志半ばで力尽きた作品群

□弓月いんブラックな本丸
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 獄都が斜陽に照らされ、煌々と紅く燃える頃。
肋角の執務室にて。
「刀剣の付喪神、ですか」
そう復唱する弓月は、この獄都にて獄卒として働く人外である。
 嘗ては悪逆非道の道を行く人の身であったが、没後、若くしてその命を燃やし尽くした友人に再開し、彼女の尽力により獄卒として身を粉にして働いている。
 そんな弓月だが流石に今回の依頼にはほとほと呆れた様子で、肋角に対して口を開いた。半ば愚痴を溢すように。
「人の都合で眠りにつく付喪神様を呼び起こしておいて、挙句祟り神になってしまったから神様を始末してくれとは、なんとまぁ、人とは偉くなったものだなと呆れるのですが。
まぁ私が言えたことではありませんが……というか私が戦えるとでもお思いですか」
最後に部下にあるまじき無礼な言動でした≠ニ付け加え、弓月は再び直立不動で肋角を見上げた。
 肋角は苦笑いするような気配で、且つ呆れたような目をして、弓月を宥めた。
弓月は肋角の話を脳内で噛み砕いて理解する。
一、歴史を変えられると此方の仕事が増える。
二、その上数人の獄卒の存在そのものが危うくなる。
三、漣辺りが適任だと思われるが、生憎奴は長期にわたる任務中。
弓月は漣の格付けを僅かに下方修正しつつ、渋々(もともと任務は受けるしかないが)了承した。

 そして現在。
弓月は凍えそうなほどの極寒の中、固く閉ざされた黒く巨大な門構えの屋敷の前に佇んでいた。
「是が非でも拒否すればよかったか……?」
目を凝らさずともわかる吐き気のしそうな瘴気に、うんざりとした様子で脱力する。
 とにかく先ずはと、手早く身なりを整えた。
例え祟り神に堕ちていようと、末端と言える付喪神だろうと、神は神。
自身は生者ではないし、今となっては人ですらないが元人であることは否定できないので、できるだけ恨みなど買わぬように。
身なりを整え終えると視線を上げ、もう一度深くため息をついた後、その拒絶するように閉ざされた門を押し開けた。
 肋角の話によると神域らしいそこは、とてもではないが神域には見えず。弓月は眉を顰めた。
積雪の隙間から敷かれた石畳の道が見え、先に見える屋敷には灯りなどなく、数十名の付喪神様がここにいるはずだが息遣い一つも聞こえない。
 もしや既に人の姿など保っていないのでは、と期待した途端に、何故か背後から声がかかる。濃口を切るような音と共に。
「アンタ、何だ」
気配には敏いつもりだったのだがいつの間に、などと考えている間に、ひやりと冷たい感触が首筋に触れ、次いでその箇所が熱く熱を持つ。
斬島と手合わせした時に知ったことだが、刀で斬られると痛いというより熱いのだ。勿論僅かに痛みもあるが。
「獄卒で、不破という。
貴方こそ、付喪神様で間違いないか」



続かない。

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