ようこそ学園へ 〜長編〜

□花の香り
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「しかし、まさかこれ程早くに利吉くんが来てくれるとは思わなかった。」

利吉の懸念を余所にそう半助は笑んで見せた。
心配させまいと平静を装っていた。
しかしそうすることで自分自身をも落ち着かせようとしていたのかも知れない。

「唯さんの様子は?」


「やや憔悴しているように見えましたがおそらく問題ないでしょう」


「・・・・そうか。それで学園長の方は何と?」


「やはり名前さんの身に何か起こる前には一刻も早く連れ帰るようにとの仰せでした 」


「・・・・・そう、か」


半助は呟くとやや俯いて何事か考えている様子であった。
おそらく 名前の事についてであろうことは予想できた。
学園長も言っていたように半助の性格からして自責の念にかられているのかも知れない。
しかし今それは邪念でしかなく、動こうとすれば支障をきたす。


「土井先生、一先ず私が先に中の様子を探って来ましょう」

半助自身、忍として集中力が失せてしまっている事は分かっていた。
利吉もその事に気づいているからこその申し出であろう。

「・・・ああ、すまない。お願いする。」

半助が一言そう言うと利吉は口角を少し上げてそれに答えた。
音もなく駈け瞬く間に寺の方角へと消えていった。

どうやら時刻は既に昼近いのだろう。
鬱蒼と繁ったこの森にも中天から注ぐ光が辺りを照らしている。
半助は空を仰いだ。
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