵をガン見したことなんか一度もなく、今だにそいつの絵の何が委員会の御眼鏡にかなったのか、よくわかっていない。
そんな女生徒、不破がたまたま美術室に顔を出した。
美術準備室は俺の私室(勝手に私室化)なので、家のドアを開けたら、たった今悶々と考えてた奴が何故か目の前に居た。何が起きた¥態である。
客観的に見てコンマ1秒、主観的に見て数分にも及ぶような長い一瞬の後、俺はやっと声を絞り出した。
「お、おぅ、不破。精が出るな」
「…先生はここに住んでるんですか」
「…………おぅ?」
「昨日と同じシャツみたいなので。
気になって。洗濯してないんですか」
迂闊だった。洗濯してない。
「…………………不破、お前性格悪いって言われたことないか」
「…よくご存知ですね」
やっぱりな!!!!
「俺、不破の絵見たことねーわ」
「出来た絵を合同会(注:合同発表会の略)に提出してるの、先生じゃありませんか」
「ガン見したことないからどんな絵か視界に入ってない。」
「先生はボーっとしてテレビ見てて内容覚えてないタイプの人ですね」
「……………不破、お前友達いないだろ」
「……………余計なお世話です」
あーだこーだとつまらない会話をしながらも、不破はガタガタと、立てかけていたイーゼルを立てて、描きかけであろう絵を準備している。
横からちらりと覗き込んでみて、息を詰まらせた。
中央にポツリと描かれたガラス製の筒の様な瓶、その中に浮かぶ赤い瞳。
その絵は、そこに生きていた
描かれたその真っ赤な瞳は爛々と輝き、瓶以外に何も存在しないキャンバスはまるで観る者を吸い込むような違和感を持つ。
いや、違和感と言う圧倒的な存在感がこの絵の正体だと、直ぐに誰だって理解できるのに、観ることをやめられない、やめてはいけない。
「……………」
「ガン見されても困ります」
「…あー、いや、悪りぃな邪魔して。」
俺はさっさと自分の部屋に引っ込むことにした。
自室と化している美術準備室へと戻り、コタツに足を突っ込みつつ、俺は感慨深く呟いた。
「────」
成る程、入賞はしても最優秀じゃねぇ訳だ。
A☆TO★GA☆KI
支離滅裂オンパレード!!!!
誰が文才をお恵みください!
若しくは画力を!
(その画力で字書きから絵描きにジョブチェンジする)