ようこそ学園へ 〜長編〜

□手繰る想い
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「名前!」

力無く崩れるその体躯を抱き留め半助は名を呼んだ。
返事はなく蒼白な顔が痛々しい。
心に錆びた剣が突き刺さるかのような痛みが走った。

(・・・・今度こそ名前を失ったりはしない!)

平静を保とうとしながらも気ばかり急いてしまう自らを必死で律した。

「土井先生!」

やや遅れて屋根裏から現れたのは利吉である。
寺では鍬や鎌といった物で武装したキリシタンたちが利吉と半助を探し始めていた。
ゆえにわざと別方向に向かい時間を稼いでいたのだが、半助と名前の姿が何時までも現れないためやって来たのであった。

「名前さんは・・・?」

抱きかかえられている名前の顔色が悪く何か体に異変があったであろう事は明白であった。

「利吉くん、急ごう。名前を早く学園へ連れ帰らなければ」

部屋を出ようとするが突如、扉が勢い良く音を立てて開いた。
咄嗟に数歩さがるが、名前を抱え融通が効かぬ半助の前に苦無を構えて利吉が出た。

外にいたのは東雲雅平であった。
行く手を阻むその眼光は鋭く獲物を狙う狼のようであり、美しい程に隙が無かった。

「三島屋から後をつけて来たか。まあ良い。その者をこちらへ。それは私の物だ。」

「名前を拐っておいて言う言葉か?」

眼裏に白い焔を宿す雅平と無情なまでに抑揚の無い半助の間で火花がぶつかり合った。

「こちらへ。さもなくば・・・」

雅平の左手が脇差しに延びカチリと鯉口が切られると僅かに現れたの刀身が妖しく煌めいた。

(土井先生。)

相手に気付かれぬようにして利吉の一瞬の目配せがあった。
高度な忍技である。
臨戦の覚悟に昂る半助であったが、そのどこか利吉の父 山田伝蔵を思い起こさせる所作に半助は我に帰った。

忍は武士ではない。
故にその役儀は闘う所ではないのだ。
むしろその知識を駆使し闘わずして目的を遂行することにある。

半助の軽い相槌を背に感ずると利吉は火遁の一手を打った。
辺りをもくもくとした白煙が広がると同時にその姿を消したのだった。
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